プライベート7

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絶対におかしいと思った。今日はみぃちゃんの家でご飯食べて一緒に見たかった映画でも見ようって言ってたからずーっと楽しみにしてた。なのに彼女から撮影が遅くなるから、と断られた。それはまぁドラマの撮影だとよくあることだし不思議には思わなかったけど、待っていると返信したその俺の返事に断っている彼女の雰囲気が頑なに俺と会うことを断ってる気がして。それにすごく違和感があった。みぃちゃんと付き合い出してから俺は分かったことがある。彼女は嘘をつくことがある。それは自分のことに関してが多い。俺にも周りにも嘘をついて自分の気持ちを誤魔化すことがある。だからみぃちゃんの大丈夫は絶対大丈夫じゃないし。みぃちゃんが笑っていてもそれは涙を隠してる時がある。そんな些細なサインに気づいてあげないと彼女はなかなか自分から負の気持ちを人にはぶつけられない。なんとなく今回も小さなサインな気がしたからみぃちゃんのマネージャーさんにすぐに電話をかけた。

(あ、すみません、今日みぃちゃん何時ぐらいに終わりますかね?)

(え?)

(・・いやほら、みぃちゃん大丈夫そうですか?)

(、あー、やっぱ連絡いってました?とりあえず熱は出てそうな気がしてるのと、足も腫れそうな感じなんで今薬と湿布を買ってます。撮影は早めに終わりそうですけどね)

鎌かけたらほらビンゴ。はい嘘つき決定。どうやら俺の彼女は悪い子らしい。なんでそんな嘘ついたんだって思ったけど、けど彼女は誰よりも優しくて本当に自分のことより人のことを思う子だから。だからこそ1番に俺のことを考えてくれた結果なんだとは思う。今グループでの活動の最後のアルバム制作とか新曲のこととか色んなことを話しあってやっているところだから。そんな俺にみぃちゃんはこないだ言ってくれた。

(後悔しないように全力でしないとね)

だから自分のことを俺にいうことをやめたんだと思う。きっと迷惑かける、って思ったんだろう。けどさ、けどみぃちゃん。なんで伝わんねぇかな。俺はみぃちゃんの気持ち全部ちゃんと知りたいのに。悲しいとか悔しいとかしんどいとか辛いとか。そういう嫌な感情もぜーんぶ受け取りたいんだよ。みぃちゃんが1人で苦しんでたら1人で心が痛い思いをするのを知らないなんて、想像するだけで変になりそうなぐらい嫌だ。だから後で怒られるかもしれないけど黙って彼女のマネージャーの車に乗って待っておくことにした。マネージャーには黙っておいてもらって。1番後ろの席に乗っていれば向こうから歩いてくる姿はかなり限界だった。てか足引きずってるし。その姿が予想外だったのか慌てたマネージャーさんが降りて車のドアを開ければマジで倒れ込むようにみぃちゃんは前の座先に転がり込んで。けれどもすげぇ苦しそうな声でも絶対マネージャーに本音は言わないから、ほんと何してんだよと思った時には俺の体はすでに動いていた。彼女の椅子に近づいたけどなかなか顔を隠してるみぃちゃんは俺に気づいてくれない。近くで見て確信的に感じる彼女の体調の悪さ。しんどくて泣きそうになってるのかそれでも必死に涙を隠す姿にぎゅっと俺の胸が痛くなる。ほらね、みぃちゃん。もうダメなんだよ。俺自分のことよりみぃちゃんに何かあった時の方が辛くて悲しくてしんどいようになってる。ふいに顔を上げて俺にやっと気づいた彼女は目を丸くして固まって。けど多分あまり上手く頭が働いていないのか、起き上がることももう出来ないのか、苦しそうに、それでも目を細めて笑おうとしたから腹が立った。こんな状態になってもまだ弱音を吐かない。俺に甘えない彼女に腹が立ったけど、思っていたより出た俺の低い声にきっと俺が怒ってるとすぐに感じたみぃちゃんがめちゃくちゃ申し訳なさそうにするから。あー、違う違う、そうじゃない。そう思って自分の気持ちを落ち着かせてみぃちゃんに声をかければどんどん溢れる彼女の大粒の涙。そんな彼女を抱き起こして座らせてぎゅっと隣から抱きしめる。ねぇ、みぃちゃんお願いだから頼ってよ。俺が頼りないのはこれから頑張るから。だからちゃんと気持ち教えてよ。そんな思いがいっぱいで伝えると、みぃちゃんにも伝わってくれたのか溢れる涙は止まらないけど彼女の小さな途切れ途切れの必死な思いが俺に届く。

(、しょーくん、足、本当はすごく痛いの)

(頭も、痛くて、割れそう、)

(本当は朝からしんどくて、でも、休めなくて、頑張ったの)

(そば、にいてくれる?)

