プライベート7
□ミルクで溶かして、
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大きく息を吸い込めば鼻に入るのは甘くて幸せな匂い。部屋中が甘い空気に包まれていた。お菓子を作ることは昔から割と好きだった。そんな本格的な凝ったものは作れないけどちょっとしたストレス発散になるから簡単なスイーツは作ることが多い。カップケーキとかマドレーヌとかクッキーとかお手軽なものだけど。今回だってそんなに実は手間のかからないチョコレートケーキを作ろうと思い何回か焼いて焼き置きしようと思った。14日になったら現場に持って行ってみんなに配る用に。あとはメンバーにはもちろんもう少し凝ったものを作るし。お世話になってるマネージャーさん達やヘアメイクさんにも何か作りたいなぁ。そして大本命の彼にはまた違うものをちゃんと作る予定。何がいいかなぁ。紫耀くん何だと喜んでくれるかなぁ。初めて彼女になってから渡すバレンタインデーだしやっぱりちゃんと頑張りたいもん。歳をとっても性格的にこういうイベントごとには未だにワクワクしてしまう自分がいる。喜んでくれたらいいな、と思っていたらピンポーンと鳴るチャイム。あれ?こんな時間に誰だろうと不思議に思いすぐに走ってドアを開ければそこには眉を寄せた彼が立っていた。
「あれ?」
「ちょっとぉ、確認。すぐにドア開けないって俺何回も言ってるよね?」
「あ、ごめん。いやそうじゃなくて!なんで?」
「仕事早く終わったから来ちゃった〜」
「え!そうなの!嬉しい!ありがとう!」
「うん、わ!」
「紫耀くんお疲れ様〜!」
そのままぎゅっと首に抱きつけば紫耀くんも笑ってぎゅーっと抱きしめてくれて。そのままユラユラ揺れるから2人で揺れながらケタケタ笑う。この時間が凄く幸せで温かくて。彼といるとこうして胸がポカポカするから一緒にいるこの空間が好きだなぁって思うの。
「もうご飯食べた?」
「うん、メンバーと食べた」
「じゃあお茶しよ?紅茶いれるね」
彼の手をひいて連れて行こうとしたのに足が進まなくて後ろを振り返れば紫耀くんはそこから動こうとしてなかった。(私の力でなんか絶対動かされないからね)どうしたの?と彼の背中に触れるけど紫耀くんは顔を片手でおさえてなぜか止まったまま。
「え?どうしたの?」
「待って噛み締めてるから」
「なにが?」
「俺の彼女可愛すぎ。むりむり、なにこれ」
「あはは、何言ってるの!早く」
意味わからないことを言ってる紫耀くんを引っ張ってなんとかソファーに座らせた。そういえばクッキーもらったからそれでお茶しよう!と思ってゴソゴソ缶を探していれば気づけば隣にいたのか名前を呼ばれて。振り返れば思ったより近い距離にいた彼にびっくりして肩がびくっとあがった。
「っ、びっくりしたっ、」
「ねぇこれなに作ってるの?」
「これ?チョコケーキ!ほらバレンタインデーもうすぐだからね?ちょっとずつ作っていっとこうと思って」
「・・・ふーん」
あ、機嫌悪くなった。紫耀くんの声のトーンが2個ぐらい下がったのがわかる。いや、ふーんって。そう思って目線を上げれば立ったままキッチンに置いてある作りかけのケーキを見ている彼の眉間の皺がすごい。お目当ての缶を見つけて立ち上がって紫耀くんの隣に立てば紫耀くんはなんとも言えない顔をしてた。
「・・ちゃんと紫耀くんには特別なやつ作るよ?」
「・・うん、ありがと」
「今ドラマ撮ってるからこれはお付き合いチョコだよ?」
「・・・」
「ふふ、眉間の皺。すっごい」
指で彼の眉間をツンツンと触ればそのままむすっとしてる紫耀くんと目が合う。そしてゆっくり唇が重ねられたから私からもそのあとに重ねれば少し彼の皺が減った。
「・・めちゃくちゃダサいこと言っていい?」
「ん?」
「俺以外の男にチョコ渡して欲しくない」
「、」
「やだ。みぃちゃんの手作りチョコ。他のやつが簡単に食べれるなんて。めちゃくちゃ嫌なんだけど」
そう言って困ったように笑う彼が愛おしくてそっと紫耀くんの頬に手を添える。
「うん、ごめんね」
「・・・」
「私も紫耀くんが私以外の女の子にプレゼントあげてたらやだもん」
「・・・」
「じゃあさ、紫耀くんさえ良かったらなんだけど。これ、一緒に作ってくれる?」
「え?」
「そしたら私からのプレゼントじゃなくなるもん」
