長編

□第肆話
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満月が昇っている。辺りは月明かりに照らされただけの暗い路地。そこを、私は必死に走っていた。息を切らしながら、誰かを必死に探しているのだ。


「……っ」


私は誰かの名前を呼んでいた。しかし、一体誰の名前を呼んでいるのだろうか?友達?家族?それとも、知らない誰か?
全く判らないが、ただ判るのは、この場所が現代の雰囲気では無いと言うこと――まるで、時代劇に出てくるような木造家屋……、長屋と言うのだろうか。そんな建物ばかりだ。ビルも、電柱も、街灯も何もない。月明かりだけを頼りに私は当てもなく走り続けている。
逢いたい、逢いたい、逢って無事を確かめたい。そんな感情ばかりが私の頭を、心を支配している。
ねえ、貴方は一体何処に居るの?


「……助っ!」




誰かの名前を呼んだ瞬間、目が覚めた。私はゆっくりとベッドから身体を起こす。


「あの……夢……?」


起き上がると、目に溜まっていた涙が頬を伝う。ああ、やっぱりまたあの夢だ。悲しくて、苦しくて、切ない。そんな雰囲気と感情が混ざり合う、時代劇の世界のような夢。
ただ、私はふと冷静に考える。


前に見ていた夢では自分は走っていなかった。そして、呼ぶ名前が薄らと判った。


「……助?助って誰だろう」


助と言う音の前にもう一文字、何か漢字が付くのだろう。そうすれば、名前は完成しそうだ。この名前から推測するに、相手は男性になる。私は、一体誰の名前を呼んでいたのだろうか。昨日知り合ったばかりの人達の顔を不意に思い出す。でも、途中で何故だか苦しくなって考えるのをやめた。


「朝ご飯の時間までもう少しあるな……」


近場に置いていた時計を見て、私はぽつりと呟いた。今は、午前7時前、いつもならもう少し寝ているのに、夢に起こされた。
大学の寮には食堂があって、月曜から金曜日まで3食出される。土、日は、食堂は開いておらず、自分で自炊したり好きなものを食べていい。
私は涙を手の甲で拭うと、洗面所で顔を洗って、軽く口をすすいで、そして着替えた。流石にこれ以上眠る気にはなれない。


暫くぼーっとしていると、時間は7時20分になっていた。朝食の時間は7時30分。


「そろそろ行こうかな……」


そんな言葉を1人呟いて、私は荷物を持つと部屋を後にした。


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