長編

□第珠話
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隊内で粛清が行われた。その日から一体どのくらい経ったのだろうか。今までも、粛清は行われてきた。でも古くから知っている、大切な人が1人亡くなったなんて、未だに信じられない。皆、憔悴していた。私が廊下を歩いていると、不意に、がらりと障子が開いた。その相手の顔は、相変わらず判別できない。でも、険しいような、悲しそうな顔をしていることは感じ取れた。


「……俺さ、新選組辞めるから」

「え……?」


その短い言葉に、私は頭を酷く殴られたかのような衝撃を受けた。一体、どうして?何で?何故新選組を辞めるのか……。理解が出来なかった。


「……先生に付いて行く。御陵衛士の一員として、な」


先生の名前は分からなかった。でも、何で貴方はあちらへ行ってしまうの?どうして、ずっと一緒に過ごしてきた試衛館の仲間を捨てて、あちらに行くの。何で、どうして……!
そう思っていると、その人に肩をぽんと叩かれた。


「……そんじゃあな」


待って、行かないで。貴方が行くのならば、私も連れて行って。そんな思いは喉に詰まって、声として伝えられない。最悪の場合、敵として対峙する可能性だって少なくないのに……。私は、遠ざかって行くその人に手を伸ばし、声を振り絞った。


「待って……、……助!」



そこで、目が覚めた。勢い良くベッドから起き上がり、片手で頭を抱える。
また、過去の記憶の夢だ……。そして、その夢は初めて見るものだった。やはり、大学に入学してからいうもの、小さい頃から見続けている夢は明らかに変化をしている。それは、断片的だったり、はっきりしたりと安定しない。ただ、今見ていた夢は、私を不安にした。
隊内で、誰かが死んだんだ。それだけでもとても重苦しい気分なのに、誰かが私の前から去ってしまう。それが、とても辛くて、でも、止めることができなくて。
不意に、涙が一筋頬を滑り落ちた。目覚まし時計を手に取る。8時を過ぎていた。昨日の部活帰りに買ったパンを食べて、お茶を飲む。これで、朝食は終わりだ。


剣道部の予選を見事突破して全国に行くことになったあの試合から、既に1ヵ月近く経過していた。既に前期の試験も終了し、今日が再試の発表日。夏休みでも大学に行かないといけない。……まあ、私の場合、部活があるからほぼ毎日通学しているようなものだけど。確か、結果の貼り出しは14時だったよなあと頭の片隅に置きつつ、部活に行く為の準備をする。試験の結果次第で、合宿に行けるか行けないかが決まるのだから、ある意味今日と言う日は重大だ。取り敢えず、それなりに部屋を整理し、部活に行く準備を整えて確認した後、寮を出た。


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