プライベート7

□幸せな休日
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「わーーー!!!!神田さーーん!!」

「ちょ、みぃちゃーーーん!危ないよー!!」

向こうではしゃぎ回る彼女の声が聞こえる。今日はいつもの釣りをするおじさん仲間たちと彼女で川遊びをしにきた。正直今回乗り気じゃなかった俺だけどみぃちゃんはこの日をずっと楽しみにしてて。川釣りをしに行くと言ってた日にたまたまみぃちゃんもお休みになって、え?行く?ってなったら秒で行くと答えた彼女。おじさんたちは喜んで承諾してくれたけど俺だけはモヤモヤしてた。いやだって彼女のフレンドリーさを侮ってはいけないから。実家帰った時も秒で俺の家族と打ち解けてたぐらいだよ?(俺抜きで朝に出かけたのまだ根に持つ)絶対すぐに仲良くなっちゃうじゃん、と思っていれば案の定、

「見てみてー!!!田中さーん!あはは!!」

「こらこらー!足元よくみてよー?」

すっかり仲良くなってるし。今日会ったとか考えられないぐらい打ち解けちゃって。まあ仲良くなるのは想定内だったけど少し彼女をなめてたことがある。みぃちゃんね、元気すぎるんだよ。俺の予想を遥かに上回ってはしゃいでる。そもそもそんなに今までプライベートで釣りをしたことがなかったらしくて、虫は触れないからエサは俺らがつけたけど、でもまあ川遊びに関してはめちゃくちゃ楽しんでくれている。おたくなかなかのレベルのアイドルで女優さんですよね?って確認したくなるぐらい本気ではしゃいで遊んでる。なんなら川の中も入りまくってて、どんなに顔濡れても髪の毛ビチャビチャになっても全く気にしていないし。女の子って普通化粧とれたり髪型崩れるの気にするじゃん。そんなこと一切考えていないであろう彼女の全力で一緒に楽しむ姿勢に最初こそ野原みぃがくるって構えていたり、みぃちゃん見て美人だから様子伺ってたおじさんたちも、すぐに親しみやすい雰囲気にみーんな好きになっちゃってさ。可愛い可愛いの連呼でもうすっかりおじさんらみーんな彼女のファンだ。

「みぃちゃん気をつけて?ここ滑るから」

「みてみて!紫耀くん!!」

「お、捕まえたの?」

「うん!神田さんに教えてもらった!手で捕まえたんだよ!すごい?」

「はは、すごいすごい」

はしゃぎまくってる彼女がいつか怪我しそうで(俺と一緒でこの人何事も遊ぶ時全力な人だと知ったわ)ヒヤヒヤしてるけど本人は何も気にしてないらしい。みぃちゃんに近づいてそっと後ろから彼女の腰に手を回して支えるけど、そんなことお構いなしにすげぇ笑顔で俺を見上げてはバケツの中を見せることに必死。そこには小さくて可愛い魚が3匹いて自分が捕まえたと嬉しそうだった。

「ん?てか紫耀くんいつ服脱いだの?」

「ちょっと前」

「泳ぐの?」

「うん。だって絶対気持ちいいでしょ?」

「確かに!じゃあみぃも泳ぐ!」

なんて笑顔で俺が着せた上着をそのまますぐに脱ごうとするみぃちゃんの手を止めて思わず頭を叩いた。

「いた!」

「なにしてんの!こら!」

「え?ちが、ちがうよ!この下水着だよ!?」

「わかってるよ?だから俺のシャツ着せたんじゃん!なんでそれ脱ぐの!?」

「・・・え?泳ぐから」

「着たまま泳ぎなさいよ」

「・・・紫耀くんも脱いでるじゃん」

「俺は男、あなたは女の子。わかる?」

「・・わかんなーい」

「みぃちゃん、川は石も危ないから肌あんまり見せない方がいいの。俺は男だからいいけどみぃちゃんの綺麗な肌怪我しちゃったら俺もう二度とここに連れて来れないもん」

「・・・」

どちらがが勝つか。お互い見合って少し黙った後、俺の言ったことを考えたのか「確かにそうだよね」と先に折れたのは彼女の方だった。笑ったみぃちゃんは上着のチャックをゆっくり上にあげてくれたけどその顔は残念そうで。違う違う。そんな顔させたかったからじゃない。今だって俺はカッコつけていかにもな正論をぶつけてるだけで。ほんとは違う。確かに怪我をさしたくない気持ちはあるけど、けど、それと同じくらい嫌なのは。

