PEACE MAKER短編

□流れ往く雲の行方
1ページ/1ページ


ずっと前、これからも3人一緒だと約束した。そう約束したのは一体どのくらい前だっただろう。ただ、ずっと前だということは覚えている。

晴れ渡った、珍しく新八っつぁんも左之も俺も非番の日だった。あの時は確か冬だったけど、そんなに寒くなかったっけ。


そんな日に、俺たちはいつものように3人肩並べて歩いていた。


屯所から少し離れた加茂川まで来たところで、少しの間休憩をした。
川原に3人で寝転がって、空を見上げれば、大きな白い雲がぽっかりと浮かんでいた。


「なあ、あの雲って何処に行くと思う?」


不意に、新八っつぁんがそんなことを口にした。


俺と左之はお互い顔を見合わせた後、新八っつぁんの顔を見た。


「何、急にどーしたの?」


俺は訳が分からずにただ尋ねることしかできなかった。


「んー、何ていうかさァ……。雲って俺たちがあんまり分かんないぐらいゆっくり流れていってんじゃん」
「はぁ?それが、どーしたんだよ?」


俺以外にも全然理解してない奴がもう1人。
新八っつぁんはそんな俺たちを無視してのんびりと、しかし淡々とした口調で雲を指差しながら言った。


「例えば、あのデカい雲とか、あっちの小さい鰯雲とか……。どれもこれも動いてんだなーって」

「そりゃあ、そうでしょ」


一体何が言いたいんだろうと、俺は眉根を寄せて考えてみた。左之はと言えば、不機嫌なくらいに眉根を寄せていた。コイツ、俺と同じくらい分かってないだろうケド、分からな過ぎてちょっとイラついてるのか?


「……新ぱっつぁん、あんまり話引っ張ると左之が分からなくて完全にキレそうだから手っ取り早く話してくれよ」

「なっ!?俺は別にキレねーよ!」

「左之、お前声デカいっつの。近くにいるんだから聞こえるって」


耳を塞ぎながら新八っつぁんがそう言った。


「……要するにだな、あのデッカい雲だって小さいのが集まって出来て動いてるだろ?」

「うん」


俺はただ、相槌を打つしかなかった。


「だからサ、俺たちもあんな風になれたらいいなぁって、そんだけの話」

「は?」

「……だから、俺らも3人離れることなく、これからも一緒に居ようなってこと!そんだけの話!」


語尾が若干怒ったようにも聞こえたが、俺はただただ大声を出して笑った。


「何が可笑しいヨ?」


新八っつぁんが思い切り睨みつけてきた。
何かこのままじゃ怒り出しそうな気がして、俺は必死に笑いを堪えた。


「……ははっ、ゴメンゴメン。たださぁ……。新八っつぁんがいきなりそんな話するから何か……面白……」

「平助君、君俺に喧嘩売ってる?」


そう言って、俺の頬を笑いながら思い切り抓ってきた。


「いひゃい(痛い)ってば……」


俺がそう言うと、意外とあっさり頬を抓るのを止めた。


「でも、ほんっとにさァ……新八っつぁんがそんなこと言うなんて意外だったよ」

「そうか?」

「だってよォ、どんだけ当たり前なこと言ってんだよってなるよなぁ、平助」


突然左之に振られたが、言ってることは間違ってないから頷いた。


「そーだよ、俺たちはいつまでも一緒。じゃなきゃ、漫才も成立しないっての」
「そーそー、俺らの1人が欠けたら駄目に決まってんだろ」


俺と左之がそう言うと、新八っつぁんは可笑しそうに笑っていた。


「……だよなぁ、漫才三人組は永久に不滅、だな」


悪い、何か変なこと言って。俺らしくないよなぁ。


そう言って、新ぱ八つぁんは起き上がった。


「これからも、ヨロシク頼むぜぇ。お2人さん?」

「オウ」

「こっちこそヨロシクな?」

そう言って、笑い合ったことは今でもはっきりと覚えている。
その後、街で団子買ってそのまま屯所に帰ったこともちゃんと覚えてる。



でも、ごめんな。新八っつぁん、左之、
俺……約束破っちゃったよ……。

いつでも一緒だって言ったのに、山南さんが死んでから、誰も信じられなくなって
2人さえも信じられなくなって、突き放すように伊東先生の許に行ってしまった。
何で、あの時簡単に離れてしまったのだろう。
何で、新八っつぁんの問いにあんな答えられたのだろう。本当は何年じゃなくて零秒だった筈なのに……。

もし、あの時新撰組に残っていたらこんなことにはならなかったのかもしれないと思ってももう遅いんだ。

本当はお互い傷付け合うんじゃなくて、一緒に笑い合いたかった、あの頃のように。

新八っつぁん、俺の前で何て顔してんだよ。そんなに泣かなくてもいいだろ?左之もさっきからポタポタ……2人共そんなに泣かなくていいのに……。

いつもみたいに笑えよ、それが……俺達漫才三人組だろ?

意識がだんだん遠退いていく。深く深く真っ暗な場所に堕ちていく。


大丈夫、きっとまた逢えるから。


だからその日まで待っていてくれよ、新八っつぁん、左之。


END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