その他短編

□怨念渡し
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机上に、筆やボールペンなどで書かれた書類が少々無造作に置かれていた。能面のような無表情で黙々と紙に字を綴っていた鬼灯は、ふと、紙面から顔を上げて、澱みなく動かしていた手を小休止させた。現在彼は、自室にて書き物を進めている。書き物と言っても、趣味ではなく、全て仕事だ。
閻魔大王の補佐官である彼は、今まで書き物を書いては整理をするという単調な作業をこなしていた。
そんな彼が手を小休止させ、自室にあるとある瓶に目を留めた。彼はすくっと立ち上がると、棚の上に置いてある小瓶を手に取った。

その瓶の中には、禍々しいとも、おどろおどろしいとも取れる液体が入っており、時折不気味な呻き声などが聞こえてくる。これは、以前獄卒である茄子から貰ったもので、日本画で使われている群青の元になるラピスラズリと言う高級な原材料の代わりに、黒縄(こくじょう)地獄の岩を使用して絵の具を作った結果、呪いや恨みが詰まったものになったらしい。その絵の具を閻魔殿の壁画に勝手に使用して、『本当に手を食い千切る真実の口』を創り上げてしまったのであるが、それでもまだ絵の具は残っている。
ふしゅううううという音や、おのれえええ、と言う声が瓶から溢れ出して来る。それを手に持ったまま、鬼灯は顎に手を添えて、思案顔をした。


「……これ、何か使い道ありますかね」


そう呟いた鬼灯は、机上に瓶を置き、一通り仕事を終わらせてから、外へと繰り出した。



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