プライベート7

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ああ、まだ1年なのか、と思った。彼女と出会ってまだ1年しか経っていないのだ。それなのにこんなにも喪失感で溢れてしまうほど、やる気が起きないほど、俺にとって彼女の存在はかなりでかいらしい。

(・・え?もっかいいいですか)

(メンバーが話し合ってみぃちゃんをしばらく休ませるらしい。だからその間お前は安田さんについてくれ)

(・・・はい)

(あまり外には出してない情報だから誰にもいうなよ)

おかしいなとはずっと思ってた。みぃちゃん最近全然ご飯食べないし。顔色もまあ悪い。多分あれは寝れてないんだと思う。俺が専属みたいになって毎日ついてることもあってメンバーの皆さんにもよく聞かれることが増えた。みぃ今日何食べてた?とか。なんか気になること言ってた?とか。みなさん気にかけてるんだなってことはすぐにわかった。原因は色々あるんだと思う。でも大きいことでいえばまずはジャニーさんのこと。

(なんか野原みぃも怪しいよな〜、だってジャニーさんご指名のスカウトだぜ?絶対あれもやられ(!!!!)

(、は、び、っ、くりした)

(あ、すみませーん。ちょっとぶつかりました)

マジで腹が立った。みぃちゃんが今ここにいなかったから良かったけど。普通にタレントが通るところでそんな噂話すんなよって大声出してキレそうになった。けれども以前違う別件で俺がキレそうになった時に村上さんにおもいっきり頭を叩かれたことがある。

(った!!!!!!!!)

(アホ、ここでお前が敵作ったら余計ダメージくるのはみぃやぞ)

(、っ、すみません)

(いや、ありがとうやけどな。あいつのこと思ってくれて)

あの時に俺がヘマしたら皺寄せになるのはみぃちゃんなんだって学んで何があっても耐えるようにしてる。まあ俺もお利口な奴ではないから今みたいに壁殴って音出したり、ちょーっとしたことはするけど。何もしないのは癪に触るし。けど当の本人がグッと堪えて歩いてる道を俺によってデコボコにすることだけはしたくない。俺が彼女の力になれるのならば少しでもみぃちゃんを支えるのなら、俺はきっと俺のできることならなんでもするんだろうなと本気で今思う。

(もうお前やる気ないからくび)

(・・おつかれしたー)

昔から何をしても長続きしなかった。本気を出したのなんていつが最後だったか、てか今まで出したことあったのか、そんなことさえわからないほど何かに必死になることなんてあの頃の俺には何もなかった。どのバイトも続かなくて正社員になんて全然なれなくて。俺はこのまま野垂れ死ぬな、なんて思ってた時にパッと目に入ったのはテレビスタッフの仕事で。落ちてたチラシを持ってその足で面接に行けば、きっとただ人手が欲しかっただけらしくて大した面接もなしにそのまま仕事をさせられた。日給でもらえるし、まあ毎日同じことする仕事は性に合わなかったから日によって違う仕事はわりかし俺にあってて。なんとなーくやっていた時だった。

(おまえ!!!!腹立つんだよ!!!!いつもやる気ない目で!!)

(・・・すみません)

(しかも俺これ言ったよな!?なんで出来てねえんだよ!!!能無しかよ!!!!!!)

(・・・)

俺のことこいつ嫌いなんだろうなって上司がいてそいつにことごとく言われて。まあ俺がやれって言われてた下仕事ちゃんとできてなかったのも悪いんだけど。なんか熱量がうざすぎで、声でかいしダルって思ってたら、俺のその気持ちが伝わったのか相手はさらに怒りだして。これは埒が開かないと黙って耐えてたら、

(すみませーん、大丈夫ですか?)

(、っ、あ、野原さん、なんもないです、)

マジで息を呑むってか、時が止まるってこういうことを言うのかと知った。現れたのは生で初めて見るアイドル野原みぃで。本当に前に立っているのになんかいねぇみたいっていうか。薄暗い廊下にいきなり光がさしたというか。これが芸能人かって思える圧倒的なオーラ。上司も一気にタジタジになって。俺はただ息をすることさえ忘れて固まるだけで。そんな俺らを見て彼女はニコニコ笑顔を見せると「あっちで多分呼ばれてましたよ?」と指をさす。それに慌てて上司は気まずそうに走っていった。

(わー、これなんですか?)

そのまますぐに立ち去ると思ってたのになぜか俺の足元にある段ボールを覗き込んだ彼女は俺を見上げて笑って。ニコニコとそれはもうテレビでよく見る笑顔が目の前にあってすぐには声が出なかった。

(・・えっと、これ、今から、小道具作りっすね)

(どうやるんですか?)

(いや、花、作るだけっす、)

(私これ得意です!ちょーどいま待ち時間暇だったので良かったら一緒にしてもいいですか?)

(・・・は?)

俺の隣に腰掛けて。汚い床に気にせず座って。彼女はダンボールから花紙を取って器用に花を開いていく。俺の隣で。狭い廊下の奥だから肩が触れるほど近い距離にいるのはあの天下の野原みぃ。マジでこれどういう状況?って思ってたけど。

(ほら!上手でしょ??)

