プライベート7
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2人でゆっくりと名古屋のホテルで過ごして1週間。彼女もそろそろ前のようにご飯を食べたりちゃんと眠ったり俺から見ても元気になってきたと思う。みぃちゃんとホテルで映画見たり名古屋の街を出かけたりめちゃくちゃ寝たり。穏やかな日々を過ごす中でも彼女と2人の家の話も進めていた。色々この前から調べてはきたけど何個か絞れたから今度、内見でも行こうかという話になった。こないだ村上くんもそろそろ仕事的にみぃちゃんに復帰してもらわないとあかんって言ってたし、いつまでもここに長くいたら新居が決めれないので明日には東京に帰ろうかとなった。この2人の休みの間に引越しまで終わらしたいのが本音で。どうにかしてみぃちゃんと俺の活動が始まるまでには家は落ち着かせたい。ここでの穏やかな生活ともお別れの時間になるのはかなり残念だけど。
「紫耀くん、明日何時に出る?」
「んー、昼過ぎとかは?」
「お、じゃあちょっと明日ゆっくりめだね!」
「うん、そうしよ」
「じゃあ最後の名古屋で晩餐しようよ」
そう言って彼女は今日昼間に買ったサイダーを2つ手にしてベットに座る俺の元へぴょんと飛び乗ってきた。ここがお酒じゃないのはきっと酒に弱い俺への配慮だろう(意外とみぃちゃんがお酒強いのは関ジャニ∞のDVDとか見て知った)瓶に入ったサイダー。コルクを抜けばポンといい音がしてシュワシュワ爽やかな音が響く。
「ふふ、じゃあ、乾杯」
「かんぱーい」
うん、やっぱ買って良かった。爽やかな酸味と甘すぎない甘味に頬が緩む。彼女も美味しいと笑顔で飲んでいて、なんか何してもこの人絵になるなぁ、なんて。マジおれ今CM見てる気持ちなんだけど。
「あのね、紫耀くん。私紫耀くんにちゃんと伝えたいことがあって」
「ん?」
「紫耀くん、本当に、ありがとう」
「・・」
「紫耀くんがあのとき、楽屋に迎えにきてくれて。私の背中を何度も撫でて、私をぎゅーっと抱きしめてくれて、大丈夫って何度も言ってくれて、隣にいてくれて、本当に、紫耀くんのおかげで、私今、また、笑えるようになったんだと思う」
「・・・、」
「パパとママのところに連れてってくれて、紫耀くんの家族に紹介してくれて、私のこと考えて、ここにも連れてきてくれ、」
ぎゅっとみぃちゃんを抱きしめた。強く抱きしめて背中を優しく撫でると彼女もまた俺の胸へと自然と頭を預ける。この人は本当になんでいつも自分だけが何かしてもらったって考えちゃうんだろう。俺が全部今日まで彼女のためだけに考えて動いてきたとでも思ってんのかな。
「・・違うよ、みぃちゃん」
「、」
「確かに、みぃちゃんのことも考えて、ちょっとでもみぃちゃんが元気になればいいなって願ったけど。全部が全部みぃちゃんのためじゃないよ」
「、え?」
別に俺だけがしんどかったとは思わない。みんなそれぞれいろんな思いがあってしんどかったし。俺なんかよりずっと経験のあるみぃちゃんだって今まで色んなことで胸が痛んだり悔しい思いをしてきたはずだから。けど本音を言えばここ数ヶ月、本当にきつかった。しんどかった。事務所と話し合って、話し合ってというか俺が決断した日から何度も歯を食いしばることがあった。俺の決断で傷ついた顔をしたメンバー。キンプリとしてのグループを今後どう終わらせていくかの話し合い。事務所の表と裏の顔。なりたくないずるい大人達の声や顔。何もかも嫌になった。憶測だけで世間は俺らのことを面白おかしく話して。それに傷つき争い合うティアラ。俺はなんのために今までここまでやってきて。なんのために我慢してきたんだろうって。
「・・この数ヶ月、道がわからなくなってた。こんなにも人って傷つくんだー、とか。もうどうでもいいや、ぜーんぶ投げ出して逃げてやろうかな、とか本気で考えたことあるし」
