その他短編

□温まる為に
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「敦君達は何買って来たの?」


帰りに社員全員が帰路で会った。それぞれが買って来た具材が気になったのか、乱歩が口を開く。


「えっとですね、僕等は蟹と、白滝と、葱と、鰹と、豆腐ですかね……」

「うわ、普通だねえ。ちなみに僕は、練ると色の変わるお菓子と、チョコレートと……」

「乱歩さん、それ具材じゃなくておやつだよ。ちなみに妾(アタシ)は酒とつまみと……」

「与謝野さんも鍋よりその後の晩酌じゃないか。谷崎君達は?」

「僕等も敦君のところと大して変わりませんよ。豆腐とか、榎とか……」

「ふうん、賢治君は?」

「僕はお肉ですね。本当は牛一頭売ってるのかなって思ってたんですが、都会のお肉は加工済みでした!凄いです」


目を輝かせながら云う賢治に、流石の乱歩も苦笑いを浮かべていた。流石と云えばいいのか如何なのかは分からないが、賢治らしいと云えば賢治らしい。


「と、取り敢えず、買って来た具材で美味しい鍋は出来ますね」


明るめに敦がそう言うと、隣を歩いていた鏡花がこくりと頷き、太宰や国木田達も淡く笑っていた。探偵社への帰路の途中、敦は店の硝子をそっと見やる。そこに映るのは、やはり昔の自分よりも幾分も明るい自分の顔。そして、沢山の社の先輩達と少女。
こんな光景を、誰が想像していただろうか。否、自分でも信じられない。一癖も二癖もある、自分と同じく様々な異能力を持つ探偵社の人々と関わって今日まで過ごしてきた。大変な依頼も、怪我をすることだって多い。それでも、孤児院に居た時よりも充実している。生きていると思える。

ふと、硝子に小さな白い結晶が付着した。何かと思い空を見上げると、雪が降っていた。


「おお、細雪だね。谷崎君の能力みたいだ」

「今日は能力使ってませんから、本物、ですね」


目を丸くして手を広げ、感嘆する太宰に、谷崎も年相応の笑みを浮かべながら話す。はらはらと舞い落ちる雪は、冬の本番を伝えているかのようであった。


「それじゃあ、帰ったら鍋作って温まろう!」


無邪気な子供のように言う乱歩に、皆苦笑を浮かべながら探偵社の入り口へ一歩を踏み入れた。


END
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