その他短編

□Eden of…
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青く澄み渡った空、その空の色を映し出す広大な海、そして緑豊かな草原その傍には美しい花々が咲き誇っている。まさに楽園と呼ぶに相応しい場所。
草原の上に寝転がって、金髪の青年は手の平を上に翳しながら空を眺めていた。指の隙間から射し込んでくる太陽の日差しに青年は思わず目を細めた。こんなに平和な日々を過ごすのは一体いつぶりなのだろうと、考えることがある。戦争も何も無い本当の平和な日々。初めはこの景色に慣れなかったが、次第に慣れてきて、今ではこれがごく普通のこととなっている。
前に見た空は、ここほど澄んではいなかった。空には多くのMSが飛び交い、色はくすんでいた。海面にも戦いの残骸がそこかしこにあった。しかし、今この場にはそのような光景は微塵も無い。太陽の光に目を細めながらぼーっとしていると、突然目の前が影に覆われた。青年は思わず目を瞠り、驚いていた。


「うわっ!?」


叫んでから勢いよく飛び起きると、突然のことに反応できなかった人影と思い切り頭同士衝突した。2人とも咄嗟に頭を押さえ、その場で停止した。金髪の青年は、頭をぶつけた相手の顔をしっかりと見た。オレンジ色の特徴的な髪型の青年がそこにはいた。


「……ミゲル。お前いきなり起き上がんなよぉ」


いつもより情けない声音で、オレンジ色の髪の青年は金髪の青年―ミゲルを睨みつけた。一方ミゲルは頭を痛む押さえつつオレンジ髪の青年に謝った。


「す、すみません……。っていうか、突然覗き込まないでくれますか?ハイネ先輩」

「まさかそんなに驚くとは思ってなかったんだよ、こっちも」


ハイネと呼ばれた青年は、明らさまに不機嫌な顔でミゲルの顔を見たが、やがて姿勢を直すとミゲルの隣に座った。そして、ハイネは苦笑しながら言葉を発した。


「……それにしても、俺たちって声似てるよな。気味悪いぐらい」


突然そんなことを言われたが、それはミゲルも以前から思っていたことなので、ただただ苦笑するばかりである。本当にそっくりな声であることは認めざるを得ない。


「…世の中そんな奴もいますって」


それにしても、とミゲルは海を見つめながら呟いた。


「“ここ”は平和ですよねぇ。信じられないくらいに」


目を細め、海の遠くの海を見つめる。本来なら、彼らは今も戦っていた筈だったのである。こんな平和な場所では無く、MSが飛び交う戦場で。こんな平和な場所があっていいのかと思うくらい、ここは平和だ。それは、ずっと思い続けてきたこと。
不意に、何処からか馴染みのある音が聞こえてきた。清らかで、優しいピアノの音。暫くはそれに耳を傾け、暢気に座っていたハイネとミゲルであったが、いつの間にやらピアノの音は聞こえなくなっていた。その代わりに、彼らに近付いて来る気配がした。後ろから規則正しい音がする。振り返れば、まだ幼さの残る緑髪の少年が立っていた。


「先輩方、ここで何をされているんですか?」


まだ幼さの残る声の少年は、腕に楽譜を抱えてミゲルの隣に腰を下ろした。緑の軍服と、赤の軍服がそこに揃う。ミゲルは両隣の2人を見て、項垂れた。そしてぽつりと呟く。


「そっか、赤なんだよなぁ……」


自分の着ている緑の軍服と、両隣の着ている軍服は赤。しかも、緑は一般で赤はエリート。ハイネに至っては特務隊FAITH(フェイス)の紋章を付けているのだから何となく居心地が悪い。幼さの残る少年が困った笑みを浮かべてミゲルに声を掛けた。


「ミゲル先輩、何だか元気がないですけど大丈夫ですか?」

「……何だかニコルが来て更に居心地悪いよ。だって先輩もニコルも赤だからさぁ」


ニコルと呼ばれた少年はハイネと顔を見合わせるとお互い苦笑した。ニコルよりも2期上の筈なのだが、階級は違う。ハイネとだってあまり変わらないのだろうが…そんなことを考えると余計に落ち込む気がしたのでこれ以上考えるのはやめた。


「『黄昏の魔弾』って呼ばれてた奴がすげぇ落ち込んでるよ」


そう言ってハイネは笑う。それにつられるようにニコルもくすくすと笑っていた。


「先輩、随分と懐かしい異名を出しましたね。そんな呼ばれてたのなんていつ頃だったか」

「MSを強奪したとき、辺りじゃないですか?あの時は先輩のジンが……」


ニコルの言葉を遮るようにミゲルが口を開いた。


「ああ、そうだよ。俺のジンはあの時修理してたんだ。だから使えなかった。だから結果的に、ストライクに負けたんだよ俺は!」


怒った調子で言うミゲルである。ニコルも流石にまずいと思ったようですみませんと謝った。


「ったく、思い出したくないこと思い出させやがって…」

と、隣に座っていたニコルの頭を軽く小突いて見せた。その時、ニコルの持っていた数枚の楽譜が風に乗って海の方へ流れるように飛んでいった。


「あ、楽譜!」


そうは言って腰を上げてみたものの、どうすることもできなくてまた座り直す。いいのか?とハイネが聞いた。


「あれ、何度も弾いた曲だから覚えているんですよ。だから、なくても大丈夫ですなんですよ」


そっかと返して、暫くの間沈黙が流れる。風の音や、打ち寄せる波の音、微かに流れる花の香り。本来、彼らには1番縁の遠いものであり、それが今一面に広がっている。もう慣れた筈なのに、何処か居辛い楽園のような場所。静かな中でニコルは何となく呟いた。


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