プライベート7

□お姫様のおやすみ
1ページ/1ページ


隣でスヤスヤ眠る彼女の寝顔を先程から赤信号のたびに盗み見してはニヤける顔を抑えることができない。やばい。可愛い。この前までは上手く眠れなくなっていた彼女の目の下には似合わないものができていたけど。今ではすっかり薄くなってこうして少しの時間でもお昼寝をしちゃうぐらいスヤスヤと気持ちよさそうに眠る顔がまた見れるようになってきたのがたまらなく嬉しい。それに彼女の右手の薬指に光っている指輪。それも嬉しくて見るたびにさらににやけてしまう。右手で運転しながら左手はずっと彼女の右手を握っている。だからその光るものをよく触ってしまうのは嬉しくて仕方ないから。今日初めて2人して揃って指につけたこの光るリング。きっとしばらくは何回も何回も2人の手を色んな場所で写真に収めてしまうだろう。それぐらい嬉しくて仕方ない。

(じゃあ頼むな)

(はい、)

あの日、あの帰り、関ジャニ∞さん皆に頭を下げられた。みぃちゃんが立ち止まることを決めた日から2人で2、3日家でゆっくりと過ごして。少しずつみぃちゃんから笑顔もみられるようになってきたので、俺がずっと考えてきた一つの提案をすると、みぃちゃんは喜んで二つ返事で受け入れてくれた。そこからすぐに準備をして車に乗り込み今に至る。けど俺はみぃちゃんにはまだ伝えていないけど、どうしても今日寄っておきたい場所があった。

「みぃちゃーん、そろそろ着くよ」

「、、ん、」

「ねえ、めちゃくちゃいい天気だよ〜」

「、んーっ、」

小さく伸びをするみぃちゃん。その瞳がゆっくり開いて。綺麗な色素の薄いブラウン色の瞳が俺を捉える。ふにゃりと笑うその笑顔が愛おしすぎてたまらなくなった。おはよう、と少し掠れた声で恥ずかしそうに俺を見るみぃちゃんに今すぐ唇を重ねたくなったけど運転中だからさすがに我慢した。

「おはよ」

「んー、結構寝てた?ごめんね、運転してる横で」

「いいよー。可愛い寝顔見れたから俺的にはかなり満足」

「え、やめてよ恥ずかしい。・・ん、まって、あれ?これどこ向かってる?」

「俺の1番行きたかったところ」

「、っ、まって、ね、紫耀くん、」

「みぃちゃんも本当はずっと行きたかったでしょ?」

近々落ち着いたら俺は絶対に行こうと思ってたから少し前に横山くんに場所は教えてもらってた。だから今日このタイミングに絶対に行こうと心に決めてたわけで。きっとみぃちゃんは1人でも社長ともメンバーとも何回も来ている場所だろうから。だからすぐに外の景色を見てどこに向かっているのかわかったんだと思う。前を見てぐっと唇を噛み締めたその姿にぎゅっと胸が痛くなる。

「これ車ってどこに停めれるの?」

「上までは無理だからここらへんの駐車場かな」

「じゃあここでいい?」

「うん、ありがとう」

みぃちゃんに初めてこの話を聞いたのはドラマで共演してた時にご飯を食べに行った日。ポツリポツリとお酒を飲みながら話してくれた話は幼い頃の両親の記憶で。幸せそうに話す姿にきっと仲良いんだろうなー、みぃちゃんの両親絶対綺麗でいい人だろうなって思ったら寂しそうに「今はいないんだけどね」と教えてくれたっけ。そこからあまりその時は詳しく聞くことはなかったけど。けれどもみぃちゃんと付き合うことになってから彼女から色々と教えてくれた。彼女がまだ幼い時に事故で亡くなったこと。そこから親戚の家に預けられたけど上手く甘えられなくてよく1人で抜け出してたこと。その時にジャニーさんに出会ってスカウトされたこと。それから社長に頼んで関西で一人暮らしさせて貰ってたこと。よく両親のお墓には1人で行ってたこと。社長にも連れてきてもらったことがあるってこと。最初は上には来てほしくなくて、いつも下で待ってもらって1人で歩いてお墓参りしてたことも。メンバーに出会ってから初めて上に上がってきてもらって雨の中一緒に手を合わせてもらったこと。色んな話を懐かしがりながらもゆっくり丁寧に話してくれたみぃちゃんに、俺も絶対いつか連れて行ってねと頼んだ。俺もバタバタしてたし下手な動きができなかったから遅くなって今になってしまったけど。けれどもこうしてここに来れたことは本当に俺にとって嬉しいことだった。

「一応お花も買ってたんだよね」

「、っ、紫耀くん、」

「お母さん、かすみそうが好きって前にみぃちゃん言ってたじゃん?」

「、うんっ、覚えてくれててありがとうっ、」

車を降りれば気持ちのいい風がふわりと吹いて。ここから上がっていくの、とみぃちゃんが細い道を指差した。俺の前を歩いて向かおうとする彼女の腕を思わず掴んだのは無意識で。だからいきなりの俺の行動にびっくりして振り返った彼女に俺もふと自分の行動に我に帰ってびっくりした。けれどもみぃちゃんの手を握れば彼女はにっこり笑ってくれる。

