プライベート7

□僕らの世界の中心にはいつも君がいた
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ちょっと限界やなと思った。これはちょっとやばいんちゃうかと思った。それが皆も思ってると分かったのが、楽屋で横が「あかんな」と一言言っただけでそれが何に対してのあかん、なのかすぐに全員わかった様子やったからや。

「いやだいぶ痩せたんちゃう?」

「あんま食べれてないな。今回は自分でも気付いてはいると思うけど」

「いっぱいいっぱいなってるんやろな〜」

「色んなこと重なってるからな」

「ほんま、、たまらんわ」

俺の問いかけに触ってた携帯を置いた大倉はため息を吐きながら立ち上がりソファーに戻ってくる。ヤスも困ったように笑っては読んでた雑誌を閉じて。丸も戻ってくるから、各々の場所にいたメンバーが横の一言で自然と集まって腰掛けていて俺らはいつの間にか向かい合ってた。

「たまってはきてるな。ジャニーさん亡くなってからだいぶ酷いとも思う」

「・・、ほんで今話題のやつで言われてんのか」

「有る事無い事なんでも書きやがって、、みぃにとってはたまらんわな」

横が深くため息をついた。先代が亡くなってかなりのダメージを受けていた彼女やけど、それでも何とか乗り越えていたのに。次に待ち受けてたのは現社長の嫌がらせ。昔からあの人あかんねん。みぃのこと目の敵にしてる。みぃは先代の一存で無理やりにでもこの事務所にいれた存在やから。最初は社長以外は批判しかなかった。俺らもそうやったし。けどみんなみぃの才能と人となりをしっていくうちに引かれて彼女には沢山の味方ができた。できたのにあの人とあの人の周りだけは何も変わらなかった。むしろみぃの才能が世間に認めれば認められるほど扱いは悪くなっていった。嫌味や幼稚な嫌がらせもあった。けどジャニーさんが目をきかせてたから大事にはならんかったんやと思う。そんな先代が亡くなってしまえばもう彼女を守る大きな存在は無くなった。そここら直接的な嫌がらせもまた増えた。彼女の中でこたえることは増えたと思う。こないだ大倉も言うてたし。後輩の前でも同じことされてたって。

「・・なんでなんやろな、めちゃくちゃ事務所に貢献してんのに」

「ほんまやで。何が気に食わんねん。どんだけあいつ働いてんねん」

「・・・才能があるからこそ、やろな」

「は、醜い嫉妬」

大倉が言葉を吐き捨てて。それに俺らの顔も歪む。なんであいつの努力も知らんやつにこんなことをされないといけないのか。なんでどんな時でも彼女の道に壁が出てくるのか。神様は乗り越えられる奴にしか壁は作らんとかいうけど、ちょっとひどすぎるんちゃうか?あいつ潰れてまうで。

「・・ちょっと一個考えてることあるんやけど」

大倉は今自分が少し思ってることを話してくれた。昔からこいつの真ん中にはみぃがいる。それを聞いた時に俺もそれが最善の策やと思った。皆もそう思ったんやろう。一斉に全員が深く頷いていた。

「これからも俺らが俺らでやっていけるために、俺はこれがいいかな、と思ってるんやけど」

けれどもこういう時の最終的な決定打は最年長や。普段からポケーっとしてるけど。こういう時は頼りになるねん。全員の視線を感じたのか横山さんは「そうしよ」と頷いて俺らの考えは一つの方向性でまとまった。だからすぐにそれぞれが動いてん。大倉とヨコは上の人間に、そしてそれぞれの関係者に、そして俺は。

「あー!ごめんな!いきなり連絡とって!」

「いやいや、すみません!お疲れさまです!」

「ちょっとな、忙しい時に平野くんにこんなこと頼むのもあれなんやけどな!」

「いや何ですかね?」

「みぃのことやねんけど・・ちょっと俺ら考えてることあって聞いて貰ってええ?今時間ある?」

「え?」

あいつの今1番の居場所でもあろう平野くんに連絡をした。俺らだけの考えでは今回は無理で。この子の協力無しでは無理や。とにかく今の俺らメンバーの気持ちと彼女の現状。事務所の状態。それを全て話した上での俺のお願いに平野くんはすぐ二つ返事で了解してくれた。

「チラッと聞いてんけど、一緒に暮らす、んやんな?」

「はい。僕の方が落ち着いたらなんですけど」

「それがいつぐらいか分からんけど俺ら的に多分やけど6月頭にはあいつもう無理やと思ってんねん」

「多分6月中旬ぐらいから一緒にどうかなって思ってるんですけど、今家探してて」

「ほんま無理なくでええから、まあまたなんかあったら教えて貰っていい?」

「はい、あの、村上くん」

「ん?」

「僕のせいもあると思います。今の僕が負担になってると思います」

そう言った平野くんの電話越しの声は少し震えてるように思えた。今の事務所はかなり不安定やと思う。俺は何も知らない。この子に何があったのか。グループがどうやったのか。みぃに聞くこともないし彼女が話すこともない。けれどもこの事務所のなんとも言えない不安定な上の被害者ではあると俺は思ってる。けどそれでもその言葉に少しでも同意する気持ちは一つも思わなかった。それは俺らメンバーみんなが一緒やと思う。

