プライベート7

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頭が酷く痛かった。原因はわかってる。最近よく眠れない。ご飯も食べれない。そんなに忙しいこともないしそんなに大変な時でもない。それなのに身体のリズムがうまく回らない。1人になると色々考える。1人になると怖くなる。1人になると、、嫌になる。その考えが頭の中を支配して真っ黒になった時に思考が向かっていくのは明るい方と真反対の場所。それでも私が今歩けるのは大好きなメンバーが支えてくれているから。そして大切な人の存在があるからで。だからなんとかやっていけるけどそれでも気持ちは正直かなりしんどかった。

(野原みぃもめちゃくちゃやられてたらしいぜ)

(すげぇ枕営業してた、とか。たらい回しにされてたとか書かれてたもんな)

ジャニーさんの色々なことが話題になって。自分の中で考えられなくて。本当に私の知ってるあの人のことを話しているのかわからなくなってきた。しかもいつのまにか世間が騒いでる中で私もまた名前が出て渦中にあがってた。私のことはいい。どう言ってもいい。けれども今頑張ってる人たちの道を妨げるような発言や行動を見たり聞くと嫌な気持ちになった。それでも私にはどうしようもできなくて。何もできなくて。少しの発言さえも許されてなくて。どうしたらいいか分からなかった。

(ねえ早くやめなさいよ、迷惑よ存在が)

あの人の罵倒もこんな時はさすがに心に響いた。元気な時はいい。簡単に無視して流せるから。それでもそうじゃなくて心が少し疲れていた時にそれが重なると胸が締め付けられた。昔あんなに色々あって罵倒されることなんて日常だったから、こんなこともう慣れっこだと思ってたのに。人間、時が経てば忘れてしまうのかまたしんどくなってた。そういえば昔からこの人達には何一つとして理解されてなかった。あの頃から何回も思ってた。そもそも自分がこの人にこんなにも嫌われてる理由が分からなかったから。私がこの人たちに何をしたのか、どんな嫌なことをしてしまったのか、教えて欲しかった。今までジャニーさんに拾ってもらってからはこの事務所で真っ当に一生懸命自分なりにやってきたつもりだった。事務所には感謝してるし私が頑張ることでこの事務所の名前がもっともっと世間で上がってくれることが、恩返しにつながると信じてた。それなのに蓋を開ければいまだにこんなにも嫌われていて会うたびに罵られることになるとは思ってもなかった。一体何がいけないのか。どうしたらいいのか。最近わからなくなってきた。もちろん自分の人生で自分のためにやってきたのは第一だと思う。けど私の中ではどうも自分の優先順位は低いから。事務所のために、社長のために、恩返しで頑張ろうという気持ちもかなり私が歩く理由を占めていた。それなのに今更。今になってこんなにも事務所が世間に批判されて。私の道標だったお父さんがこんなにも悪く言われていて。そしていまだに私はこの事務所の上の人間に会えば罵られて存在を全否定される。わからない。じゃあどうすればいいの。私は何を目指して頑張ればいいの。私がどうすればみんな認めてくれるの。これ以上なにを、ねえ、教えて。教えてよ。なんで、みんな、いなくなるの。どうしてみんなどんどん辞めていくの。仲間がいなくなる。大好きな先輩がいなくなる。大好きな後輩もいなくなってしまう。ねえなんで。私たちの事務所ってなに?私たちの信じてたお父さんって、ねえ。

「みぃ」

名前を呼ばれてハッとした。気づいて我に返った時には私は床にしゃがみ込んでて。そして同じようにしゃがみこんだメンバー皆に囲まれていた。マネージャー達も焦って私を見ている。え、いつからこうしてたんだろう。てかなに。私今何してたの。びっくりして立ちあがろうとしても立てなくて。とにかく皆に笑おうとしても笑えなくて。ただただ涙が出てきて眩暈がする。

「、あ、の、え、っと、」

「大丈夫、大丈夫や。落ち着いたか?」

「、き、み、く、」

「大丈夫。みんなおるやろ。ほら、おいで」

伸ばされた手。それに腕を伸ばそうとしてもなぜか腕は錘のように重くて自分が思ってた何倍も低くしか上がらなかった。それに驚いているといつの間にかきみくんにぐっと抱かれて起こされて、そのままソファーに彼の膝に跨るように座らされる。身体が重い。息がしづらい。きみくんの胸に頭を預けながらなんとか目で動かして私を見ていたメンバーに口を開こうとしても声が出ない。

「みぃ、水のも。な?大丈夫、大丈夫やから」

たーくんが私の前でペットボトルを差し出してくれて。ストローが刺さったそれを口元に持ってきてくれる。ゆっくり口を開けて吸い込めば喉に入る冷たい水。ようやくそれで息が吐けた気がした。