ほら。みぃちゃんやっぱり逆だよ。そうやって気持ち教えてくれたら迷惑なんて気持ちに1パーセントもならないんだよ。ただただ嬉しい。彼女にそうやって気持ちをぶつけてもらったことが嬉しくて愛おしくて可愛くて仕方ないんだから。

「・・あれ?寝た?」

ぎゅーっと抱きしめながら背中を撫でて頑張ったことを伝えていればスヤスヤ聞こえてきた小さな寝息。彼女の体はかなり熱くて多分熱も今の涙で上がってるかもしれない。しんどいだろうなーと思いながらも彼女をぎゅっとしていれば、前から咳払いが聞こえた。

「、俺、初めてみぃちゃんの弱音聴きました」

「・・なんか、人に言わないらしいっすね」

「はい。メンバーさん以外にはなかなか気持ち言わないらしくて、」

「・・・」

「マジで今日撮影中は誰にもバレないぐらいしんどそうなそぶり一度も見せてなかったんで、そんなにしんどかったんだって驚きです」

「・・・、こっちが気づかないと、ですね」

「・・ですね」

頼ってよ、なんて言葉は相手へ気持ちをぶつけてる無責任な言葉だ。頼ってくれるように、彼女が俺に気持ちを簡単に言えるように俺が頑張らないといけない。彼女が言いにくいと思わないように。けどそれもみぃちゃんの性格だから、相手のことを1番に考える人だから。そんな彼女の小さなサインをこうやって俺が逃さず気づけるように。これは彼氏になれた俺ががんばることだと思う。

(みぃちゃーん、着いたよ)

家に着いてみぃちゃんを起こしたけど起きたてだし具合悪そうだから多分ちゃんと歩けないだろうと彼女の膝に手を回してお姫様抱っこして抱き上げた。びっくりしてたけど咄嗟に首に腕を回してきたみぃちゃんに思わずにやけそうになったのを一生懸命堪える。荷物も預かってマネージャーさんに頭下げて向かおうとしたのに腕に違和感を感じて見れば彼女は後ろを振り返ろうと首を上げてた。

(湿布と薬ありがとう、使わせてもらうね)

あー、好きだなっておもった。みぃちゃんのこういうところ。長くこの世界にいるとマネージャーさんにやってもらうことが当たり前になりやすいのに。彼女はそうじゃない。いつまでもどんな時でも人に感謝する心を忘れない人だから。こんなに熱出てしんどくてそれでもマネージャーさんにお礼の言葉が言えるなんて。誰にでも出来ることじゃない。みぃちゃんのこういうところが本当に尊敬できるし好きだなって俺は思う。ただみぃちゃんはそんな自分の魅力を自分では全くわかってないみたいだから俺が教えてあげないといけないけど。まぁ彼女の魅力なんて俺だけが知ってたらいいんだけどね。

(きて、くれて、ありがとう、本当は、会いたかったの)

(っ、)

(だいすきっ、)

小さな声でも俺の耳にはちゃんと届いた彼女の言葉。その言葉に一気に自分の顔が熱くなったのがわかる。そのままスヤスヤと眠ってしまったみぃちゃんに参ったのは俺の方だった。うわ、どうしよう。この気持ちやばい。おさえられない。ふーー、っと息をゆっくり吐く。可愛すぎる。やばい。俺もなんとか気持ちをおさえてとりあえずでも早く薬だけは飲ませないといけない。てか熱何度あるんだろマジで。額を触ればかなり熱いし。けど体温計どこにあるか知らないから測れない。とりあえずマネージャーさんが買ってきてくれた解熱剤を手にみぃちゃんの肩を揺すってなんとか朦朧とした意識の彼女に薬を飲ませれた。これで次に起きた時にはちょっとでも熱は下がってたらいい。あとは、とみぃちゃんの足に湿布を貼ろうと布団をまくってみれば。

「・・は?マジ?」

ありえないほど腫れてる足。いやいやこの人マジでこの足で撮影してたわけ?慌ててそっとみぃちゃんの足に湿布を貼って包帯を巻く。明日歩けたらいいけど、てかこれ明日休んだ方が絶対いいんだけどなー。マジでどんだけ耐えたんだよ今日。1人でこの痛さと闘ったと思うと胸が痛くてしんどい。あとは起きてから何かしらは口にできるようにと彼女のキッチンに立つ。みぃちゃんのキッチンはいつも綺麗で料理が好きな彼女らしく色々な物が揃っている。これまた忙しいのにいつも綺麗にされてるところがみぃちゃんらしい。マジで良い女すぎない?何ができないんだろ。あ、ゲームとか機械音痴なところかな、そういえばこないだゲーム負けて悔しがってたな。そんな可愛い姿を思い出したら自然と笑えてきた。ちょっと色々な物を勝手に借りておかゆを作る。それが出来あがって寝室に戻ればさっきよりかは少し穏やかな表情のみぃちゃんがいて少し安心した。ゆっくり前髪を撫でる。ほんと、なんでこんな小さな身体で無理するんだろう。白くて柔らかい頬に手を添えてふにふにと感触を楽しんでいたら眉毛が揺れてみぃちゃんの瞳がゆっくりと開いた。