「・・・」
「私と紫耀くんからのプレゼントになるから」
「・・・まって、みぃちゃん天才?」
どうやら私のアイディアは彼にとって凄くいい考えだったらしく。そうと決まればすぐに作る!と走って手を洗いに行った紫耀くんに笑いながらお菓子作りを進めた。急いで戻ってきた紫耀くんは私の隣に立って「何すればいい?どうする?」って楽しそうに聞いてくれて。こうやってなんでも楽しめる所も彼の素敵な所の一つ。
「let's English!!yea!!」
「ちょ(笑)だからキンプる見過ぎだって(笑)」
「sho.please chocolate、」
「Oh!OK〜!!!」
なんて私の超絶お気に入りのキンプるのイングリッシュゲームをしながら(本当にあの番組面白い。あれを見るのが最近の私の毎週の楽しみ)2人でふざけ合って作っていくチョコケーキ。確かに普段男の人がなかなかお菓子作りすることはないのかな。物珍しそうに私の説明を聞いて一緒に手伝ってくれる紫耀くんはめちゃくちゃ可愛らしかった。男の子のお菓子作り姿って可愛くていいなぁ。あ、でも亮ちゃんはよくプリンとか作ってくれてたっけ。あの人はお菓子作りでもなんでも器用にできたもんなぁ、あれは映画して特にお菓子作りにハマったんだっけなぁと思っていたらふと静かなことに気づいて隣を見れば、さっきまで笑ってた紫耀くんがまたむすっとした顔で私を見ていた。あれ?
「・・・ん?」
「何考えてたの今」
「え?んー、、昔のこと?」
「はぁ?なにそれ腹立つわ」
「ちょ、」
ぐっと近づいてきた紫耀くんにあっという間に片手で両手首とも抑えられてキッチンの壁のタイルに身体を押し付けられて唇を重ねられる。抵抗しようとしても全く動かない強い力と、あと私の手がチョコレートで汚れてるのをいいことに彼は力を緩めない。
「、んっ、ね、まっ、て、」
「やーだ、」
ぐっと紫耀くんに一緒に湯煎で溶かしたチョコレートを親指で唇に塗られるとまた重ねられた。苦しくて離れようとしても離れられない。
「っ、もお、やだっ、」
「みぃちゃんが悪いんでしょ?」
「っ、」
「はーい、続きしよ?」
「・・・」
「そうそう、そうやって俺のことだけ考えて作って」
ニヤリと笑うこの年下男の子をどうしたらギャフンと言わされるんだとムカッとしてたら「ほら怒らないで教えてよ」ってニコニコ笑う彼さえ愛おしく思うからわたしも末期らしい。ほんとこの人に勝てる日はない。惚れた方が負けってこういうことなんだろうなぁと思った。
「あとは焼くだけ〜!」
「おー!すごーい!意外と簡単にできるんだ」
「うん、だって簡単なの作ってるからね笑」
「そっか」
「紫耀くんのは頑張っちゃうよ〜?」
「・・・・」
「あ、照れた、」
「うるさい笑」
はにかむ彼のほっぺをつついて笑えば紫耀くんも笑って。幸せだと思った。こういう日常が幸せすぎて泣きそうになった。あー、だめだ。無理無理。幸せすぎる。
「紫耀くんといるとさ、どんな時間も幸せになれる」
「・・・」
「ありがとう、本当にありがとうっていつも思うの」
彼と出会えて良かったってこんなにも会うたびに思えるなんて。それは私が本当に幸せな証拠なんだと思う。大好きな人がいると世界は変わるって本当だなぁ。もうこんな気持ち二度とならない、なんて思ってたのに。
「そんなの俺の言葉なんだけど。泥棒しないで」
「泥棒(笑)」
「みぃちゃんの彼氏になれて俺毎日キラキラしてるもん」
「、・・、」
「みぃちゃんってすげぇよ、すげぇパワー」
「ふふ、そっか、それは嬉しいね」
「・・ちゅーしていい?」
「聞かなくてもするくせに(笑)」
そう言うとバレたかって笑う紫耀くんに私から唇を重ねれば私の腰に彼のしっかりとした腕が回る。そうすればもういつも逃げられなくて。まあ逃げる気なんてないんだけどね。そして彼から降ってくる沢山の魔法。この瞬間、きっとこの部屋はチョコレートよりも甘い空間になっていたと思う。紫耀くんはチョコレートより甘い。そんな彼には一体当日どんなものを渡せば喜んでもらえるだろうか。彼より甘い物なんてこの世にあるのだろうか。そんなこと思っていたらよそ見しない、なんで怒られたのはまた別の話。
ミルクに溶かして、
(よし!完成!紫耀くんお手伝いありがとう〜)
(・・なんか一個ずつ潰して行っていい?腹立つから)
(やめて。そんな贈り物怖すぎる)