プライベート7
□世界の端で苦しんで泣いて、
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「あ、みぃちゃんだ」
「ほんまやー!みぃちゃーん!」
「お!しょうれんだ〜!」
事務所に行けば彼女がスタッフさんと話してて。偶然会えたことにテンションが上がって駆け寄ろうとすれば廉に先を越された。けどすぐに俺らに気づいてくれたみぃちゃんはニコニコ笑って俺らを指さす。しょうれんってマジでファンが呼ぶみたいに俺らを呼ぶもんだから笑いがとまらなくて。
「2人が並ぶとティアラ的にはレア感らしいけど私的にはなんかよく見る2人だよね」
「俺らみぃちゃん強火担やからな」
「はは、なるほど。しょうれんに気に入られてるからか」
「てかやめてよその呼び名w」
そんなこと言ってたら隣にいたメイクさんがニヤニヤして俺らに頭下げるから、俺らも頭をぺこりと下げれば嬉しそうに笑ってた。
「あんたは本当にその時代のイケメンを手に入れるね」
「なにそれやめてくださいよ」
「だってあれあれ、ほら。仁亀だっけ?あの時もあの2人に挟まれてたじゃん」
「なにそれ懐かしい呼び名でましたね」
ケタケタ笑ってるみぃちゃん。きっとこのスタッフさんとは歴が長いのだろう。みぃちゃんの接し方でそれを感じながらも本当にこの人の言う通り彼女の隣にはいつも素敵な人がいるイメージが強い。メンバー然りジャニーズの先輩や俳優さん然り。まだこんなふうにみぃちゃんと接する前からそれは思ってた。だからこそ今でもよく不安になるんだよ。そんな素敵な人達といつも一緒にいたみぃちゃんの瞳に俺はどう映ってるのか。すると向こうからガヤガヤと騒がしい音が聞こえて目を向ければ事務所の偉い人たちが大勢の部下を連れて歩いてきた。あ、でた。久々に見たわあの感じ。あの人俺苦手なんだよな、と思ったら同じく廉も「うわ」と小さい声を出して思わず一歩後ろに下がってるし。廉もこの人たちが苦手だからかなり顔が歪んでて。そういえば俺もまぁまぁ顔に出るけどこいつもかなり顔に出るタイプだったわ。そう思っていたらその人達は俺らの前でピタリとその足を止めた。けどすぐにわかった。俺らの前じゃない。この人は彼女の前で足を止めたんだ。
「あら、あなたいたの」
「、おはようございます、」
「なんでこんなとこにいるの?」
「あ、えっと、打ち合わせで」
「へー、あなたがここにいるなら来なければ良かったわ。今日はなんだか空気が悪いと思ったらあなたがいたからね」
びっくりした。驚くほどみぃちゃんに対して嫌な声色で最悪な言い方で余りにも酷い攻撃的な言葉をぶつける目の前の人に開いた口が塞がらなかった。
「、すみません、」
「貴女って本当に図太いわね」
待て待て待て。なんなんだよこれは。
「ねえ、いつまでここにいるの?貴女のせいでうちの会社の品が下がるって昔からずーっと言ってるのに。それでもまだいるつもりなの?」
は?何言ってんの?誰に向かって言ってんの?このおばさん。てかこれなんだよ、何が目的なわけ?いきなりやって来て何言ってんだよこいつマジで。
「、すみません」
「謝るなら早く消えてって昔から言ってるんだけど」
「おい、ちょっ、!!」
頭に血が一気に登って前に出ようとしたと同時に強く腕を掴まれて背中を叩かれた。そこにはさっきのメイクさんがいて。俺をぐっと目の圧で見て動きを制する。いやいや、なんで。なんなのこれ。廉も驚いてるのか固まったまま動かないと思ったけど隣で俺と同じように違うメイクさんに腕を抑えられてたから咄嗟に前に出ようとしたんだと思う。
「・・・あー、今度は何?今はこの若い男の子達を?またどうやってはべらかしたの?」
「、いや「なに?身体でも売った?」
「っ!!!あんたさっきから何いっ「紫耀くん!!!!」
言葉と体を強引に止められたのはみぃちゃんが聞いたこともない大きな声で俺の名前を呼んだから。その声に彼女を見れば俺のことは一切見ずに前の人から目を逸らさずじっと前を見ていた。そしてそのまま頭をゆっくり下げる。
「すみません、すぐに帰ります」
「いいわ。私がもう出るから」
「・・・」
「いつも取って変えて隣に男置いて。本当に卑しい女」
