長編

□第参話
1ページ/13ページ


剣道場はとても広く、そして綺麗だった。それが、第一印象。
先程まで鉄君が床拭きを頑張っていたのだろう。清潔感がある。きっと、土方先生が厳しく指導をしているのかなあと、鉄君が雑巾を洗いながら独り言で土方先生に文句を言っていたのを思い出す。
私は、道場の隅で辺りの様子を窺っていた。中学、高校の武道場と同じような内装、ただ、一点だけ違うのは、ここが、剣道専用の道場だと言うことだ。

道場に入って早々、皆慌しく動き始めていた。木刀や竹刀を生で見るのは初めてだし、皆が着ている、道着と言うのだろうか……。それがますます古風な感じを醸し出す。そんなことを思いながら、私は近くに居た平助君に駆け寄った。


「平助君、何か手伝うことない?」


ここはしっかりしなければと思った。今日1日手伝いを自ら引き受けたのだし、おろおろしていたら、参加できなかった山崎君の代理として失格だと思うし、何より後日、山崎君に文句を言われそうで怖かった。
平助君は、私の方を見ると、うーんと少し唸って、考える素振りを見せた。


「ええっと、竹刀とかは俺が運んでる分で終わりだしなあ……。あ、そうだ!新八っつぁん、左之」


何かを思い付いたのか、平助君は竹刀を置くなり、新八さんと左之さんに声を掛けた。


「んおっ?どーしたよ、平助」


真っ先に反応を返したのは、左之さんで、それに少し遅れて新八さんが平助君の方を見た。


「一体どーしたのヨ?」


平助君の元に、2人が集まってきた。平助君は、私の両肩を後ろからぐいっと押して、新八さんと左之さんの前に押し出された。
一体何事かと思ったその時、平助君が口を開いた。


「大方準備も終わったことだしさあ。ほら、葵ちゃん、審判とかもしたことないみたいだし、軽ーく教えてやった方がいいんじゃないかと思ってさ!」


楽しそうに喋る平助君に、左之さんは、そうだったな!と笑って頷いていたが、新八さんは、2人とは少し違う様子だった。どう言えば良いのかは分らないが、新八さんは私と平助君、左之さんを順番に見ていた。まるで、私達の様子を観察でもするかのように。


「……んじゃあ、始めるか」


新八さんは軽く息を吐いて肩を竦めてから、漸く口を開いた。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