「平野くんなめてんな〜、みぃがキンプリで傷ついてるってこと?」

「傷ついてるというか、僕のせいで泣かしてるんで」

「そりゃあいつの中で君がめちゃくちゃ大事やからな。グループの変化はこっちも経験してることやから。平野くんの気持ち考えたら自分らのことを思い出してわかる分、泣けてくるんやと思うで」

「、はい、」

「けどそれが負担ってことはな、1ミリもあいつは思ってへんわ」

「・・・、」

平野くんと付き合うと聞いた時、そりゃ正直思ったところもある。なんでそんな苦労する道いくねんって。まだまだ若くて今からでファンも若い子が多い。今のみぃはかなり色んな人に支持して貰ってるからあの時とは違うけどそれでもアイドル同士の恋愛なんて、また傷つくことも多いやろ。そこは考えたけど、けど俺は思った。

(あれ?みぃ今日デート?)

(えー?ふふ)

(可愛いな〜!ええな〜!)

(みたかった映画一緒に見るんだ〜!)

ヤスと喋ってたあの子はほんまに幸せそうやった。嬉しそうやった。しんどそうやなって思った次の日あいつが笑顔できた時。きっと昨日は平野くんに会ったんやろなって分かったし。ヤスにはなんや惚気話もようしてるみたいで。写真見せたりなんやしてるみたいやけど嬉しそうな彼女見たら俺らまで幸せになる。

(みぃ、大丈夫か)

(うん、頑張ってる人が近くにいるから。私も頑張れる)

あいつは大切な人ができると強くなるタイプや。昔から自分だけのことになるとあかんけど、そこにあいつの大切な人が入ればつよなんねん。だから今だって、きっと一生懸命な平野くんを見て色んなこと乗り越えられてるんやと思う。だから俺らはこの子に感謝してるし、あの一度みんなでしたご飯会で平野くんがどれほどみぃを大切にしてくれてるかはすぐに伝わったから。だからそんな考えないありえへんのやで。

「平野くんがそんなこと思ってるってあいつが知ってみ〜?そりゃ泣いて怒るで」

「・・、ですかね、」

「そうやで。知ってるか?あいつ怒ったら意外と怖いぞ」

「・・ははっ、気をつけます」

「大丈夫や平野くん。みぃが味方なんて何があっても大丈夫やで」

「っ、はい、それはマジでそうっすね」

「せやろ〜?俺らそれだけでやってきてるぐらいやからな〜?」

電話が終わって見れば携帯に通知が入ってて。横や大倉からもきちんと話はつけてきたと連絡が入っていた。よしよし、これで大丈夫やと思って俺も2人に今のことを伝えようと連絡先を開く。

「・・はい」

「いやなんで一回無視してん」

「いやいきなりのあなたからの電話怖いんですよ」

「前も言うたけど慣れろそろそろ」

「いやいや、なんすか?要件は」

「俺も今平野くん電話したわ」

「おー、いけた?」

「とりあえず全部伝えて了解しては貰った。ただ謝られたけどなぁ、自分も苦しめてますって」

「・・いやそれはちゃうやろ」

「せやろ?そう言うたけど、まあ平野くんも気にしてるんかもな」

「・・あそこ2人とも相手を思いやりすぎるタイプやからなぁ」

横の言い方的にきっとそう感じたエピソードがあったんやと思った。みぃは昔から変わらず横にはいざという時に頼るところがある。みぃと横は俺らの中で1番家族のようなつながりがあると俺は勝手に思ってる。だからこそきっと彼女から何か聞いたりしてるんやろうとは思った。

「まあでも周りはこれで大丈夫ちゃうか」

「とにかく小さくやった方がええわ。変に騒がれたらまた無いこと言われるからな」

「ただ1番難しいのは本人やわなぁ」

「・・・どう納得させるかやで」

どんなに俺らが決めても。どんなに俺らがあいつのために考えて動いても。当の本人が納得しなかったら意味がない。本人が腹括らなあかん。進む勇気はあいつは持ってる。けど立ち止まる勇気、あいつはもてるんやろうか。

「納得する前に身体がもたんかもな」

「・・・せやな」

とりあえずあいつのこと心配でたまらんもう1人のお兄さんに連絡するか。きっとまた何か考え持ってるかも知らへん。なあ、俺らの中ではお前と出会ったあの日から。お前を背中で守ったあの日から。俺らの中心にはいつもみぃがいて。お前にはただただ幸せになってほしいと願ってんねん。今まで色んなことがあって。立ち止まらず歩いてきてんからええやん。ここで一回休んでみようや。なんてそんなことあいつが絶対に受け入れるはずもなくて。出たため息がヨコとまた重なって。2人でなんともいえん挨拶をして電話を切ったのだった。


俺らのお姫様は頑固者、


(あ、大倉?こっちはいけたわ。おん、あとは本人ちゃうか?)

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