そう言って彼女はテーブルの上にあった紙コップの水を手にしてみぃちゃんの頭に上からかけた。それにマジで許せなくて走って向かおうとしたけど足を出した瞬間にみぃちゃんに強く腕を掴まれる。びっくりして横を見ればみぃちゃんは俺をみてにっこり笑ってた。そんなまさかの表情にびっくりしていたら女の人はみぃちゃんの姿に鼻で笑って。それからそのまま何人もの人をまた引き連れて帰っていった。俺の頭は真っ白になる。いやいやなんでなんで。
「はー、派手にまたやられて。タオルあるよ」
「えへへ、ごめんごめん」
彼女がいなくなったらすぐにメイクさんが笑ってみぃちゃんにタオルを渡して。そしたらみぃちゃんもへにゃりと笑ってそのタオルで顔を拭く。
「水入れててよかった〜、あれジュースだとネチャネチャだったよ?」
「わ、確かに!危なかったね!セーフ〜」
笑い合う2人に俺だけ変な空間にいるみたいで。待って待って。いや笑えないんだけどなにあれ。今何が起きたんだよ。
「なんだよ、あれ」
やっと出た声は思ったより震えた低い声で。そんな俺にみぃちゃんは俺の方を見てゆっくり近づいてきた。
「なんで笑ってんだよ!!!あれなに!?!?なんなの!!みぃちゃんなに黙ってんだよ!!」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃねぇーよ!!!あんな意味わからねぇこと言われて!!あんな、あんな、最低なこと罵られて!!!こんなふうに、水、かけられてっ、」
視界が歪む。悔しかった。涙が溢れた。なんでなんで、みぃちゃんがこんなこと言われないといけないのか。こんな目に合わないといけないのかが全く分からなかったから。理解ができない。だってみぃちゃんこの事務所でめちゃくちゃ功績残してるじゃん。事務所の名前めちゃくちゃ背負って一生懸命仕事してるのになんであんな奴らにあんな簡単に彼女の全てを否定されないといけないのか。それなのになんでここにいる全員があいつに何も言い返さないのか。こんなことが普通に起こってるのも腹が立つし許せないし、さっきの感じ的に昔からずっとこんなことされてるんだと分かった。確かに噂では聞いてた。最初はジャニーズ事務所に女性が入ることをなかなか認めてもらえなくてみぃちゃんすげぇ苦労したって。同じジュニアにもスタッフさん達にも認められなくて頑張って頑張って。でもその頑張りが伝わってどんどんみんながみぃちゃんを受け入れていったのに。なのにまだ一部の事務所の人にすごい嫌がらせされてるって。そんな噂は聞いてたけどまだいまだにされてるなんて思いもしてなかった。みぃちゃん何回今までこんなことされてきたんだろう。される必要のない罵倒を浴びてきたんだろう。何回あの人に心無い言葉をぶつけられてきたんだろう。どうしてどうしてみんなこれを、
「ありがとう、紫耀くん、廉くん」
「っ、」
視界がぐにゃりと歪んで見れないけど横から鼻を啜る音が俺と同じように聞こえてきてるから、きっと廉も俺と同じ顔してるんだと思う。
「こうやってね、私のためにそんなにも怒ってくれる人がいる限り私はなんてことないんだよ。何も傷つかないの」
「、でもっ、」
「どんなに話し合ってもどんなに頑張っても伝わらない人には伝わらない時があってね。私はそんな人たちのために時間を使いたくないの。それならこうやって大切な人のために笑っていたい。あの人に楯突いたって私も紫耀くんも廉くんも何もいいことないでしょ?」
「、俺、許さないよ。みぃちゃんにあんなことするやつ。言ってることは分かるけど、けど、わかりましたってこれで黙れるほどまだ大人じゃねぇし」
「みぃちゃん、あんなん慣れたらあかんよ。ごめん、俺らがガキなんかもしらんけど、あんなんされて笑ってるみぃちゃん見てんのも嫌や」
流れた雫でやっと視界が見えてそしたらみぃちゃんがすげぇなんとも言えない顔して笑ってるから。その瞳からは今にも雫が溢れそうで。そんな彼女を堪らなくなってぎゅっと抱きしめた。
「・・、ごめん、みぃちゃんの方が辛いのに」
「ううん、ありがとう、」
「これ、どうにもならないの?」
「、っ、うんっ、ごめんね。私は、こうして、2人が私に笑ってくれるだけで幸せなの。2人が、それで、離れていっちゃうほうが、「離れる訳ないよ、な?」
「・・離れへんよ。俺らみぃちゃんのことこんなに大好きやのに」
「、うん、ありがとう」
こんなにも理不尽なことがあるのか。自分が何もできなくて自分のちっぽさにイライラした。そのままみぃちゃんは俺から離れると廉のこともぎゅーっと抱きしめて。そしてメイクさんに連れられて一緒に着替えに行ってしまった。
「あれ?みぃは?」
「「っ、お疲れ様ですっ!」」