「今から結構登るよ?大丈夫?」

「え、俺を誰だと思ってるの?」

「そうだバケモノの子だった」

「おいw」

「いやふったの紫耀くんじゃん!今のは完璧に」

ケタケタ笑う彼女の隣には階段が細すぎて並べなかったから前後だけど。それでもみぃちゃんは俺の手をずっと離さないでいてくれた。俺もだからぎゅっと握って彼女についていく。細い道だから手なんて握ってたら歩きにくいのは分かってたけどなんとなくこの手を離したくはなくて。みぃちゃんも一緒の気持ちだと嬉しいなと思った。本当に彼女がいうようにここからは結構な急な坂道だった。細い階段だし別に綺麗に整備された階段でもないから、雨の日なんて滑って危ないな、とも思った。それにみぃちゃんが俺に話してくれてる話だと1人で何度もここに足を運んでいて、雨の日にも来てたって言ってたからきっと危ないことも一度や二度はあっただろうなと思って怖くなる。本当に彼女がここで怪我をしなくて良かった。

「ここ、結構急だよね」

「うん、だから気をつけてね」

「いやみぃちゃんがね」

「私はね、なぜか大丈夫なの」

「それはお母さんとお父さんが見てるからだよ」

「・・うん、そうだろうね」

しばらく階段を登っていればいきなり一気に見晴らしのいい広場が広がる。海も一望できる小高い丘の上。景色がめちゃくちゃ綺麗で思わず「すげぇ」と声が出るとみぃちゃんは俺を見て「ね、すごいよね」と笑った。風に吹かれて彼女の長い栗色の髪が靡く。マジでめちゃくちゃ綺麗。綺麗な景色とみぃちゃんに心奪われていると彼女は墓石の方へと足を進めていった。広場には建っていたのは3個の墓石。そのうちの1番奥のお墓に向かって行って「ここだよ」としゃがみ込む。

「ママ、パパ。来るのちょっと遅くなってごめんね」

墓石に乗っている落ち葉を手でサッと払った。墓石はみぃちゃんが幼い頃からずっとここにあるはずなのに、古びてないというか他の2つの物に比べてとても綺麗で。それだけ頻繁に彼女や彼女の両親の知り合いの方がきっとここに来てはこ細かく手入れをされてるんだろう。そんな彼女に俺も一緒に落ち葉を拾って手で少しかぶった砂をどけていれば、ありがとうと優しい笑顔で言われた。

「お母さん聞いて。今日はね、紫耀くんがここに連れてきてくれたんだよ?びっくりでしょ〜?」

「・・・初めまして平野紫耀です。みぃちゃんとおつき合いさせて頂いております」

「お母さん達びっくりしてるよ、こんな若くてかっこいい子いきなり連れてきたから」

「いや若くて頼りない、って思われてるかも。これお花です、」

そっとかすみそうを台の上に置いて。みぃちゃんがそれに「ママかすみそう好きだったもんね」と笑う。そんな彼女に風が優しく吹いてまた髪が靡いて。やっぱり綺麗すぎるよ。それにここは本当に風が優しくて心地良い。

「昔はここには誰も来てほしくなくてね。ここは私だけの場所で。ここに来たら気持ちが無になれるというか、ありのままの自分でいれたというか、うん、あの頃唯一私でいれた場所だったのかな」

「・・うん」

「ジャニーさんに出会ってからは連れてくれるようになって。最初は私が下で待ってて欲しいって言ってたからずっと待ってくれてたんだけど。けれど隣にいて欲しいって頼んだ日からはね、雨の日でも、暑い日でも、雪が降ってた時でも、私が立ち上がるまでずーっと隣でね、何時間でも何も言わず待ってくれてるの」

「・・・そっか」

「メンバーも一緒に来てくれることが増えて。みんなずーっと隣にいてくれるの。20歳になった時はね、メンバー皆とここに来て、お酒飲んだこともあったよ」

「いいね、ママ達も嬉しかったんじゃない?」

「かな?あ、でも酔っ払い出したメンバー見て呆れてたかもね笑」

ここにはきっとみぃちゃんの思い出がいっぱい詰まってるんだろうなと思った。悲しい思い出も悔しい思い出も楽しい思い出も。なんとも言えない顔で墓石を撫でるみぃちゃんの頬に思わず触れると彼女はこっちを見て。それから長いまつ毛が震えていく。