「息吸って、吐いて、ええか、俺と呼吸合わせて」

きみくんが私の背中を撫でる。ゆっくり息を吐いて。そしてまた吸って。きみくんの動く胸に合わせて私も同じように口を開けてなんとか息を吐いて吸っていると少しずつ落ち着いてきた。そんな私にいつの間にか隣に来てた章ちゃんが「うん、落ち着いたね」と頭を撫でて優しく笑ってくれた。

「ご、めんなさい、私」

「大丈夫。みぃ、ちょっと俺らの話聞いてほしい」

聞こえてきたたーくんの声。その声は低くて優しくて。いつも彼の声は胸にスッと入って落ち着く。そんな彼にきみくんからゆっくり頭を起こして彼と向かい合おうとしたけど、きみくんはそんな私をゆっくり制して。そしてたーくんは私が見えるようにこっちまで歩いてきてくれると目線があうよう床にしゃがんでくれた。

「ちょっとな、色んなことあるやろ、今」

なんだか嫌な予感がした。その声色がいつかの誰か達と重なったから。

「色んなこと重なって、もうみぃの頭の中パンパンやろ?」

私たちはいろんなこと乗り越えてきて。そしてどんなピンチもチャンスと思って歩いてきた。

「気持ちは頑張ってても身体は正直で。今みたいに、きっともうみぃの身体は限界を訴えてると思うねん」

歩みを止めない、それが私たちの昔から出してきた結論だった。ひーくんが辞めた時も。すばちゃんが辞めた時も。章ちゃんが病気になった時も。亮ちゃんが辞めた時も。パパが亡くなった時も。コロナでライブが中止になった時も。なかなか仕事が出来なくなった時も。私たちのやり方で、私たちができることをその時に考えて、どんな時も歩いてきたの。

「・・・・・みぃ、ちょっと、休もうか」

「っ、」

「頼む。今のままやと、もう、みぃ、壊れてまうわ」

「、たー、く、」

「ちょっとだけ、関ジャニ∞、休まへん?」

衝撃だった。頭が真っ白になった。そんなことメンバーに言われるなんて思ってなかった。それもたーくんに言われるとは考えてもなかった。なんでなんで。私、いらない?私、もう、ここには、必要ない?

「、っ、たー、く、「ちが、ちょ、なんか勘違いしてるやろ、待て待て、聞いて「やだっ、私、もう、いらないの?」

「違う!!ちょ、違うって、なあ、俺見て」

「わたし、やっぱり、ここに、必要、ない?「、みぃ、」

「っ、やだ、っ、そんなのっ、」

息ができない。涙が邪魔して喋れない。だめだ。苦しい。そう思った時にサッと口元に袋が持ってこられる。びっくりして目だけ横を見ればそこには目を真っ赤にしたヒナちゃんがいた。

「息吸って、吐いて、そう、上手やな。ほら、もっかいやで?いくで」

何度も何度もひなちゃんの声に合わせて息を吸って吐く。背中を撫でる大きな手はきっときみくん。苦しくなくなってくると袋が口元から離れて。私に水を差し出してくれたのは困った顔で笑うマルちゃんだった。

「みぃ。ちゃんと話聞かなあかん。最後まで大倉の話聞け、な?」

きみくんの声に耳を傾けているとそっと頬に触れたいつもの優しい手。顔を向ければたーくんが涙を流して私の頬に触れていた。

「ごめん。変な言い方した、傷つけてごめん」

「、たーく、」

「俺は6人でこれからも生きていきたい。事務所がどうなるかは分からへん。たとえどうなったとしても、このメンバーで変わらず色んなこと挑戦したい」

「、うんっ、」

「そのためには全員が最大限の力をいつも出せるような状態でおらなあかん。次また色々なこと今考えてるやろ?それをやるためには、元気でなかったらあかん」

「、んっ、」

「これはそのためにの考え。だからこそ、今みぃはちょーっと疲れすぎてる。そんなしんどそうなみぃを見てると、俺らもさ、悲しくなって元気なくなるんよ」

「、」

「だから、しばらく、次に向けて、ちょっとゆっくりせえへん?次の活動に支障が出ない程度の休みやけど、ちょっとだけ。みぃがゆっくりする時間を作ってほしい」

「、」

「お願い。みぃの可愛い笑った顔が見たいねん、な。頼むわ」

きっと私以外のメンバーで話し合ってたんだ。最近の私の様子を見て皆で考えてくれてたんだ。全ては私のため。私のためで皆の優しさ。それはわかってるけど。けどこれまでこんなふうに足を止めることはなかったから。だからこそ思ってしまう。どうして、なんでなの。だって、だって、わたし、

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