長編

□第弐話
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目を閉じて少ししてから、私は薄っすらと目を開けた。そう言えば、とぼんやりとした頭の中で考える。


「……あの夢」


ぽつり、と小声で呟いてみた。夢、小さい頃から見ていて、最近見る頻度が増えてきたあの夢は一体何なのだろう。ふと、そんなことを思った。
薄っすらと目を開けたまま、ぼんやりした頭を何となく働かせてみる。


私の見る夢は、本当に朧げで断片的なものだ。目を軽く閉じて夢の雰囲気を思い出す。


あの夢は、いつも夜で綺麗な月が昇っていた。そして、月が見える肌寒い外。周りの建物が何となく時代劇に出てくるようなものだった気がする。他に、何人か人も出てくるし、私自身もその場に居るのだけれど、その後がいつも思い出せない。人の顔も思い出せない。
ただ、朝起きると、涙が頬を伝っているのは私の約束事になってしまっている。


「あっ」


そう言えば、目の覚める最後の辺りで私は何かを叫んでいた気がする。それが誰かの名前なのか、それとも言葉なのかは分からない。ただ、ただ、その時悲しくて叫んでいたから、涙が零れているのかもしれない。


「きっと、“ただの夢”だよね?」


私はそう呟いて机から頬を離すと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。折角図書館に来たんだから、その辺の本棚を回ってみよう。そう思い、ゆっくりと歩を進め、自分の座っていた席から遠ざかった。



本棚を探索している内に、この大学の図書館は今までとは違うことに気が付いた。
それは、歴史物の図書が多いこと。時代も様々だが、若干江戸時代の本が多いような気がする。例えば、坂本龍馬とか、高杉晋作とか、陸奥宗光とか。私でも知っている有名な幕末の志士の本等があった。しかし、私の目に入ったのは、新選組の本だった。
何の気なしに、手を伸ばして一冊手に取ってみる。そして、パラパラとページを捲った。


新選組局長・近藤勇、副長・土方歳三、山南敬助、一番隊隊長・沖田総司……。聞いたことのある有名な名前だけど、それ以上に気になったのは、新選組の人とこの大学の教授や学生と同姓同名と言うこと。

そのようなことを考えながら、更にページを進めていく。二番隊隊長・永倉新八、三番隊隊長・斉藤一……やはりここの学生と同姓同名の人物達。
ここまで、歴史上の人物とこの大学に居る人間の名前が一致することは、奇跡だと思う。いや、奇跡を通り越して何処か不気味かもしれない。ページを捲りながら、一人一人の名前と、今日初めて会った先輩、同級生の顔を一致させていく作業が簡単に出来る。
七番隊まで来た。その次のページを開こうとした時、突然私の手が止まった。まるで、何かの拒否反応をしているかのように、手が動いてくれない。
一体何でなのだろう。次のページを捲りたいのに捲ることが出来ない、それ以前に。


やけに、心が苦しくなった。


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