NT
□ほんとの恋
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私は、裏山に続く道を歩き出した。
何故かというと、その道に生えているとっても大きな林檎の木の下で昼寝をするのが大好きだから。時折、落ちてくる林檎を拾い、食べるのが楽しみで仕方ない。
しかし今日は先約が居たようだ。
『…サイ?』
彼は木にもたれかかり、"女心"と書かれた本を読んでいた。
「名無しさん。どうしたの、こんな所で。」
私の声に気が付き、こちらを見た彼は笑顔でそう問いかけた
『私この木の下でお昼寝するのが好きなの!一緒に居てもい?』
そう聞くと、笑顔でいいよ、と言われたので隣に座る。
サイは不器用だけど、良い奴だから、こうしてふたりで居られるのが、少し嬉しく感じられた。
隣に座った名無しさんが、僕の読んでる本をのぞき込み、好きな人でも居るの?と聞いてきた。
好き…?わからない。
ただ、心臓がドキドキと激しくなるだけ。
息苦しくなるだけだ。
「そんな人、居ないよ」
笑顔で答えると名無しさんは、少し困ったような顔をした。
『サイってさ、いつもその笑顔。笑いきれてないよ?笑顔って言うのはね、本当に嬉しいときとか、楽しいときに出る表情なんだよ?』
笑ってごらん?
なんて言って僕の顔を両手で包んだ。
なんだろう、身体が暖かくなってくる。
まるでお風呂に入りすぎてのぼせたみたいに。
『わ、笑えないよ、名無しさんがそんなことするから』
「あ、ごめん…」
『名無しさんは居るの?好きな人』
「べっ、別にサイには関係ないでしょっ!」
すると僕らの間にとすん、と林檎が落ちてきた。
それはまるで君の顔のようだった
「この林檎、名無しさんの顔にそっくりだね」
『そっ、それどういう意味よ!私の顔ははこんなにまん丸くないんだからっ!!』
そう一言吐き、立ち上がって
サイなんて知らないっ
と言って何処かへ走っていってしまった。
今までドキドキしていたのに
何故か心臓が痛くなった
赤さが似てるって、言ったつもりだったんだけどな。
走っていく後ろ姿を、見えなくなるまで見つめた。
*
二人が気持ちに気づくまで、あと少し。