プライベート7

□願いはただ一つ、
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今日この日を私は忘れないと思った。彼がずっとずっと命を捧げて向き合ってきた、彼の身体の全てを作る全部であったグループの最後の日。きっといろんな気持ちを抱えてる彼の全ての気持ちは、彼自身とそしてずっと一緒に過ごしてきたメンバーにしかわからないことだと思う。少なからず私もこの世界で色んなことを経験してきているからよく分かった。だから紫耀くんには今日は私はいない方がいいと思ってたから、ここ数日は彼の家に泊まってたので帰ることを伝えると、紫耀くんは眉を下げて「帰らないで待っててよ」と言った。その顔が不安そうで瞳が揺れてたから。声がいつもより元気もなかったから。だからそれなら私もここで向き合おうと彼をちゃんと見届けて帰りを待つことに決めた。紫耀くんがそれを望んでくれてるのなら私はそばに居ようと決めたの。今日は彼らの冠番組と生放送が待っている。昨日の音楽番組でさえ私は涙が溢れて止まらなかったから今日もやばいだろうなと思いながらも、とにかく笑顔で紫耀くんを見送った。今日は朝からずっと彼の顔はどことなくいっぱいいっぱいで。きっと限界なんだろうなってすぐに分かった。それでも私といるからきっと心配させないようにと無理しているようにも見えた。だからここには今日はいたくなかったのにな、とも思ったけど。それでも紫耀くんは私の隣にいることを選んでくれたのなら私も全力で彼の心に寄り添って支えようといつも通り何気ない会話をして隣に座りながら時間を一緒に過ごしていた。

(じゃあ待ってるからね)

(、うん、)

(ちゃんと見届けてるから)

(、ん)

(行ってらっしゃい、紫耀くん。楽しんできてね)

(・・ありがとう、行ってきます)

いつもより少し長めに感じたハグ。ぐっと力を込められて少し痛みさえ感じたけどこんなこと彼の今の心の痛みからすれば何でもない。とにかく笑顔で見送りたくてぐっと涙をこらえて彼を笑って見送った。紫耀くんが家を出てからは静かな時間が流れて。ただただ変に何も考えずに静かに時間を過ごすことにした。願うのは一つだけ。今日のこの時間、彼がメンバーと最後の時間を噛み締めて楽しめますように、それだけだ。

(リハするよ〜、)

そんなことを願いながら彼らの冠番組も始まってそれを見始めていたらピコンとなる通知。見れば紫耀くんからのメッセージと衣装を着た写真が送られてきた。今日は最後のデビュー曲を歌う日だ。やっぱりかっこいい。王子様の服がいつまでもよく似合ってる。

(かっこいい♡ ちなみに私はこれ見てるよー!)

私もテレビの前でピースした写真を撮って送ればすぐにつく既読。

(可愛い。ありがとう、行ってきます)

(行ってらっしゃい、大好きだよ)

リハに向かったからか次に送られてきたスタンプからは返事はもう返ってくることはなくて。私も携帯を置いて前のテレビに意識を向けた。そこには5人で楽しそうに笑い合う姿が沢山あった。5人で笑って笑って楽しそうで。その姿に私も笑ってけど虚しくなって涙が出てきてまた笑って。あの時のことを思い出した。グループから大切な人がいなくなった日。あの時もこうやって皆で笑い合いながらもでも泣きそうで。けど楽しくて虚しくて。いろんな感情に押しつぶされそうになったのが昨日のように思い出される。あー、やっぱり辛い。大切な人達と離れるお別れはいつも悲しくて残酷だ。

(キンプる面白かった?)

見終わった後に携帯がまた震えて。見れば紫耀くんからのタイミングの良いメッセージ。きっと彼もリハも終えて落ち着いたのだろう。今は出番までメンバーと残りの時間を過ごしているに違いない。

(面白かった!海上相撲の紫耀くん強すぎて怖い)

(やめてよ笑)

(あと薪を手で割るのもなかなか怖いよ?)

(怖い怖い言わないで!かっこいいが欲しい)

(かっこいいなんてずーっと思ってるよ!)

(そっか)

照れてるであろう彼の顔が浮かんで思わず笑ってしまった。最後の番組までは後1時間ほどになる。

(ちゃんと見てるからね)

(ありがとう、頑張ってくるね)

(頑張らなくていいから楽しんできて)

そこから始まるまではソワソワして長かったのに始まってからはとても一瞬のように感じた。ニコニコ笑う画面越しの彼だけど、なかなか限界の顔で。歌が始まって最後の歌でついに彼から沢山の涙が溢れた時に私の涙も限界だった。けれどもどこかで安心したの。ああ、ようやく泣けたって。彼がテレビの前でようやく自分の感情を我慢せずに出せたんだ。

(おー、みぃ大丈夫か?平野くん大変やろ)

(・・泣けたら楽なのにね、紫耀くん泣かないの)

