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□嘘つきになりたかった
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私には、好きな人がいる。


でもその好きな人には、好きな人がいる。



友達に相談したら、もう諦めなよと言われた。

そうだね、と返したものの、あの人と目が合った時とか、仕事中に話しができたとか、そういうものが重なるとどんどん諦めが悪くなってくる。

頭では分かっているのに。


更に、彼の好きな人は私の大好きな友達だった。

あの子じゃなければ諦められたのに、なんて甘い事は私は言わない。

あの子だったとしても、違ったとしても、きっと諦められないままだ。



私は、性格が悪い、しつこい女なんだ。





…だから、告白した。

あの子に取られるくらいなら、先に私が、そう思って告白した。



…――だけど答えは…










「おはようございます…」


「ああ、おはよう」


「…、デントさんって…意地悪ですね」


「…どうして僕が意地悪なのさ」


朝、バイトでレストランに来てみれば、デントさんが居たので軽く挨拶をした。
朝の準備をしていたようだ。コップや皿を丁寧に拭いている。

…やっぱりこの人は意地悪だ。そして私の様に性格が悪い人なんだ。
だってデントさんは、好きな人の為には私を物のように扱うんだもの。
そしてやっぱり私は使い捨て。
本当に好きな人と結ばれる為ならなんだってする。

…嫌な、人。


……それでも。

…私はこの人がどうしようもなく、好きだ。


バカな女だなぁと、ポッドくんに呆れられる事は多い。

だけどそれでも、最初から今まで、ずっと優しくて厳しかったポッドくんは変わらない。

変わったのは、バイトに入ってデントさんに恋をした私と。

私がバイトをしてると知ってここに遊びに来た私の友人に恋をしたデントさん。



それだけだと思う。




「……、デントさんの好きな人って…誰なんですか?」


気付いていながらの質問。

バカだ。こんな事今更きいたって、私達の関係は変わらないのに。

デントさんはコップの水滴を丁寧に拭き取り、私に手渡しながら、言う。


「それを君に言う義務はあるのかい?」


…ない。

義務なんて持ち出されたら、私の質問は成り立たない。


「…ない、ですけど…」


「君だって気付いているだろうに」


ため息をつきながらそう答えた彼に、私の心臓はどくん、と音を立てた。

…やっぱりそうなんだ。

デントさんの好きな人は…、私の…友達…。








こんなに、好きなのに。

あの子よりも私の方がデントさんの事好きなのに。

今すぐ抱きつきたい。

デントさんに抱き締め返してもらいたい。

でも、それが叶うのは私の友達だけ。

羨ましいなんてものじゃない。

嫉妬って言葉だけじゃ足らない。


…でも、好きなら。

好きだから、応援って言葉もある。



…いっそ皆で旅でもしたら…、新しい出会いだってあるかもしれない。

私にも、他の好きな人ができるかもしれない…。





「…デントさん、提案があるんですけど」


「提案?」


「旅、しませんか?」


「君と二人で?やだよ」


ばっさり却下されたのだが、私のアイデアは少し違う。
というか今のは心が傷ついた。


「違いますよ。皆でです」


「…皆?」


「…私とデントさんとポッドくん、コーンさんとトウヤくんとリカで」


リカ、その名前が出た時に、デントさんは訝しそうに私を見詰めた。

私は若干目を泳がせて唇を噛む。


「…やっぱり知ってるんじゃないか」


くく、と喉で笑うデントさんに、私は視線を床に落とした。

やっぱり、って事は、もう絶対に確定だ。

いや、ポッドくんの情報に嘘があるなんて思っちゃいなかったけど。


「本当の目的は?」


「本当の目的なんかないですよ。ただ、私の失恋を癒すのと、デントさんの恋も実っちゃえって思っただけで…」


嘘だ。

デントさんの恋なんて実らなければいい。

…本当の目的は、旅先でいい人と巡り会えないかな、という思惑なのに。

少し考える仕草をした後、彼は嫌味そうに笑う。


「僕と彼女を寝かせようって魂胆かな」


「…」


「…店はどうするのさ」


「…きゅ、休業…」


「…まあ、皆がいいなら僕はいいけど」


「…!本当ですか。…場所はまだ決まってないんですけど、どこがいいですかね?」


「…決めときなよ…」


呆れた視線を送る彼に、苦笑いするしかない私。

食器拭きを再開しながら、私達は二人で行き先を相談することにした。


「夏ですし、海とかどうすか?」

「いいけど…。君、見せられる体型なの?」

「お、女の子になんて事言うんですか!こう見えても結構胸、あるんですから」

「ふーん。…で、海の他には?」

「…カジノとか?」

「…できるの?」

「できますよ!」


以上の会話で分かったと思うが、デントさんは結構毒舌な部分がある。

それも、何故か私に対してだけ。

言いたい事を言える、っていうのは少し嬉しいけど、それは、彼が私の事を女として見ていない証拠でもある。



「…で、他には?」

「そうですね、温泉とか。あと、ホテルで旅行気分を味わうのもいいですよね」

「君って…思考がカオスだよね」

「はい?…ていうかこの案賛成でいいですよね?ちょっと皆に伝えてきます」

「まだ僕の意見………って、居ないし」




デントさんが何か言っていたけど、私は早く皆の喜ぶ顔が見たかったのでその場を走り去った。




「…、旅行か。…僕の気持ちを知ってるくせに、春菜も馬鹿な女だなぁ…」













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