その他短編
□微笑み送り
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当たり前のことが、いつまでも続く。ずっとそう思っていた。
夜遊びと吐き気に疲れて白澤様が寝ている間に、俺は鬼灯さんに頼まれていた薬を届けに閻魔殿へと向かった。閻魔大王や獄卒に挨拶をしながら、俺は鬼灯様の姿を探した。すると、彼はすぐに見つかった。
漆黒の着物に鬼灯の模様、がっしりとした長身。その姿は後ろ姿でもよく目出つ。俺は、後ろから駆け寄った。
「鬼灯さん!」
名を呼べば、鬼灯さんは立ち止まってこちらを振り返った。三白眼の目がこちらを見つめている。
「おや、桃太郎さん。一体どうしました?」
「これ、鬼灯さんが頼んでいた薬です」
「ああ。ありがとうございます」
鬼灯さんは礼を言って、薬を受け取ると同時にこちらに代金を渡した。俺はどうも、と軽く会釈した。よし、まだまだ仕事があるから店に戻ろう。そう思った俺は、それでは、とまた頭を下げて帰ろうとした。が、今日は何故だか、桃太郎さんと珍しく呼び止められたのだ。俺は踵を返し掛けた身体を鬼灯様に向けた。
「一体どうしんたんですか?」
「貴方にお話ししたいことがあるんです。ここは獄卒達も多く居ますから、人気のないところに行きましょうか」
俺に話したいこと?一体何なんだろうか。俺は、鬼灯さんに言われるがままに、彼の後をついて行くことにした。
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