その他短編

□怨念渡し
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その夜、風呂敷からしてみた小瓶は、如何にもグロテスクな色と声を発していた。怨念の籠った声が延々と吹き出して来る。これが、絵の具とかありえないだろうと思った白澤は、先刻鬼灯の言った言葉を思い出していた。


『貴方の絵はあまりにも酷くて見ていられないので、いっそのこと練習をしてみては如何かとこれを持ってきました』


その言葉をが脳裏に再生され、白澤は眉間に皺を寄せた。自分の絵の何処が酷いと言うのか。思ったよりもちゃんと描けているよと愚痴を零していた彼の目に、たまたま部屋に散らばっていた紙が映し出された。気味の悪い瓶と、紙を交互に見つめると小さく唸ってその辺に転がっていた筆を手に取った。
瓶の蓋を開ければ、黒っぽい煙が昇ってきた。うっそりと目を細めた白澤は、恐る恐る筆に絵の具を付けてみた。


「試しに描いてみるか……」


生唾をゴクリ、と飲み込み、近場にあった紙に、小さな何かの絵を描き始めた。それは、犬なのか猫なのか、全く得体の知れない動物になっていた。頭に付いた三角の耳と、目と鼻と口、4本足を描いているので、動物だとは分かるが、その絵は一言で言えば呪われたような絵であった。
暫くの間、自分の描いた絵を黙って見つめていた白澤であったが、やがて、絵に変化が起こった。ぼこぼこと浮き出してきた絵は、おのれえええ、などと恨みの言葉を発して大きく口を開くと、白澤の手に噛み付いた。少しの間があって、夜の空に悲鳴が木霊した。


「ぎゃあああああっ!?」


その悲鳴は、暫くの間続いたと言う。




一日の仕事を終えた鬼灯は、閻魔大王の元から自室へと戻り、書き終えた書類などの整理をしていた。彼は、ふと棚に目をやる。恨みの言葉や奇妙な音を発する絵の具は、もうこの部屋には無い。


「やはり、長いことあると流石に少し煩かったですね、あの絵の具……」


これで、今日から静かに眠ることができます。


END
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