プライベート7

□さくらひらひら
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外には綺麗な桜の花びらが舞っている。今がちょうどお花見シーズン真っ只中で満開な時。マネージャーの車の中でなんて綺麗なんだろうと仕事終わりにうっとり見つめていた。窓も少し開けさせて貰えば気持ちいい風が髪を擽る。あまりにも見ているからかマネージャーから「ちょっと桜の方行きますか?」なんて気さえ使ってもらうぐらい。撮影の終わりでもう夜だから夜桜だけど私は夜の桜も趣があって好き。桜というものは毎年何回も見ていてるのに飽きなくて綺麗で感動する。きっとそれはこんなに咲いても一気に散ってしまう様子が儚くて。その儚さがさらに綺麗で尊いものに思えるからなのかもしれないけど。

(しょーくん、桜綺麗だよ〜)

思わず彼に車の中から撮った写真を送ればすぐにつく既読。お、ナイスタイミングだったと思っていたら。

(みぃちゃんが写ってないから減点)

なんだそれ、なんて笑いながら紫耀くんに電話をかければ1コールですぐに出てくれた。

「お疲れ様!終わった?」

「あ、減点な子だ」

「ちょっとw なにそれw」

「だって桜より俺はみぃちゃんが見たいんだもん」

「桜のほうが綺麗だよ〜!仕事終わり?私も今終わったところだから合流する?」

「え、いいの?」

「ちょうど紫耀くんのスタジオの方通ると思う」

「あ、マジ!じゃあお言葉に甘えようかな」

「斉藤くん!Bスタジオ寄れる?」

「いけます」

「ありがとう!お願いします!」

「あ、みぃちゃん。じゃあ斉藤さんに代わってもらっていい?」

「え?いいよ」

なぜか紫耀くんに言われてマネージャーに電話を代われば最初は驚いていたけどだんだんニヤニヤ笑うその姿は見ていてとても怖いからやめてほしい。最後にわかりましたと告げた彼から電話を預かったけどなにこれ。

「え?なにこれ」

「んー?まあいいから!待ってるねー!」

そう言ってぷつりと切られた電話。なんだそれ、なんて思ったけどとりあえずマネージャーも紫耀くんのところに向かってくれてる様子で、ありがとうとお礼を告げてまた外の景色へ目を向ける。本当は皆でとか紫耀くんとお花見したいけど、こればっかりはなあ。紫耀くんとなんて絶対できないよね。実はしたかったって何年後には笑い話で言えるといいな、なんて思いつつ少しうとうとしてしまっていたらあっという間に着いたスタジオ。スタジオ前に見えた人影。サングラスかけた紫耀くんが携帯片手に待ってた。なんかオーラすごいなって思ってたら車に気づいた彼はすぐにこちらに向かってくる。

「お疲れ様〜!」

「お疲れ様でーす!斉藤さんありがとうございます、」

「いえいえ、じゃあ向かいますね」

「お願いします〜!」

私の隣に座ってきた紫耀くんに、ん?と聞くけどニコニコしてる紫耀くんはそのまま笑ってた。最後の活動に向けて後一踏ん張りと今は色々なことをしてる紫耀くんは、少しお疲れなのかもしれない。最近すっかり伸びてきた髪の毛に触れれば「どしたの?」と優しい笑顔を向けられる。

「ううん、直毛の紫耀くんが恋しいなーって」

「みぃちゃんただ俺の髪で遊びたいだけでしょ?」

「うん、ばれた?」

「最初からバレてるよ」

「パイナップルにしたかったの」

「だよねー」

そんな他愛もないことを話してたら車はどこかのガレージに入って行って。あれ?どっか寄るの?と思えば紫耀くんはちょっと待っててねとすぐに出て行ってしまった。コンビニでも行きたかったのかな。いやここコンビニ?と思いながら斉藤くんに「どこ行ってるの?」と聞けば、斉藤くんは含み笑いで誤魔化してくる。この子本当になんか上手いよね。はぐらかすのっていうかさ。この顔よくしてくるんだけど。なんか可愛いから許しちゃうけどさ。