「・・・みんなに見られたくない」

「、え?」

「みぃちゃんの可愛い水着姿、見るのとか俺だけでいいから」

「、・・・ふふ、うん、わかった」

「へ?」

「もう絶対今日は脱がない!じゃあ今度2人で海かプール行こう?」

一気に笑顔になった彼女はそのまま嬉しそうに俺にぎゅーっと抱きついてくるもんだから俺の方が拍子抜けだった。ダサい男と思われたくなくて隠した本心だったのに。思わず漏れちゃったその本音の言葉に彼女はこんなに嬉しそうに笑って喜んでくれるんだから。なんだよ、それなら初めからこの気持ち伝えてたら良かった、みぃちゃんってこういう子だったよな、なんて。

「きゃー!!つめたい〜!!!」

そこからみぃちゃんと一緒に川の中入って泳いで。魚見つけてまた捕まえて。みぃちゃん片手に抱いて泳ぐ俺に周りからターザンかなんてつっこまれながら楽しい時間を過ごしまくった。

「紫耀くん魚そろそろ焼く?」

「焼く〜!」

「ねえ、紫耀くん。みぃちゃん本当にいい子だね」

「・・うん」

本当にそう思ったんだろうなってぐらい感情たっぷりで話してくれる神田さん。ニコニコ笑う神田さんは釣り好き仲間で出会った人生の大先輩。すごく気遣いのある人だから最初こそみぃちゃんのことめちゃくちゃ気遣ってたけど、だんだん人懐っこいみぃちゃんに慣れてきたみたいで気づけば親戚の子みたいなスタンスで喋ってたし。自分の大切な人を褒められるのは自分が褒められるよりこんなに嬉しいのか、と思わされるほど言葉が沁みる。

「私ねテレビとかは疎いから君の仕事のことは申し訳ないけど全然わからなくてね。だから僕の前にいる平野紫耀くん、しか知らないけど」

「それが嬉しいんだよ」

「うん、ぼくは君が本当に素敵な子であったかい人だと知ってるから。だから紫耀くんには誰よりも幸せになってほしいんだよ」

「・・・」

「近頃、少ししんどそうだったからね。だから今、心から嬉しそうな君が見れて嬉しい」

「・・、」

「こんな少ししか一緒にいないのにそれでもすぐ分かる。あんないい子他にはいないよ。紫耀くん女性見る目あるね〜」

「、・・・うん、そうみたい」

思わず泣きそうになった。きっと数年前の俺はこうしてみぃちゃんと2人で肩を並べてるところなんて想像できてもないだろうな。俺に嬉しそうに笑ってくれて抱きしめてくれて。彼女をこの腕の中にいれて抱きしめられるなんて。そんなこと考えも出来なかったただろうな。これ以上ここにいたらマジで涙が出そうだったから、誤魔化してその場から離れれば川辺の少し進んだところの大きな石の上に座ってるみぃちゃんを見つけた。なんで1人でいるんだよ、と駆け寄ったけど彼女を視界に入れてから俺の足はピタリと石のように固まって動かない。それはあまりにもお日様を見上げて目をつぶってる彼女が綺麗すぎたから。キラキラと水に濡れて光るみぃちゃんの髪の毛とか、白い肌とか、時が止まったようで、なんかもう全部が綺麗、の一言だった。なんだこの人マジ同じ人間かよ。ゆっくり川の中入って歩いていけばそこは少し深くて。うわ、この人泳いであそこまで向かったな。マジで怖いもの知らずなんだけど。と、ゆっくり泳いで彼女の元へ向かいその石の下に着く。するとゆっくり目を開けたみぃちゃんは俺を見て優しく微笑んだ。その笑顔がまた光がさしてめちゃくちゃ綺麗で。みぃちゃん以外何も視界に入らなくて。音も何も聞こえなくなって。うわ、すげぇ。

