プライベート7
□カラメルからめてからまって
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「あ、紫耀く「え、ほんとに!?」
「そうなんです〜!!で!そこが凄くて!」
「え!マジで!?なにそれ!どんな味なの?」
「甘そうに見えて甘くないんですよ!平野さん甘いの苦手じゃないですかー?」
「うん!え、なにそれ興味あるんだけど!」
事務所に用事があって行けば見えたのは彼の姿で。それに嬉しくなって駆け寄ろうとすれば楽しそうな笑い声と、その隣に見えた綺麗な女性の姿。若いスタッフさんだろうか。紫耀くんと同い年ぐらいかな。なんだかかなり親密そうで2人で楽しそうに笑ってる。その距離感というか空気感はこっから見ても感じる親しさで。あー、やっぱり彼にはああやって若い女の子と隣にいる姿がお似合いだよな、と。走りかけてた足は鉛のように重くなった。凄く大きな現実を目の当たりにした気がして上手く声が出ない。・・・うん、帰ろう、そう思ってたら紫耀くんの向こうから大きな声で名前を呼ばれて振り返ろうとした足がまた止まる。
「みぃちゃーん!!」
「っ、れんれん、」
「偶然っすね!何してたんすか!」
そのまま駆け寄ってくれた廉くん。うん、絶対あなたのその大きな声で紫耀くんにも私がいることがバレたよね。え、どんな顔してるんだろ、そう思ったけどうまいこと廉くんが立ってるから私から彼の姿は見えなかった。それに少しホッとして前にいるれんれんに「偶然だね」と笑いかければ相変わらずニコニコ可愛い笑顔を向けられる。あ、癒しすぎる。可愛い。
「俺ら今から打ち合わせなんすよ」
「あ、そうなの?てかれんれんこないだたーくんとご飯行った?」
「行きました!」
「えー、誘ってよぉー、仲間はずれじゃん」
「はは、今度はじゃあ誘います」
「あの美味しいお寿司食べた?」
「え、なんでわかったんすか」
「わかるよ〜、ずっるーい」
「じゃあ今度2人で行きます?僕奢りますよ」
「え、気遣うよ、奢らなくていいよ」
廉くんって一見クールそうに見えるけど本当に知れば知るほど子犬っぽいところあるというか、猫に見せかけた犬みたいな。一回仲良くなればかなり懐いてくれるから可愛いよなー、と思って。ニコニコ前で笑ってる彼に無性になんだか頭を撫でたくなって手を伸ばしちゃったらパシリとその手が掴まれた。びっくりして横を見れば眉を寄せた紫耀くんが立っている。
「・・・2人で行かなくていいから。つか廉も近い」
低い声。眉間の皺。あ、怒ってる。そう思ったけどさっきの場所にはまだあの女性が目を丸くしてこっちを見てて。いやなんでこっちきたの、さっきまであの人と楽しそうに喋ってたくせに。そんな嫌な言葉が浮かんだから慌てて自分の胸の中で押し殺す。
「てかいたならみぃちゃん声かけてよ」
「・・んー、気づかなかった」
「いや絶対気づいたでしょ」
「いいからいいから早く戻りなよ?あの子待ってるよ?」
「・・・」
そう言ってそっと彼から掴まれた腕から手を離して距離を取れば紫耀くんの皺はもっと深くなって。いつもならそんな分かりやすい彼に声をかけるけど今日はなんかそんな余裕もない。心が完全にモヤモヤしてるから。ごめんね。でもこれは私がこの場にいたらよくないなぁ、って、思ったからそのまま帰ろうとしたのに。また腕を掴まれる。
「・・・・どしたの?」
「どしたの?はこっちだよ。なんかあった?」
「なんもないよ」
「嘘つき。また嘘ついてる」
「ついてないよ」
「ねぇ、俺さ、みぃちゃんのこと分かんないほどバカじゃないんだけど」