(そうか・・、んー、、、泣けへんのやろな)

センターとしてのプレッシャー。今までの楽しい思い出。今までの悲しい思い出。メンバーと笑い合ったこと。メンバーと歯を食いしばって耐えた時間。多分全部走馬灯のように紫耀くんは今思い出したんだと思う。自分たちで最後は決めた道かもしれないけどそれでも大好きな仲間たちだからこそ思うんだよね。悲しいって。悲しくて涙が溢れてくるんだよ。沢山沢山我慢していた。最近の画面越しに見る彼はいつもどこか涙を堪えたようなそんな顔で。それはメンバーも含めてみんなそうだったけど。苦しそうな顔に見ていて本当に辛かった。だから寂しいって気持ちが外に出て良かったなって思えたの。我慢するのが1番しんどいから。つらいから。だから紫耀くんの涙見れて悲しくて辛くて痛くて、けど安心もできて。私が泣いたってどうにもならないし、私が泣くことではないのに、やっと彼の気持ちが溢れたことにたまらなかった。

(みぃちゃん終わったよ)

終わってからも呆然としてそのまま動けなかった私を動かしたのは一通の通知。

(ちゃんと見てたよ。本当にかっこよかった、お疲れ様。)

(かっこよかったかな?だいぶダサい姿だったけど)

(とってもかっこよかったよ、待ってるからね)

(分かった。待ってて)

それからどう時間を過ごそうかと思ったけどテレビをとりあえず消して。そこからは何もできなかった。動くことも考えることも出来なくて。ただ彼にこの顔を見せたら行けないとふと思って慌てて氷を取りに足がやっと動けて目に当てる。とにかくバレないように。私が泣いてたらまた心配かけちゃう。笑って。笑顔で彼を迎えよう。そう思ってたらしばらくしてガチャリと聞こえてきた音。慌てて氷を捨てて、帰ってきたであろう彼にすぐ走って向かえば靴を脱いだ紫耀くんと目が合う。

「、ただいま」

「おかえりっ!」

「・・・あー、やっぱり、泣かしちゃってたか、」

「泣いてないもん」

「嘘だぁ、目赤いもん」

「っ、赤くない。泣いてたのは紫耀くんでしょ?」

「んー?そうだっけ?」

そのままぎゅーっと彼に抱きついた。彼もまたぎゅーっと抱きしめ返してくれて。そして2人で無言のままで抱きしめあった。お疲れ様、紫耀くん。帰ってきてくれてありがとう。ここに帰ってきてくれて。あなたをずっと待ってたんだよ。よく頑張ったね、よくここまで頑張ってきたね。辛いこと悔しいこと私が知らない沢山色々なことがあったんだろうね。それでも今日までも今日もよく頑張ったよ。言葉にならない声が溢れて。彼にどうかこの想いが届きますようにと願いながらぎゅっとぎゅっと強く抱きしめる。

「お疲れ様、紫耀くん」

「・・うん、」

「紫耀くんはね、数えきれない沢山の人を元気にして、その人たちの生活を彩ってきたんだよ」

「、」

「紫耀くんのやってきたことは何一つ間違えてなかったよ。最後の想い、全部全部ちゃんと皆に届いてたよ」

「・・、そっか」

「うん、ありがとう、紫耀くん」

何も言わないでおこうと思ってたのに口から出たのは沢山の感謝の気持ちで。私なんかが言うことなんかないのに。それでも止まらない気持ちに息を吐いてもう言葉にするのはやめる。だって紫耀くんが私の肩に顔を埋めて動かなくなって。それから肩を震わせるから。ああ、だめだ。私は泣かない。泣かないの。

「、っ、はは、まだ泣けるんだけど、やっば」

「紫耀くんつよがりなとこあるからね。泣いてくれると安心する」

「そー?みぃちゃんには負けるけど?」

「ふふ、似たもの同士か」

「そうだよ」

「ふふ、紫耀くんお風呂入っておいで。お湯ためたよ」

「、ん、ありがとう」

ねえ神様。どうかこれからこの先彼が歩んでいく道が今より幸せで笑顔あふれるものにして下さい。そのためなら私はなんだってするから。どうかこれからも紫耀くんと皆が色褪せないでいつまでも咲き続けていますように。そして5人の絆もずっとずっと続きますように。彼からどうか何も取り上げないで。紫耀くんがお風呂に入ってから止まらない涙。彼のシャワーの音が聞こえてやっと声に出せて泣けた。必死に抑えながら泣いたけど彼もまたシャワーの音に隠れて泣いていたなんて知らなかった。ねえ大丈夫だよ。紫耀くんには応援してくれる仲間も、大人も、ファンの子も沢山いるからね。あなたは何も無くしてなんかいないから。だからこれからも堂々と道を歩いていってね。そんなことを願う私は何もできない無力な人間だった。


願いはただ一つ、



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