PEACE MAKER短編

□とある冬の日の出来事
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冷たい風が吹き、屯所の木々がざわざわと枝を揺すり、残り少ない葉をはらりはらりと地面に落としていく。今は師走中旬、つい最近、本格的な冬が到来したばかりだ。屯所内の木の傍に、副長助勤である隊士3人の姿があった。隊内では三馬鹿と呼ばれている3人組である。突然、豪快なくしゃみが聞こえた。ふう、と小さな溜め息を吐いて、永倉新八は、隣に居た大きな図体の友人の十番隊隊長に目を向けた。


「左之……、お前さ。今の季節ちゃんと把握してる?」


新八にそう問われて、鼻を啜っていた左之助は彼に目をやった。


「ああ?ちゃんと把握してるに決まってんだろ。今は冬だ!」


そう答えると、今度は左之助の隣に居た平助が苦笑を滲ませながら言った。


「いや……、だったらいいんだけどさぁ……」


はっきりしない新八と平助の言葉に、左之助は思い切り眉を寄せると、不愉快そうに口を開いた。


「ったく、何だよ新八っつぁんも平助も、何でそんなに煮え切らねぇ言い方すんだよ!?」


そう言った後、またしても豪快なくしゃみが飛び出した。そのくしゃみを見た後、新八と平助は顔を見合わせた。そして、新八だけが頷くと、左之助に声を掛けた。


「……だって、お前着物1枚しか着てないじゃん」


新八の言葉に続けるように平助も口を開いた。


「せめてさ、もう1枚ぐらい上から羽織れよ」

「ああ?何でだよ?」


はあ、と盛大な溜め息が新八と平助から漏れた。左之助は訳が分かっていないらしく首を傾げて2人の顔を交互に見た。


「だって、こんな冷え込んだ日に、着物1枚って……。見てるこっちが寒いんだよ」


新八がそう言うと、左之助は更に首を傾げた。


「俺は寒くねぇぜ?」


いや、さっきからくしゃみ何回もしてるだろうとツッコみたい気持ちを抑えて、新八は苦笑を滲ませた。一方、それとは対照的に、平助は左之助の肩をばんばん叩き、笑いながら言葉を発した。


「だよなあ。だって、お前脳みそも筋肉で出来てそうだもんな。寒さなんて感じないよなあ」

「お?おうよ!俺は寒さには屈しねぇぜ!」


豪快に笑う左之助と平助の様子を見ていた新八は、平助が先程左之助に言った言葉にハラハラしていた。口には出さなかったが、彼は心の中で呟いた。


『平助の奴、どんだけ危ない橋渡りゃあ気が済むんだよ!左之も笑ってるけど、完全に馬鹿にされてんだぞ?……いや、でも……』


新八は、2人には、否、すぐ隣に居る左之助には聞こえないような小声で呟いた。


「本当に、左之が鈍くて良かった……」


そう、もし左之助の察しが良かったならば、今頃平助はあの大きな腕で首でも締められていたかもしれない。平助の言う通り、本当に左之助の脳みそは筋肉で出来ていて、寒さに鈍いのではないかと思った。いや、でも完全にくしゃみをしていたのだから、少しは寒いのだろうと思うのだが。全く、こいつの身体は未知数だと新八が考えていた時。彼の耳に、平助の声が入ってきた。


「なあなあ、あれ!」


新八は、下らない考え事から一気に現実に引き戻された気がした。平助の方を見れば、彼は屯所の方を指差していた。新八がその指の差された位置を目で追った。彼らの少し離れた場所から見えるのは、屯所全体だ。平助は、完全に長い縁を指差していた。やがて、聞き覚えのある声と、鳴き声で騒がしくなってきた。


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