「斎藤くんそうやってね?上手く誤魔化すのよくないよ?」

「え、そんなことしてないですよ」

「私まだヒナちゃんにチクったの根に持ってるから」

「ははは!許してくださいよ、村上さん怖いんすよ」

「だって斉藤くん最近は私についてくれるの多いのに!結局はひなちゃんとかきみくんの肩持つじゃん」

「え〜!拗ねないでくださいって笑」

またニヤリと笑って。てか拗ねてないし。すぐに私のことメンバーに話しちゃうくせに。グループの力関係を入ってきてすぐわかったみたいな彼はそういう周りをよく見る能力が高いと思う。斎藤くんが私の専属になってきてるのも事実で。彼の柔らかさとあとは臨機応変な対応力、そして仕事が確実にできる正確さ。私より年下なのに全てが凄いなって尊敬できるからこそ何も言えないんだけど。

「本当に一回ちゃんと話し合おうか斉藤くん」

「こわ!やめてくださいよ笑 あ、ほら。帰ってきましたよ?」

帰ってきた紫耀くんの手には有名な某紙袋があって。あ、それ買ってたのか!飲みたかったのかな?と思ってたら紫耀くんは斉藤くんにお礼を言うとまた私の隣に腰掛ける。

「ただいま〜!」

「おかえり!飲みたかったの?」

「うん、みぃちゃんのも買ったよ」

「え!ほんと?嬉しい!」

「なんとなく今の気分はシトラスティーかと」

「・・わーお、完璧」

「はは、彼氏だからね俺」

なんてすごい彼氏と思いながらも喉乾いてたから嬉しいなと思っていたら車は明らか家の方ではない方向に曲がった。あれ?と思って斉藤くんに聞こうとすれば紫耀くんに手を握られてそちらに目を向ける。

「で?斎藤さんに何言ってたの?」

「あ、聞いて?斉藤くん私のことひなちゃんときみくんにすぐチクるの!なんか色々筒抜けなの!!」

「怒ってんじゃんw 何をチクられたの?」

「お昼ご飯残してました〜、とか」

「うん、いやそれはみぃちゃんが悪いやつじゃん」

「わざわざ言わなくてもいい事がこの世にはあるんだよ、紫耀くん」

「あ、斎藤さん!俺にもこれからその件は逐一伝えてもらえると助かります〜!」

「了解です」

「ちょっと!!!!!」

ケタケタ笑う紫耀くんはそのまま私の手首を握って。そして少し眉を下げて困った顔をしていた。

「ん?」

「でもマジでちょっと痩せたんじゃない?みぃちゃんちゃんと食べないとダメだよ」

「食べてるよ?」

「・・斎藤さーん」

「今日はお昼あんまり食べてないです。夜もフルーツが多くて主食は少なめでした」

「斎藤くん!!!!!」

「みぃちゃん」

紫耀くんが低い声で私を呼んで。その声は知ってる。ちょっと怒ってる声。でも仕方ないんだもん。だって最近あんまり食べたくないって思っちゃうんだもん。そんな時は昔から無理に食べれないから。けど何も食べないのは良くない事知ってるからせめてもってフルーツは食べるようにしてる。そう思いながらも気まずくて紫耀くんから目を逸らしていると頬を優しく触られる。

「今度ゆっくり2人でどっか行ってさ、美味しいもの食べようね」

「、うんっ、」

紫耀くんはそう言うと私の手をぎゅっと握って。それから指を絡めてにっこり笑ってくれた。そんな紫耀くんに笑っていれば止まる車。窓を見るけどそこは全然お家なんかじゃなくて。

