その他短編

□微笑み返し
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漸く、吐き出すものを全て吐き出して、トイレから出ると、桃タロー君が薬の調合をしていた。カウンターに、湯呑がぽつんと置いてある。


「白澤様、黄連湯ならそこですよ」


桃タロー君は、薬の調合をしながら視線だけを湯呑みに向けた。僕はその湯呑みを手に取りながら彼に礼を言う。


「しぇ、謝謝。桃タロー君。助かるよ……」


そして僕は黄連湯を一気に飲み干した。すると、何処かほっとする。二日酔いには持ってこいだ。近場にあった丸椅子に腰を下ろす。
僕は一息吐いた後、大欠伸をした。背筋を思い切り伸ばしてもう一つ欠伸をする。


「今日は休業にしますか?どうせ、今から働くなんて無理でしょ?」


桃タロー君は、何らかごそごそと作業をしながら、顔を見なくても分かる、呆れたような声音でそう言った。


「う〜ん……、そうだねえ……」

「俺は、先日頼まれてた金丹を鬼灯さんのところに届けて来ますけど……」

「うっわ、二日酔いしてる時に、1番聞きたくない名前聞いた萎えた……。もうさあ、行かなくていいんじゃない?いっそのことあいつの注文スルーしたら?」

「いや、そりゃダメでしょ」

「僕だって、あいつの注文でいちいち作りたくないし〜」

「お前最近ロクに仕事してないだろ。全部俺に回って来てるだろ。お前のやってることと言えば女子と遊んでるだけじゃねえか!」

「だって、それが僕に1番合ってる生き方だし……」

「うっわ、開き直りやがったよ……」


彼の顔を見れば、驚く程どん引きしていた。一般的に弟子が師匠にする言動じゃないことも、彼は平然とやってのけてしまう。まあ、それだけ僕が常に仕事を彼に押し付けている結果だから、こっちも反論はしない。まあ、それでも別に特段反省はしない。むしろ開き直るのが僕らしい。


「それじゃあ、閻魔殿に行って来ますね」

「いってらっしゃ〜い……」


僕は、ひらひらと手を振って、桃タロー君を見送った。ぱたん、とドアが閉められる。僕は、大きく溜め息を吐くと、よっこいしょ、と爺臭い掛け声と共に立ち上がった。
そして、若干ふらついた足取りで自室に向かう。
部屋に入るなり、僕はよろよろとしながらベッドに身を沈めた。ああ、敷布が冷たくて気持ちいい。これで、女の子が居れば最高なのに……。そう思いながら、僕は枕に顔を埋めてそのまま意識を深淵に追いやった。


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