長編
□第陸話
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現在、12時50分前。私は、昨日部活の帰り掛けにコンビニで買った菓子パンを食べながら、棚の上に置いていた目覚まし時計に目をやった。
昨日、部活動の中で昼食を食べている時、平助君に今日付き合って欲しいと私に言った。一体何に付き合うのか、何処に付き合えばいいのか良く分からないが、迷いに迷った私は、アユ姉の後押しもあり、平助君の誘いに乗ることにした。
確か、1時にこの寮に来るって言っていたっけ……。そんなことを頭の中でぼんやりと考えながら、私はそろそろ下に行こうかと考える。
服装は、いつも通り。大学に行く時と同じもの。別に、着飾る必要はないだろうし、いつも通りの方が何かと気が楽だ。
「……そろそろ、下りようかな」
独り言を呟いて、私はバッグに財布や携帯などの貴重品を入れると、部屋を出た。鍵を閉めようと、ドアと向かい合わせになった時、背後から声が掛かって、私は振り向いた。
「葵ちゃん、今からお出掛け?」
「あ、詩織ちゃん……」
私に声を掛けて来たのは、隣の部屋に住んでいる佐藤詩織ちゃん。私と同学年で、セミナーは違うものの、講義がよく一緒になることと、部屋が隣同士なこともあり、それなりに仲良くしてもらっている。この大学で初めて出来た女の子の友人だ。
「詩織ちゃんは、買い物に行ってたの?」
私は、詩織ちゃんが提げているレジ袋を見ながらそう言った。
「うん、そうなの。今からお昼作ろうと思ってね……。あ、そうだ」
詩織ちゃんは、何かを思い出したのか、私を手招きして来た。何かと思い、私は彼女に近付く。
「そう言えば、寮のすぐ前で待ってたよ。えっと、藤堂君、だっけ……?」
「えっ……!?」
「葵ちゃんのことを待ってるんじゃないのかなって思って……」
そう言い終えると、いってらっしゃいという言葉を残して詩織ちゃんは笑顔で手をひらひらさせながら部屋に鍵を開けて部屋に入った。
「もう、待ってるんだ……。早く行こう」
そう言いながら、私は足早に階段を駆け下りた。
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