「じゃあ僕1時間ほど潰してくるんで」

「え、いや!それは」「いや仕事したいんですよ。ファミレスあるので行ってきます。ごゆっくり楽しんでください」

「・・すみません、気使わせて」

「全然です。みぃちゃんチクってすみません、これで許してくださいね」

「なにが?」

斉藤くんはお得意のニヤリと笑うとそのまま車から出て行ってしまった。それに「なに?」と紫耀くんの方を見ると彼は窓の外を指差す。だから私も窓の外に目をやれば。

「、うわー、、、」

そこには沢山の桜の木があった。すご、、!!と思ってびっくりしていれば紫耀くんが紙袋から私の好きなアイスティーを出して差し出してくれる。

「みぃちゃん桜好きじゃん?だからずーっと2人でお花見したくて」

「、っ、」

「けど昼間は人多いから今はちょっと難しいじゃん。じゃあ夜にしようと思ったけど、夜だからってきっとみぃちゃん2人で外に出るの心よく出れなそうだし」

「、」

「けど2人で一緒に花見はしたい。諦めたくない。じゃあどうする、ってずっと考えてたら思いついた。あ、車の中で花見したらいいじゃんって。調べたらここが出てきて。車も停めれそうだし。だから斉藤さんにお願いしたの」

本当に、なんでこの人は、

「このシート倒して良いっていってたよ。ほら桜寝転んで見上げるのはなかなか車の中じゃないとできないでしょ〜」

この人はどうして諦めないんだろう。私が悩んで無理だなって切り捨てて諦めちゃうことを、紫耀くんはいつもこうして掬ってくれる。彼にシートを後ろに倒してもらって寝転べば窓にいっぱい広がる桜の木。うわあ、綺麗。ライトアップされたそれは風が吹くとひらひらと舞ってきてなんだか今にも目の前に降ってきそうなほど綺麗だった。

「・・、すっごおい、」

「おー、これはこれでありじゃない?」

「うん、綺麗だね・・」

隣を見れば、うわーって笑ってる紫耀くんがいて。彼に寄り添いながら見上げるこの桜が世界で1番綺麗だと思った。紫耀くんの隣で見る桜が私は1番好きだって思った。

「やばー、マジで綺麗じ」

彼の言葉が止まったのはきっと私の顔を見たから。さっきから視界が歪んで桜がよく見えなくなってきた。紫耀くんはゆっくり私を抱き起こしてくれるとそのままぎゅーっと自分の方に寄せて抱きしめてくれた。

「桜が綺麗すぎてっ、」

「うん」

「紫耀くんの、気持ちが、嬉しすぎて」

「・・うん」

「私は、色んなこと、諦めちゃう所があるんだなって、紫耀くんと出会って知ったの。紫耀くんはいつも私が諦めたことを、叶えてくれる」

「・・・、うん」

「ありがとう、紫耀くん。2人でお花見したかったから、凄く凄く嬉しい、」

「、そっか、」

「うんっ、ありがとう、紫耀くん」

「・・んー、もう一声」

「、ふふっ、だいすき、紫耀くん」

「俺も。めちゃくちゃだいすき」

笑う紫耀くんにまたぎゅーっとくっつけば。紫耀くんもぎゅーっと抱きしめてくれた。ねえ、大好きだよ。本当に好きで好きで仕方ない。こんなにも人を愛おしく思う日が来るなんて思わなかった。ありがとう、紫耀くん。私はあなたのおかげで人生に鮮やかな色がついたよ。

「じゃあ紫耀くんその時どうしたの?」

「え、逃げたw」

「ひどいww」

それから2人で紫耀くんが買ってくれた飲み物片手に桜を見ながら他愛もない話をした。楽しくて沢山笑って。目の前の綺麗な桜と綺麗に笑う紫耀くんを見ながらこの時間がずっと続けばいいのに、と願った。それから1時間ほどしてマネージャーが帰って来た時には2人してお腹を抱えて笑い合っていたもんだからマネージャーは不思議な顔をしてた。

「来年は外でお花見しようね」

「楽しみだね」

未来の約束ができることがこんなに幸せなんて。あなたと明日も明後日も一年後も3年後も10年後も。ずっとずっと一緒にいたい。それが私の今の願いだと思った。どうか神様。彼の隣にずっと最後のときまで寄り添えますように。そんなことを願いながら車内で撮った紫耀くんの隠し撮りを携帯の待ち受けにすればすぐにバレて同じことをされてしまったのはこのあとすぐの話。


桜ひらひら、


(マジでお2人って僕が知る中で1番のバカップルっすよ)

(・・え、なんかすごいいきなりディスられたんだけど)

(斎藤さんってたまに酷いこと言いますよね)

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