PEACE MAKER短編

□願わくば後少し
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山南敬助の切腹からに1ヵ月余りが過ぎていた。季節は春、屯所に咲いていた桜の花も既に散り始めている。
新撰組一番隊隊長・沖田総司は、自室の文台で紙に書き物をした後、その紙畳んで持ち、縁側へ出ると、床に座った。庭に足を下ろし、先程書いて畳んだ紙を開いた。それを見つめる沖田の瞳は柔らかく暖かい光が差していた。




この屯所にも漸く春が訪れました。あれから一月、あれだけ暗かった筈の皆さんもいつも通りに話して笑うことができるようになりました。
あれだけ落ち込んでいた藤堂さんも漸く笑ってくれるようになりました。まだ、完全にとはいきませんが、いつもの私たちに戻りつつあります。
しかし、私の手は、刀はまだ重く感じます。介錯をした時のあの感覚が残っているのですから、仕方がありません。


桜の花も散り始めています。それはとても儚くて、美しくて、でも、見ていると少々寂しい気持ちになります。


私は、またこの春を、季節を迎えることが出来るのでしょうか。皆さんといつまで一緒に笑い合えることが出来るのでしょうか。




それだけ書かれた文。誰かに宛てた訳ではなく、自分への問い掛けの文と言ったところだ。5行の文は、紙の半分も埋めていない。この先を書こうと筆を持ったが、それがどうしても出来なかったのだ。この続きを書く自分が怖くて、寂しくて、何より悲しかったから。


沖田総司は、目を閉じて、その文を畳むと、懐へとそれを静かに閉まおうとした。


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