「・・・うん」
けど隣で支えてくれたみぃちゃんのお陰で。最後まで見守ってくれた彼女のおかげで。俺はなんとか逃げ出さずに自分が今出せる力全部出してグループの仕事を全うしたつもり。だからこそ今回次のステップにむけて少し休養をとるってなって。みぃちゃんもお休みをとるって教えてもらった時、正直ちょっと嬉しい気持ちもあったんだよ。みぃちゃん調子良くなかったから喜んだらダメなことは分かってたけど、けど、彼女も本当にずっと走り続けていたからやっと止まれるんだって嬉しかった。
「自分なりに頑張ったつもりだったから、この休み期間はご褒美にしてあげようって思ってて。だから俺もやりたいこと、みぃちゃんとやろうって」
「、」
「みぃちゃんは全部自分が俺にしてもらったって思ってるけどそれは全然違うよ。俺もみぃちゃんにちゃんとやりたいことやらせて貰ってたんだよ」
「、っ、」
「ずっと会いたかったみぃちゃんのお母さんとお父さんに会わせて貰えた、俺の家族と仲良くしてくれた、2人きりで過ごしたい時間を一緒に過ごしてくれた、ゆっくり話し合いたかった新居の話もできた、これって俺が全部やりたかったこと」
彼女の瞳が揺れる。俺の言葉をまっすぐきっと受け止めてくれていて、みぃちゃんは言葉にならない代わりに何度も小さく頷いていた。
「だから、ありがとうは俺も言いたい言葉だよ」
こんなにも幸せな日は今までなかったよ。好きな人と何も気にせずずーっとくっついて外に出て手を繋いで。こんな幸せな日が待ってたからあの試練を神様は与えたんだなって思うぐらい。ああ、頑張って良かったな。これからも俺頑張れるなってそう思えたんだから。
「たださ、東京に戻ってこれからお互いまた頑張るじゃん?」
「うん、」
「その前に、一つみぃちゃんに言いたいことがあるから聞いてくれる?」
「・・ん?」
今回俺はまあ一つの区切りとしてのお休みだったけどみぃちゃんは違う。彼女は自分の体調を整えるためのお休みだった。そもそもジャニーさんのことも、事務所の社長のことも色んなことが重なったこともあってみぃちゃんがどんどん元気ないのは知ってた。けど彼女は俺にはあんまり何も話してくれなくて。元々自分の弱さを人に見せない人だってことは分かってる。今回だって俺も俺で必死だったこともあるけど、それでも彼女は俺にあんなことになるまで何も言わなかった。メンバーさんから何か変わったことがあるかと連絡がきても、俺には詳しいことが何も言えないぐらい知らなかった。本当はさ、それが悔しくてたまらなかったんだよ。
「みぃちゃんが俺が最後までグループとして全力を出せるように凄く気遣ってくれたのはすげぇ分かった上でいうんだけどね」
「、」
「正直、すげぇ寂しかったし、怖かったよ」
「、っ、」
「みぃちゃんの楽屋で、どう見ても倒れてしんどそうで泣いてて辛そうなみぃちゃんを外から見た時、ああ俺はこうなるまで何も教えてもらえなかったんだって」
「、っ、ちがっ、」
「分かってるよちゃんと。俺のこと思ってくれてたのも。でもほら。俺みぃちゃんよりすげぇガキだし。あー、やっぱ頼りないんだなぁって正直ガツンときた」
「・・っ、ごめっ、」
あの光景は頭からしばらく離れなかった。最後に彼女に会った時にもしんどそうな顔が離れなかったから凄く気にしてた。目の下にできたみぃちゃんに相応しくないものがあの頃は憎くて仕方なかったんだ。けど俺も予定をかなり詰めて最後の仕事をしてたからなかなか会えなくて。そんな時に村上くんから連絡があった。みぃちゃんを休ませる話を聞いた時にやっぱり普通じゃない状態なんだって分かったけど、それを俺は彼女の口から一切聞いてないことに少なからずショックは受けてた。だって悲しいじゃん。なんで彼氏の俺が知らないんだよってなんじゃん。お前は頼りない男だから言えないって事実、突きつけられた感じがして。
