その他短編

□暖の箱庭
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昼を少しばかり過ぎた頃、木枯らしの吹く中でその流れに従って、焚き火の火がぱちぱちと爆ぜながら揺らめいている。家の庭の一角で、家の主人である京極堂――中禅寺秋彦――は、焚き火の前で、揺らめく朱色の炎を見つめていた。静寂な帳が包んでいた辺りが、不意に騒々しくなって、京極堂は普段の仏頂面に加え、眉間にぐっと皺を寄せた。こちらに近付いて来る地面を踏みしめる音に、仏頂面の彼は、更に凶悪な顔を後ろへと向けた。


「おお!仏頂面男が更に凶悪犯みたいな顔になっているじゃあないか!実に傑作だなあ!」


鳶色の髪に同系色の瞳を向けた陶磁器西洋人形(ビスクドール)のような男が、こちらにずかずかと歩いて来た。それだけでは終わらず、彼は後ろに、猫背で居心地の悪そうな顔をしている小説家、関口巽を引き連れていた。


「……一体、何しに来たんです?」

「何しに来たって、そりゃあ遊びに来たに決まっているじゃあないか!」

「何故遊びに来たこと前提なのですか?……それで、榎さんの後ろでうじうじしている君は、何しに来たのだね?」

「い、いや……、僕は……」


そう言いながら、陶磁器西洋人形のような男――榎木津礼二郎――の後ろで視線を右往左往させている関口を見た。


「ところで、何で京極堂は焚き火なんてやってるんだ!?加持か、祈祷か!?」


無邪気な子供のように訊ねてくる榎木津に、京極堂は、半ば呆れた声音で口を開く。


「実は、今朝からよく冷えていたので、火鉢を出したのだがね。運んでいる途中で、炭が無いことに気付いてね。仕方なく近場に炭を買いに行ったものの、店が定休日だったのだ。だから、こうして仕方なく焚き火をしているんだ。それで、榎さん達は何しに来たんです?遊びに来たって言うのは上辺だけでしょう?」

「まあ、正直に言えばそうだナ!実は、うちの火鉢が昨日壊れてしまってね。ここに来れば温かい部屋でゆっくりと眠れると思ったんだ」

「……どうすれば、火鉢が壊れるんです?そして、僕の家を居眠りに使わないでくれ」

「……昨日、榎さんは木場の旦那と喧嘩したらしくて、その最中火鉢が割れてしまったらしいんだよ。僕は、所用で榎さんの所へ行ったんだが、火鉢が無いから、京極のところへ行くぞって巻き込まれて……」

「まあ、おおよそそんなことだろうとは思っていたよ。それにしても、巻き込まれたからと言って、君もわざわざここまで付いて来なくてもいいだろうに」


うう、と唸りを上げる関口に、京極堂は嘆息して、縁に腰掛けた。その隣に遠慮なく榎木津が座る。関口は立ったままおろおろとしている。座ればいいのか、その場で突っ立っていいのか迷っていた時、また来客が来た。


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