笑顔が眩しすぎて涙が出そうになった。なんか知んないけど涙が出そうになって胸が熱くなった。うまい返事もできずにとりあえず俺も花紙を手にして作っていく。その間、彼女は他愛もない話しをしてくれた。いつから働き出してるの、とか。今日この撮影がある、とか。なんのテレビ番組が好き?とか。対してうまく話せない俺に嫌な顔ひとつもせず。俺ら昔から友達だった?ってぐらい可愛い笑顔ずーっとして。

(おい!!!みぃ!!!どこおんねん!!!)

(・・・うわ、やば)

(おおおおおい!!!!お前ふざけんなよ!!!)

(やばいやばい殺されちゃう)

(・・殺される??)

(あはは、ごめんなさい、これ途中で。もう時間きちゃったみたいで笑)

(あ、ありがとうございました)

(私がやりたかっただけだから!じゃあ、またね!)

きっとみぃちゃんは知らないのだろう。あの時俺がどんだけ救われたか。あの時のあなたの「またね」の一言で変わった人間がいるってことを。俺はみぃちゃんがきっと挨拶で気を遣って言ってくれた言葉だとしても、その言葉が希望になってそこから変われた。すぐにジャニーズ事務所のマネージャーの面接受けて。久々にちゃんと勉強して。振る舞い方とか気にするようになって。ちゃんと働いて。で、

(・・はじめまして、斉藤です、今日からお世話になります)

(、野原みぃです!こちらこそよろしくお願いします)

ちなみに、って上司が希望の配属を聞いてくれて。俺はすぐに関ジャニ∞ってこたえた。それに少しびっくりして「あそこ大変だよ〜」と笑ってたのが今となっては笑い話だけど、それでもまたこうしてみぃちゃんに会えた時。めちゃくちゃ嬉しくてああ、頑張って良かったって思えた。頑張ればいいことあるんじゃん、って初めてそう思えた。俺は単なるマネージャーで。彼女のマネージメントをしたりスケジュール管理をしたりする仕事だから。だから行き過ぎたマネはできないし。なんだろ、出会ったばかりの俺がどうのって事ではないんだけど。ただいきなり休んじゃって会えなくなっちゃったからどうすることも出来なくて。俺なんか気にする立場でもないけど柄にもなくすげぇ気になって。でも連絡したら迷惑だし俺の声が少しでもみぃちゃんの気持ちを悪くしたり休んでる彼女の心に何かあったら嫌だなって思った。

(はは、斎藤くんめちゃくちゃみぃのこと気になってくれてるんやな)

(・・・え?)

(これホンマは他の人に見せたらあかんねんけど、斎藤くんにだけ見せてあげる)

安田さんについてる時もふとした時に思うのは彼女で。どうしてるかな、なんて思ってたらきっとぼーっとしてしまってた俺に声をかけてくれたのは安田さんで(この人も仏のように優しい)携帯に映ってたのは連絡画面。名前がMiだからきっとみぃちゃんのアイコンなんだと思う。そこには毎日写真と一言が添えられてて。それにメンバー皆が日々返していた。相変わらず可愛い顔して笑ってるみぃちゃんだけど、あの最後気になってた顔のように切羽詰まってる顔せずに本当に幸せそうに嬉しそうに笑ってて。あー、みぃちゃん今ちゃんと休めてるんだ。好きな人と好きなこと出来てるんだなって、そう思うと涙が出てきて。本当にこの一年近くで見ててもこの人は頑張りすぎるぐらい頑張ってたから。理不尽なことにもずっと耐えて自分のやるべきことをまっすぐ全うしてたから。だからそれなのに彼女が少しでも悲しい気持ちになると俺は辛くて腹が立って苦しくて。どんどん弱ってくみぃちゃんにどうにもできない自分にむかついて。みぃちゃんの力になんでこうもなれないのか。食べれないのも知ってたし、疲れてるのも知ってた。それでも仕事はやりたいという気持ちは隣にいればいるほど伝わって。きっとそれが今の生きる力なんだろうなって思ってたから止めれなくて。だからどこかでメンバーが彼女を止めてホッとした部分もあった。彼女はいつも俺に優しくしてくれてたのに俺は何もできてないから。だから彼女が今こんなに幸せそうに笑ってる姿とか、美味しそうにご飯を食べている姿を見れて、

(・・斉藤くんはほんまにみぃのこと好きなんやね)

(、っ、すみませ、おれ、なんで、)

(大丈夫。みぃはちゃーんと帰ってくるで、斉藤くんの隣にな)

止まらない俺の涙にも安田さんは一つも嫌な顔せずに優しい笑顔で受け止めてくれた。本当に確かにこの人たちのグループはいろいろ大変な面もあるけど、けど俺はこんなに優しくて温かい人たちを知らない。俺は心からこのグループの担当になれて良かったと神様に感謝してる。

(すみませんっ、もう、大丈夫です!)

(うん、ありがとう)

そんなふうに安田さんと話して、それから安田さんや村上さんとか色んな人の現場につかせてもらって。俺は俺でこの今の間にちゃんともっとマネージ力をあげようって。みぃちゃんに次会った時に完璧に支えられるように。そう思って俺なりに必死に頑張ってた。

(斎藤くーん、俺と一緒にきて?)

そんなある日、安田さんに呼ばれて俺は一緒に関ジャニさんのレコーディングスタジオへと足を運ぶ。そして扉を開けて安田さんの後ろを通っていけば彼はにっこり笑って指さして。そこを見れば、

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