「いいよ?みぃちゃんゆっくりお話しなよ」

「、」

「話したいこと、沢山あるんじゃない?」

「・・うん、ありがとう。じゃあ、ちょっとだけ」

そう言って手を合わせたみぃちゃんはそこからしばらく目をつぶったまま動かなくなった。きっといろんなことを話しているんだと思う。最近あった幸せだったこと、頑張ったこと、悲しかったこと、苦しかったこと。色んなことを報告してそしてそれをみぃちゃんのお母さんとお父さんもゆっくり聞いてくれてるんだろうな。ここに1人で来ていたかつての少女は一体どれほどの涙を1人で流してきたんだろう。会いたくても会えない人へ思いを馳せて何度拳を握りしめていたんだろう。あの頃のみぃちゃんに会えるのなら会いたい。会って全部抱きしめてやりたい。その痛みも苦しみも何もかも。俺が全部取っ払ってやりたかったのに。そんなこと考えてたけど俺の思考が戻ったのは可愛い声で名前を呼ばれたから。見ればさっきまで目を瞑ってたみぃちゃんはもうすっかり瞳をあけて俺を見ていた。

「あ、ごめん。どうした?」

「紫耀くん何してるか気になってチラッて見たらすごい怖い顔してたから」

「え?」

「ほらここ、眉間の皺。どうしたの?なんか虫でも見た?」

俺は考えごとをしたり腹が立つと眉間に皺がよるらしい。みぃちゃんはそんな俺を見つけるといつもそっと俺の眉間に指を乗せてそのまま優しくのばしてくれる。今だってそう言って優しく笑う彼女に堪らなくなってぎゅっとみぃちゃんを包むように上から抱きしめた。

「ん?どしたの?」

「俺さ、やっぱみぃちゃんと同い年に産まれたかった」

「ええ?笑」

「そしたらあの頃のみぃちゃんを抱きしめてやれたのに」

「っ、」

「あの頃ここで泣いてたみぃちゃんを助けてやりたくて。みぃちゃんがここで1人で泣いてたとか考えるだけで、俺なんで助けられないんだって自分に腹が立ってきて」

「・・ふふ、それは無理だよ」

「分かってるよ。けど嫌なんだよね。過去のみぃちゃんでも。みぃちゃんが悲しい思いしてたなんて」

「・・、」

「1人じゃないよって言ってやりたい。その時のみぃちゃんに。俺がいるよって」

「・・・、ふふ、ありがとう紫耀くん」

ぎゅっと俺の首に彼女の細い腕が回る。そのままぎゅーっと抱きつかれて2人の距離はさらにゼロになった。

「私も教えてあげたい。あの頃の泣き虫で怖がりな女の子に。大丈夫だよって、あなたはとっても素敵な人に出会えるからって。1人じゃないって教えてあげたい」

過去はどうにもできない。変えられない。けれども俺は誓うよ。ここに。これからのみぃちゃんは俺が何をしてでも幸せにするし、彼女の笑顔をずっとずっと守っていく。これからは1人でなんか泣かせない。1人で寂しい思いなんてさせない。

「俺も隣で手合わせていい?」

「ありがとう、お母さんたち喜ぶ」

そっと彼女から離れて手をあわせる。みぃちゃんのご両親に俺はどう見えてるんだろう。きっと何回もここにはジャニーさんもメンバーの皆さんもそしてあの人だって来てただろうから。だからすげぇガキが来たって思われてるかもしれない。なんだうちの子は気が狂ったのかって。こんな子に任せられるのかって。確かに俺は歳も実力も何もかもみぃちゃんには敵わない。敵わないけど、けど、一生みぃちゃんのことを愛すことだけは自信がある。誰よりも彼女のことが好きで大切で。俺が誰よりもみぃちゃんを幸せにできることだけは自信があるから、だから、だから、

「ふふ、紫耀くん長いよ」

「こおら。今約束してるところだからやめて」

「えー、なんの約束?」

「しっ、まだ終わってないの」

俺にはご両親の声は聞こえない。だから勝手に一方的な約束になっちゃうけど。けど約束します。彼女をずっと守ります。彼女が悲しむことがないように、彼女を僕が幸せにします、誓います。俺がみぃちゃんを世界一の幸せ者にします。一生大切にします。だから、大事な娘さんを俺にください。

「・・終わった?」

「うん、終わった。やべぇ、すげぇ緊張した」

「え、何約束したの?」

「ん?内緒」

「ふふ、なにそれ」

みぃちゃんはそう言って笑って立ち上がって俺に手を差し出す。そんな彼女の手を握って俺も立ち上がった。

「お母さんお父さん、また来るね」

「俺も、また来ます」

「大好きだよ、ママパパ」

そう言って笑ったみぃちゃんの顔はなんだかいつもより幼く見えて。そう言った瞬間に俺らの間にぶわっと風が吹いて。2人の髪が靡いて思わず2人で顔を見合わせて後ろを振り返る。

「今絶対またねって言ってたよね?」

「いや今のは大好きって言ってたんじゃない?」

「あはは、そうかも」

「・・さ、行こっか」

「うん、」

彼女と手を握ったまま2人で足を進めた。ふわりとふく風が温かくて心地よくて。きっと彼女の両親にそっくりなんだろうなぁ、なんて。


僕の好きな人の大切な人、


(てかさ、普通に考えてお母さんお父さんの前でみぃちゃん抱きしめちゃったよね。え、やばくない?キレられてんじゃない?)

(・・お父さんが怒ってるかも)

(ちょ、もっかい謝ってくるわ)(うそうそうそ!笑)

次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