その他短編

□海のMemory
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気が付けば、虚空な場所に佇んでいた。
何も無い、辺り一面が白い光に覆われている無の世界……。


これは、夢なのだろうか?


ゆっくりと歩き始めても行く当ては無く同じ白い無の世界を彷徨い続ける。


やがて、先の方にこことは違う世界が開けてきた。




そこは、海だった。綺麗な、透き通った青い、蒼い、海。




ああ、これは本当に夢の中なのだと実感する。


白い砂浜で、裸足になって子供のように海の水と戯れる少女が目の前に、居る。


崖から海に落ちたのを、僕が助けた少女。


僕に桜貝をくれた優しい少女。


強化人間(エクステンデッド)として、僕の前に現れた少女。


そして……


あの日、美しい湖の底へと消えて逝った少女。


「ステラ……」


少女の名前を呼んだ。


それに気付いたステラは笑いかけて名前を呼んでくれた。


「シン」


嬉しそうに、優しく微笑んで、呼んでくれた。


もう二度と逢うことができないと思っていた彼女がこの夢の中で、今確かに目の前に存在している。


ステラはにっこりと微笑むとゆっくりと口を動かした。


「シン、ずっと逢いたかった……」

「うん、俺も」


そう返事をすると、本当に嬉しそうに笑ってくれて……。


「シン……、シンの傍にステラいつも居るから……。だからね」


そこで一旦言葉を切った。


「だから、何?」


こちらから聞いてみるとステラはまた言葉の続きを言い始めた。


「ステラが傍に居てシンをずっと守るから……。だから、シンに生きて欲しいの」


子供のような話し方でステラはそう言うと悲しそうな、儚げな笑みを浮かべた。その瞬間辺りが霞んできて、ステラの姿も消えていった。
見えなくなりそうな寸前に、ステラの声が聞こえた。


シン……、好き。


夢から覚めるとそこはいつもの自分の部屋だった。俺はベッドの上で両手を握り合わせた。


夢の言葉と、亡くなる寸前の言葉が重なって、涙が溢れそうだったが、それを堪えて笑って見せた。
姿は無くても、俺の傍に居てくれるんだから悲しむ必要は無い。それに悲しい顔をしたらきっとステラも悲しむだろう。


これからは、前を向いてステラのために、ステラの分も生きて行こうと誓った。


END

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