「ごめんね、今紫耀くんと喋りたくないの」
「え」
「・・れんれん、じゃあまたね」
そのまま廉くんに挨拶してきっと固まってるであろう彼を無視して足早にその場を去った。やってしまった。やってしまった。どうしようどうしようどうしよう。最大にやらかした。自分の醜い嫉妬で彼に最悪な言葉を投げつけた。これはどうしよう。
「・・・もう無理、わたし、むり」
「だからって俺を痴話喧嘩に巻き込むなよ」
「痴話喧嘩みたいな可愛いやつじゃないのぉ」
帰ってすぐに連絡をいれたのはこういう時に声を聞きたくなるお兄ちゃんで。すぐに今日の夜会えるか聞けば空いていたみたいなので、いつもよく行くお店に連れてきてもらった。私の愚痴をずーっと聞いてくれてるきみくんはため息をついてハイボールを流し込んでる。
「なんであんなこと言っちゃったんだろ」
「あれから連絡ないん?」
「ないの、どうしよ、怒ってるよ絶対あれは」
「・・・怒ってる、というか、」
「私最低すぎる、もう、ほんとに、むり、」
あの時の紫耀くんの顔。かなりびっくりしてた。れんれんも固まってたし。だってあんなにいきなり嫌な態度とれば驚くし腹立つし。もうもしかしたら二度と紫耀くんと笑い合えないかもしれない。人というのは出会ってから距離を縮めることは時間がかかるくせに、別れたり離れるのは意外と一瞬の出来事だったりする。このままどうしよう。紫耀くんからお別れされたら。もう無理だって言われたら。そもそもお別れの言葉さえないかもしれない。このまま会わずに、かもしれない。考えれば考えるほど涙が溢れて止まらない。
「・・お前の気持ちと平野くんの気持ち、ちゃうと思うけどなぁ」
「私が、全部、わるいの、勝手に嫉妬したの」
「・・・その若い女の子に?」
「、うんっ、お似合いだったから、」
「・・・みぃさ、そんなに年齢差気にしてんの?」
「、そう、みたい、」
「なんでなん?平野くんは気にしてないんちゃう?」
「そうだけど、けど、いずれ気にするかもしれないし」
私の言葉にきみくんは深くため息をまたついて。それから「ほんまに損な性格してんなぁ」とトドメを刺してくるから涙がさらに溢れた。きみくん意地悪。
「とりあえず、どうなっても、謝らなきゃ、」
「・・・」
「怒らせたこと、謝らないと」
「・・そもそも怒ってる、んか?」
「怒ってるよ、絶対怒ってる」
「・・・いや、多分ちゃう気がするけど」
「許してもらえないと思うけど、それでも謝る」
本当に私ってなんて嫌な女なんだろう。あんな感情を彼にぶつけるなんて。どうして年上の私があんなふうな態度とっちゃうんだろう。あー、本当に自分で自分が嫌になる。そんなこと考えていたら止まらない涙。そんな時頭の上にふわりと乗った手。
「・・大丈夫、ちゃんと話し合ったら大丈夫やで?」
「、・・・」
「お前はほんまに、」
「、っ、きみくんっ、」
「なんでそんな昔から自分に自信ないねん」
そこからは泣きすぎてる私にきみくんがお酒をすすめて。飲んで泣いて飲んで泣いて。ふわふわと意識がしてこのまま寝ちゃいそうになってた時に微かに聞こえた話し声。それから優しく撫でられた頭にまた涙が溢れた。ねぇ、きみくん。わたしカッコ悪いでしょ。どうしたらいいのかな。
「人を好きになるの、向いてないっ、」
「・・・んなこと言うなアホ」
そんな私に切なくきみくんが呟いたことなんて知らなくて。夢の世界に入ってもまだ止まらない涙をきみくんはずっとずっと優しく拭ってくれたのだった。
私には自信がない、
(・・こいつの大きな課題やなぁ、、)