プライベート7

□ハッピーエンドが嘲笑う
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そのニュースが目に入った途端頭が真っ白になった。音も全部消えて画面をスライドさせてた指がぴたりと止まる。いやいや嘘やろ。考えてもしなかった現実に頭が痛くなる。世間で今騒がれているトップニュース。所属していた元事務所の話題も尽きないがそれともう一つ新しい大きな記事がでた。ネットでもテレビでもつければ必ずこの話は耳にするようになったほど。『野原みぃ新彼氏登場か!?お相手は元King & Prince平野紫耀』こんな時に分かっても皮肉だが彼女の人気さや知名度を改めて認識するほどに世間がこの記事に注目していた。昔から環境のせいもあってみぃは色々記事にされることは多かった。けどそれは事実無根な下世話な記事か事務所内の人との嘘で固められた噂。けれどもそんな実際にはありもしない話はこちらが反応もせずほっておけば世間はいつの間にか忘れて自然と消えていくのだ。

「うぃー、亮ちゃん調子どう?」

「は?」

「はいめちゃくちゃ機嫌悪い〜!まぁ朝からずーっとみぃのことだもんね」

「・・・」

「いやいやあれ噂じゃん別に気にするなって」

「噂じゃないやろあれは」

「・・・・」

「コメント的に認めてるやん」

けれども今回は今までとは大きく違うことがあった。それは事務所が出したコメント。いつもなら完全否定か法的手段で訴えるかそれか無視をしていた。けれども今回は「プライベートのことは本人に任せてますのでどうか温かく見守ってくだされば私共も幸いです」としっかりしたコメントを各マスコミに事務所は送ったのだ。あまり俺が在籍していた時には見たこともない正式なコメントで、この言葉に世間は事務所も認めたからきっと事実だ!と騒ぎ立てることになった。

「いやいや本人に任せてますってだけでしょ?てか相手側はなんていってんの?」

「いや確か向こうも同じようなコメントちゃう?」

「えーー、どうかな〜、みぃが、、えーーー??」

眉を寄せてうーんと唸る仁を無視して今日の打ち合わせのための資料を手にとる。そんな俺を見てきっとこの話題を打ち切ろうとしていることを長年の仲で感じとってくれたのか、仁はそれ以上何もこの話に触れなかった。きっとこいつは知らないんやろう。いや誰も俺の中のこのドス黒い感情なんて知らないと思う。数えてみれば彼女と関係を終えて早いもので3年以上が経つ。世間的にいうとだんだんと過去の恋愛を忘れられて前に向かえるような年数にとっくにきてるのかもしれない。ただ俺は彼女と別れてから一度もみぃのことが頭から離れたことはない。この3年幾度となくあの日のことを後悔してはそして幾度となく彼女への想いを募らせていた。もし一つ願いが叶うなら俺はきっとあの日に戻ってそしてあの決断を取りやめたんやと思う。あんなことになってしまったのは完全に俺が全部悪くて俺の弱さが原因だったから。あの時何度も周りの人間に全員に口を揃えて言われた。必ず後悔する。あんな子他にはいないぞ。けどそんなこと言われなくてもわかっていた。わかっていたけどあの頃すばるくんが抜けてボロボロになって俺は必死にこのグループを引っ張らなあかんと思って頑張ってた。みぃは俺から見てもだいぶどん底に堕ちてたけど俺は俺で仕事に必死であまり彼女のフォローもできなくて。そして周りのメンバーとの温度差も感じてしんどくなってこの事務所を抜けることに決めてしまった。その中でも今でもはっきり言えることはみぃとの2人の関係は全く変わらなかった。お互いめちゃくちゃ大事に思ってたし同じグループじゃなくなることなんて俺らには何の問題もないと不安なんて何一つなかった。でも隣にいて強く感じたのは彼女の意識の違いやった。すばるくんの時と違って俺が辞めた時は前に進むことに必死だったのは誰よりもみぃやと思う。常にグループのために、を第一に考えていることは痛いほど伝わった。だから海外で仁と仕事をしたり他の人との都合もあって家を長期で離れたりするときでも、彼女は彼女で当たり前やけどグループの仕事を最優先してて。今までやったらもう少し2人の時間を取ろうとしてた彼女はその時はただ何よりも第一にメンバーとグループのことを考えていることはすぐにわかったし理解もしてた。それが正解やと思ったし何もそんなみぃを責める気持ちには1ミリもならなかったことだけは今でもハッキリと言える。ただ今思えば俺はそれがどうしても怖くて仕方なかったのかもしれない。彼女と会わない日があると不安で仕方なかった。いつかみぃが俺を疎ましく思う日が来てしまうのではないかって。いつかみぃが俺のことを邪魔に思ったり彼女の重荷になる日がくるのではないか。そんなことばかり考えてたらいつの間にか彼女とうまく話せなくなって、みぃはみぃできっと俺を優先できていないことに負い目を感じていて。だから俺が出した最悪な結論に何一つ反論せず涙をひとつ流してそして受け入れたんやと思う。

(、ありがとう、亮ちゃん。私、亮ちゃんのこと世界で1番好きだったよ)

あの時の苦しそうな涙、けど本当に綺麗な笑顔を俺は一生忘れないんやろう。現に今だに何回も夢に出てくるし。2人の関係を終わらせたのは俺で。その原因も弱虫な俺。あの日から俺は今まで後悔しかしていない。彼女がいつか俺の元に帰ってきてくれるかもしれない、なんて。そんな淡い夢を見ていることが君に知られたらどんな顔されるんやろうな。あー、あかん。しんどい。考えたらやばい。みぃは今俺じゃない男の隣で笑ってるんや。俺だってこの歳になって3年も経てば彼女以外の女の子とご飯も行ったし遊んだ日だってもちろんある。それでもどの子も全部結局はみぃと比べてしまってそして続かない。好きにすらなれない。だってみぃの方がもっと可愛かった。みぃの方がもっと俺のこと思ってくれてた。何もかもが彼女が勝っている。そんなこと考える奴がこの先誰かを愛して幸せにできるんやろうか。

(あ、まってまって紫耀くんこれ見て)

(え?なに?なに?)

彼女のことはあれからずーっと応援してるから出ているものはなるべく見るようにしてる。けれどもあの2人の共演を見た時になんとなく嫌な気持ちになってみるのをやめた。それは俺だけがわかる、彼女のふとしたあの子に向ける目線とか笑顔がどことなく他の人とは違う気がしたから。男からみぃへのその視線は幾度となく昔から見てきたけど彼女のあの瞳の奥の熱は感じたことなかった。あれは俺に、俺だけに向けてくれるものやって、そう思ってた目の色やったから。

「亮ちゃんこの後飲みにいく?」

「・・いや、やめとく」

「・・そっか、また行こう」

「ありがとうな」

きっと今飲めば仁にこの情けない気持ちを全部見せてしまうやろう。仁は俺が彼女のことを吹っ切れていってると思ってるはずやからびっくりすると思う。いくら親友でもこんな恥ずかしくて情けない気持ちは知られたくない。

「ういっす〜」

「え、あ、亮ちゃん」

とりあえずこの気持ちを無くさないと後々に反省してしまうことでもしてしまいそうやと思ったから気分転換に好きな楽器屋さんに向かった。とりあえずギターでも触らせてもらってたらこの気持ちもマシになるやろ、そう思って店に入ったけどいつも笑顔で迎えてくれる店主のやっさんがなんか変な顔を俺に向けた。それに疑問に思いながらも足を進めれば聞こえたソプラノの声に足が止まる。ああほんまに神様ってなんて残酷なんやろうな。

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