「だから約束してほしい。これから2人で一緒に住むから、ちゃんと約束しよ?」
「、っ、ん?」
「俺も、みぃちゃんが頼れるような男になるから、だからみぃちゃんも俺に隠し事しないで。何かあったら1番に俺に教えて」
「、っ、」
「俺もちゃんと気づくよ、みぃちゃんのこと気づく自信はあるから、だからみぃちゃんも俺に甘えること忘れないで?」
気づいた時にはもうみぃちゃんの胸の中だった。ぎゅーっと俺の頭抱えるようにして抱きしめた彼女になんでかわかんないけど一気に視界が歪んで。あー、やっぱ俺ずっと気にしてたんだって。いつの日か横山くんに彼女は甘えられない子で、俺が甘えてよなんて言うのは自分の気持ち押し付けることで違うなんてあんなカッコつけた事言ったくせに。結局焦って、甘えてよなんて。うわ、だせぇ。俺かっこわる。
「、っ、ごめんね、紫耀くんの気持ち、わたし、なにも、考えれてなかったね」
「、」
震えてるみぃちゃんの声。ああ、きっとすげぇ泣かしてる。俺の頭をぎゅーっと抱きしめて俺の髪を撫でながら優しく話してくれる彼女の声は震えてて俺も涙が止まらなくなる。
「ありがとう、紫耀くんに確かに最後まで全力を出してほしいから、何も言わなかったようにしてたのかもしれないけど、けど、あえて言わなかったんじゃなくて、今回は本当に自分でも分からないうちに弱ってただけなの」
「、」
「ごめんね、紫耀くん。ちゃんと約束する」
そう言った彼女はゆっくり俺から離れると俺の瞳をしっかりと見てそして言ってくれた。
「何かあったら紫耀くんに1番に相談するし、紫耀くんに甘える。ちゃんと全部話すよ、紫耀くんにならなんでも話せるから」
「、」
「ほんとはね、初めて映画紫耀くんと撮った時あるでしょ?あの頃、誰にも話せてなかった気持ち、なんでか紫耀くんにだけは話せてたんだよ?」
「、っ、」
小さくて綺麗な小指が俺の前にスッと出されるから俺もその小指に自分の小指をそっと絡ませた。
「約束する、紫耀くんのこと頼る」
「っ、ほんと、かなあ」
「ふふ、ひどい、ほんとだよ?」
「みぃちゃん意外と頑固なとこあるから」
「えー?それは紫耀くんでしょ?」
「はあ?俺?」
「だから紫耀くんも約束ね、わたしのことちゃーんと頼って?甘えて?」
「・・わかった、」
「まあ甘えれなくても甘やかしてあげるけどね」
「・・はい、カチーンときた」
「あはは!!ごめんごめん!!」
ガバッとそのまま彼女を押し倒して視界を俺だけに映してその美味しそうな赤い唇に唇を重ねる。
「っ、ん、ちょ、まっ、」
「・・・降参?」
「っ、ん、こ、さん!ごめ、わかっ、た、!」
「好きだよ、みぃちゃん」
「、うん、私も」
「、」
「しょーくん、大好きっ、」
自信はあるよ。だって俺、みぃちゃんのこと世界で1番好きな自信あるし。みぃちゃんのことなら誰にも負けない。本気で思う。だから何からも彼女のこと守れるし彼女のためなら何だってする。だからどうかみぃちゃんも1番に俺を頼ってくれますように。こんなこと思ううちはまだまだガキだってきっと笑われるかもしれないけど。けど彼女がこれから何よりも先に、何かあったら俺の顔が浮かぶように。そのためには俺ももっともっといい男にならないと。そんなこと思いながらもいつのまにか彼女のおかげで俺だってこんな黒い感情を人にぶつけられるようになったって気づくのはもう少し後の話だった。
いつだって彼女のほうが上手なんだ、
(名古屋ともお別れって寂しいね)
(でも2人で暮らすって思うとワクワクしない?)
(それはする!あ、帰る前にもう一回紫耀くんのママのとこ顔出そ?会いたい!)
(・・・いや懐きすぎやろ、なんなんほんまに)