「バレちゃった」

「・・バレちゃったじゃないから。なにちょっと深いとこ1人できてんの」

「あはは、でもここすごくない?見つけたの!綺麗だよ〜!紫耀くんものぼってきて?」

そう言って手を差し出した彼女。そんな彼女の手をそっと握ればみぃちゃんは俺を見て「ん?」と首を傾ける。あー、なんだろ、なんていえばいいのかな。

「みぃちゃんおいで?」

「・・・!!せーの!!!」

俺の胸に躊躇もなしに飛び込んできた彼女をぎゅっと受け止めた。ぎゅーっと抱きしめればそのままみぃちゃんの腕が俺の首にまわって2人の距離はゼロになる。

「ふふ、どしたの?」

「ん?くっつきたくなっただけ」

「え、なにそれ!嬉しい!」

「はは、さ、魚焼くって!帰るよ〜」

「じゃあおんぶして泳いで?」

「気に入ってるじゃんターザン泳ぎ」

「うん!」

これからこうやって毎日彼女との時間が流れていって。そして彼女との思い出が増えていくと考えると本当に幸せなんだなと思う。今までは我慢してたけどこうして少しずつ2人の行きたい場所に行って、完全には無理だけど、それでも我慢せずにやりたいこと一緒に出来たらいいな、なんて。それからみぃちゃんをおんぶして泳いでそのまま川岸に着けば皆がめちゃくちゃ温かい目で迎えてくれたからまた泣きそうになった。お魚食べてお肉も食べて沢山また遊んだ帰り道、車の中で俺の腕はヒリヒリとすごいことになってた。

「いったー、」

「だからすぐに冷やしなさいって言ったのに。みぃちゃんは大丈夫?」

「あ、それは大丈夫。俺こまめにみぃちゃんに日焼け止め塗ってたから」

「じゃあなんで君もぬらなかったのかな?」

「めんどくさくて♡」

「もー、しばらくシャワー厳しいよ?」

「顔は守ってたことだけでも褒めて欲しい」

手は日焼けして真っ黒だけど俺の気持ちはずーっと楽しくて最高で。あー、いいリフレッシュになったなぁって。今日の楽しい時間のおかげでまたしばらく色んなこと頑張れると思う。

「みぃちゃんよく寝てるね〜」

「あんなにはしゃいだら寝るよ」

「可愛いね〜」

「あんま寝顔見ないで」

「はは、紫耀くん独占欲強い男は嫌われるよ?」

ニヤニヤと俺のことをおちょくってくるおじさんらを一睨みして俺の肩に頭を預けてスヤスヤ眠るみぃちゃんに俺もそっと寄りかかった。ああ、愛しくてたまらないってこういう時に言うんだろうな。彼女としっかり繋がれた手をぎゅっと握り返す。

「紫耀くんも寝てていいよ?起こしてあげるから」

「んー、大丈夫」

「そ?眠くなったら寝てね」

「今幸せ噛み締めてるから」

俺の言葉にニコニコ笑った皆が「俺もそうしよう」と静かになって。あー、なんかまじで泣きそう。幸せすぎて。色んなことあるけどやっぱりその分楽しいこともあるんだろうなって。次に気づいた時は俺はいつの間にか寝てたみたいで俺のことを優しく見るみぃちゃんの笑顔が視界いっぱいに広がって。ああ、ほんとに俺は幸せだ。


幸せな休日、


(あ、起きた)

(・・んーん、寝てる)

(ふふ、もうすぐ着くよ?)

(んーーー)

(あはは、あまえんぼうさんだ)

(紫耀くん可愛いんだね〜)

(・・・・)

(今僕たちいること忘れてたでしょ?)

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