なんとも言えない気持ちになってその場からなかなか動けない俺達のところに来たのは大倉くんで。大倉くんにみぃちゃんが着替えに行ったこと、今あったことをどう言ったらいいか分かんなくて咄嗟に言葉が出ないでいると。俺らの顔をじっと見た大倉くんは眉を下げてなんとも言えない顔をした。
「・・あー、やっぱりあの人に会ってもうた?」
「・・・はい、」
「やっぱり。さっき見かけたからもしかしたらって」
「・・・」
「みぃは?」
「着替えに行ってます」
「・・あー、そっか、ごめんな。嫌な気持ちさせたんちゃう?」
「、・・大倉くん、あれ毎回っすか?」
「・・せやなぁ。昔から変わらんな」
「どうにもならないんですか」
困った顔した大倉くんに廉は気持ちが止まらなくなったのか強い口調でぶつけていた。俺は感情を抑えるのに必死で拳を握って抑えることに必死で言葉にならない。そんな俺らを見て大倉くんは眉を下げて笑う。
「んー、ならんなぁ。別に諦めてるつもりはないんやけど、昔からでな。俺らも最初はどうにかできひんか色々なことでぶつかってんけどさ 」
「・・・」
「そうなるとさらに酷くなることもあって。結局は無視して違うところでやり返すしかないねんな。まぁみぃは昔から実力で見せつけてやるってずっと頑張ってるけどな」
「俺、嫌です。次また見たら黙ってられないと思います。みぃちゃんがあんなふうに言われるの嫌です」
「・・・」
わかってる。大倉くんの言ってることが正しいのかもしれない。それが大人なんだと思う。でも俺は耐えられない。耐えられないんだよ。あんなことされて何も思わない人間なんていないから。きっと大丈夫って言いながらも彼女は傷ついてる。だからそんな思いに1ミリもみぃちゃんをさせたくないんだよ。
「・・うん、ありがとう。俺らとはまた違うやり方でさ、守ってやれるんやったら守ってやったって」
「・・・、」
「あいつを見守るやり方も、前で盾になるやり方も、一緒に戦うやり方も、色んなやり方があるからさ。ありがとうな」
きっと大倉くんだってみぃちゃんがあんなふうに言われることにいたたまれないんだと思う。この人たちはみぃちゃんのこと誰よりも考えている人たちだって知ってるから。だからきっとどうにかしようといろんなことをしてきてそれでもどうにもならなくて。そして今に至っていることだってわかる。けどそれでわかりましたって理解できるほど俺は大人じゃない。俺らが何もわかってないだけなんだとしても。全部わかって理解してみぃちゃん自身も大倉くんもああやって対処してるんだとしても。俺は納得したくない。俺の大好きで大切な人があんなふうに罵られる事を受け入れることなんて絶対にしたくない。
「たださ、あいつは絶対に目を逸さんから。今まで辛いこと理不尽なこと苦しいこと、いっぱいあったけどみぃが目を背けたことって一度もないねん」
「、っ、」
さっきもそうだった。みぃちゃんはじっと大きな瞳であの人から目を離さなかった。何も言い返さなかったけど逃げなかった。だからあの人は余計に彼女に醜い感情を抱くんだと思う。きっと羨ましいんだ。みぃちゃんのまっすぐな姿が。きっと怖いんだ。彼女の強さが。自分にはないから妬ましく疎ましく思うんだと思う。
「いい返しはせんけど別に目背けてるわけでは無いからさ」
「・・はい、」
「きっと言い返そうとした2人のこと止めたやろ?」
「、はい」
「あいつの中では自分が何か言われるより大事な人たちが悪く言われたり嫌な思いする方が辛いんよ」
「、っ、」
「2人の存在はきっとまたみぃの力になる」
宜しく頼むな、そう言ってきっとみぃちゃんの所に行った大倉くんに廉と2人で頭を下げた。わかってる。みぃちゃんは俺らより広い心で俺らを守ってくれてる。俺らを思ってくれてる。だからって守られてばかりじゃ嫌なんだよ。そんなカッコ悪いこと受け止めてたまるかよ。
「・・だっさいな、俺ら」
「・・・守るよ絶対」
みぃちゃんは嫌かもしれないけど困るかもしれないけど。俺は絶対に守るよ。俺は最後まで戦うよ。どんなに敵が増えてもそれでも彼女を守れるなら喜んで敵を増やすよ。
「、もっとでかくなってやるよ」
「せやな。」
廉に肩を叩かれて2人で頷いてたら着替えたみぃちゃんが笑顔で帰ってきて。その笑顔に俺は胸が痛くてたまらなくなってぎゅっと抱きしめると彼女はなんとも言えない顔で笑ったのだった。
世界の端で苦しんで泣いて、
(ふふ、しょーくん、ありがと)
(・・うん)