「あ、」

「・・ん、紫耀、くん」

「おはよう。どう?しんどい?」

「・・・んーん、随分マシ」

「でもまだ熱あるよ」

「そうかな?」

彼女の額はまだ熱い。みぃちゃんは俺の手に、んっと眉を寄せて目を瞑った。冷たかったのかと慌てて離そうとすればそっと俺の手に重ねられる彼女の小さな手。

「しょーくんの手、冷たくて、気持ちいい」

えへへと笑う彼女が可愛くて仕方ない。ぐっと顔を近づけたのは無意識で。けど俺の唇とぶつかったのは彼女の手。え、と前を見れば眉を下げて笑う彼女。

「だーめ。ねつ、うつる」

「うつしてよ」

「やだよ、ぜったいやだ」

「みぃちゃん体温計どこ?」

「リビングの白い引き出しの上から2番目」

「わかった、待っ「やだ」」

すぐに取りに行こうとしたのに腕を引っ張られてそれを止められた。ん?と彼女をみれば潤んだ瞳と赤く染まった頬。

「お願い、行かないでっ、」

こんな可愛い彼女を見て抑えれる男がいるなら連れて来て欲しい。ぐっとみぃちゃんの腕を掴んで唇を重ねる。んっと彼女が俺を退けようとしたけどそれを押し除けて何度も唇を重ねた。

「っ、しょ、くん」

「今のはみぃちゃんが悪い」

おでこをコツンと重ねてそう言えばさらに潤んだ目で見られるから困った。彼女の額に優しく唇を落として今度は頬、さらに首元に魔法を落とせばケタケタ笑うみぃちゃんが可愛すぎて本当にどうしたらいいかわからない。

「おかゆ作ったよ、食べる?」

「え、作ってくれたの?」

「うん、めちゃくちゃ美味いよ?おれのおかゆ」

「ふふ、それは楽しみ」

「じゃあ熱測ってご飯食べよ」

「うん!」

「はは、ご機嫌だな」

「しょーくんのおかげでね」

「可愛いからまたチューしてやる!!!」

「きゃー!だめーー!!」

笑っているけどしんどいのはしんどいんだと思う。まだ体は熱いしぼーっとしてそうだし。熱測ったら全然まだ高くてとりあえず解熱剤飲んでおかゆも食べてもらった。なんとか頑張って食べてくれて服を着替えてまたベットへと寝かせる。俺も部屋着に着替えて隣に寝転べばみぃちゃんは眉を下げて笑った。

「ごめんね、映画も見れなくて」

「別に映画見たいからみぃちゃんといるんじゃないからね?みぃちゃんといたら何でもいいんだよ」

「・・」

「もしさ、みぃちゃん。俺がみぃちゃんに内緒で怪我してたり熱出てたらどうする?」

「・・・、え、やだ」

きっと想像したのかすごく嫌な顔をしてくれたみぃちゃんに俺も頷く。

「でしょ?俺も嫌なんだよ。みぃちゃんに内緒にされちゃうのは」

「、」

「だからこれからはさ、お互い内緒は無しにしようよ」

「、うんっ、ごめんね」

「ううん、俺もごめんね、怖い顔した」

「ふふ、自覚あり?こわかったよ笑」

「うん、自覚あり」

「もう怒らせないようにしないと、こわい紫耀くんいやだもん」

「やめてよこわくないから」

2人で仲良くベットに入って布団をかけて俺の腕をそっと彼女の頭に回した。そしたらニコニコ笑ったみぃちゃんが俺に擦り寄ってくるから可愛くて片手でぎゅっと抱きしめる。

「明日になったら元気になってるかな」

「うん、なってるよ、大丈夫」

「・・ほんと?」

「俺がいるんだもん、大丈夫だよ」

「・・ふふ、だね、ありがとう紫耀くん」

「うん、おやすみ、みぃちゃん」

彼女の前髪をそっとどけて魔法を落とせば嬉しそうに笑ったみぃちゃんはそのままスヤスヤと眠っていった。どうかみぃちゃんの辛さも全部綺麗に明日になったら消えてますように。こうしてこれからも彼女が辛い時には俺がそばにいますように。そう思いながら見た夢は俺とみぃちゃんが仲良く2人でデートしてる夢で。朝起きて奇跡みたいにみぃちゃんも同じような夢を見てたから2人で笑い合ったのだった。


スーパーマンになりたい、


(どう?体調は)

(うんっ!復活!紫耀くんのおかげ!)

(うん、でも無理はしたらダメだから今日現場迎えに行くしなるべく早く帰れるようにマネージャーさんにも頼むからね。いい?)

(あ、はい)

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