長編

□第弐話
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はあー、と長い溜め息が口から零れた。

私は今、図書館の長机に頬をくっつけて、少し深めに椅子に腰掛けてぼーっとしていた。前には窓があり、太陽の陽気がぽかぽかと気持ちがいい。
午後からの講義は、殆どがオリエンテーションのみで案外早く終わってしまい、大分時間が空いてしまった。何故講義が終わっても寮へ帰らないのかと言うと、夕方から剣道部の手伝いをするためだ。
用事で帰ってしまった山崎君の代わりとして審判を務めることになったのだが、今となっては、何であの時何で平助君の頼みを断らなかったのだろうと後悔し始めていた。
大体、剣道初心者の私が審判なんて出来る筈がない。左之さん達が基本的なルールを教えてくれると言っていたが、正直教えられても上手く出来る自信は無い。
運動能力も動体視力もあまり高い方ではないし、運動部に関わるのは向いていないことは自分が一番知っている。だから、中学から高校までずっと帰宅部を貫いてきたのだ。なのに、大学に入ってから、まさか剣道に関わるなんて思ってもいなかった。
……まあ、でも、別にマネージャーでもないし、今日は山崎君の代役を頼まれただけだから、講義の時以外、彼らとは関わることは無い筈だ。無い筈、なのだけれど。


「…………はあ」


口からまた溜め息が漏れた。さっきから溜め息ばかり吐いてしまう。今日限りの代役か、なんて、と思ってしまった。
大体、今日初めて会った同級生や先輩達に随分とフレンドリーに接して貰っている気がする。平助君や左之さん、沖田さんは特に。
山崎君は性格が髪の毛と同じでツンツンしていて、あまり得意ではないし、新八さんは平助君達と同じように接してくれているように見えて、少し違う感じがする。斉藤君もどちらかと言えば、新八さんと同じ感じがする。
そして、古典文学の時の土方先生の言葉は、いまいち分からない。あいつらを頼むって一体私に何を頼むつもりなんだろうか?怖い先生だって聞いていたけれど、あの時の表情は穏やかだった気がする。

私は、何度目になるか分からない溜め息を吐いて、頬を机にくっつけたままゆっくりと目を閉じた。


あーあ、早く時間が過ぎないかなぁ……。


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