プライベート7

□彼はスーパーヒーロー
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完全に調子が悪いことは分かっていた。朝から少し頭が痛くて。んー、おかしいなって思ってたけど撮影中どんどんフワフワしてきたというか。関節痛いし寒気はするし。これはやばいと思ったけど不思議な物で本番中はアドレナリンが出まくっているのか、スタートの声がかかるとピタリと症状は止まる。だから1番辛いのは待ち時間やふとした空いた時間。気合いでとにかく今日の撮影だけは乗り切ろうと思っていたそんな時だった。

「みぃちゃん、段差っ!!!」

「おいっ!!」

「え、あ、っ、」

後ろにあった段差に気づかずそのままつまずいて転けそうになったところをぐいっとたけるに引っ張ってもらいなんとか落ちなくてすんだ。けどその時に変に足が着地してその痛さに思わず顔が歪む。

「ばか、なにしてんだよ!」

「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」

「・・なんか調子悪い?」

「ううん、本当に大丈夫、ありがとう」

足はジンジン痛いし頭も痛くなってくるしでいろんなことがダブルパンチで。なんだか情けなくて涙が出そうになっていればたけるに頭をポンポンと撫でられて。そのまま顔をそっと覗き込まれる。

「・・熱、あるでしょ?」

「・・・撮影させて、あと2シーンだけだから」

「・・・みぃ、」

「お願い、たけるん、本当に無理になったら言うから」

「・・頑固者」

ため息をついたたけるだけど、そこからそばにいてそっと助けてくれながらなんとか撮影は終了になった。とにかく早く帰って薬飲んで寝ようと思ったからマネージャーには空いてる時間に市販の風邪薬と湿布を買ってきてもらうことにした。そして今日は彼が家に来るって言ってた日だったから申し訳ないけど今の自分が誰かに会える状況でもないし。何よりも紫耀くんにこの風邪を移してしまうことは絶対に嫌だから、撮影が長引いたから今日は会えない、と連絡を入れるとすぐに既読がついた。

(家でじゃあ待ってていい?)

(ううん、本当に遅くなりそうだからまた今度にして?)

(わかった。じゃあまた。無理せずにね)

これで大丈夫だとなんとか撮影は終わったけど(たけるには普通に怒られた、あの人怒ると怖い)足はどんどん痛くなってきたから後で車で湿布でも貼ろうと思ってなんとかマネージャーの車に乗り込み、傾れるように手前の座席に寝転ぶ。

「え!大丈夫ですか!?」

「・・・大丈夫、とりあえずお家向かってもらっていい?」

「熱、上がってきてる感じですか?」

「んー、どうかなー、、」

「足はどうですか?」

「んー、、、大丈夫」

大丈夫ではない。本当はすごくしんどいし凄く痛いしなんだか涙が出そうになる。もう足の感覚もないし。でも今ここでマネージャーに涙を見せれば大事になりそうだし心配かけちゃうのも嫌だし。明日の撮影無くなるとかもありえないから、ぐっとこらえてそのまま上を向いた時だった。私の視界に入ったのは眉を寄せてかなり不機嫌そうな顔の紫耀くんだった。

「っ、え、なんで」

いないはずの彼の登場に頭が真っ白になって言葉が詰まる。そんな私に「みぃちゃんって本当に嘘つきだよね。なんでそんな悪い子なの?」と低く少し掠れた声が車内に響いた。

「・・、な、んで」

「あんな嘘のLINE俺が信じると思う?絶対なにか隠してるやつじゃん、すぐみぃちゃんのマネージャーに連絡いれて事情聞いた」

「・・・」

「熱でてるわ足も挫くわって、それで大丈夫なわけないじゃん」

「・・・、」

「そんな大丈夫じゃない顔してさ、何が大丈夫なの?」

いつもよりかなり低い声。あー、すごく怒ってるんだなって思った。そりゃそうだよね。今日は紫耀くんの好きなハンバーグ作るって約束してたし。それに2人で映画見ようって言ってたし。せっかく楽しみにしてたのにドタキャンしちゃったんだもん。

「・・、ごめんなさいっ、」

自分でもありえないほど涙が一気に出てきて止まらなくなって。もう紫耀くんの顔なんて見えなかった。彼がそっとしゃがんで私に近づいたのは雰囲気でわかったけど、うまく紫耀くんの顔も見れない。あー、情けない。情けなくて悔しくて涙が止まらない。

「みぃちゃん、それって何のごめんなさい?」

「っ、」

「きっと今俺が思ってる気持ちとみぃちゃんの気持ち違う気がする」

「・・、」

「俺は別に今日会えなくなったこととか、そんなことで怒ってるんじゃないよ?」

「・・・、」

「みぃちゃんが俺にしんどいこと隠したことに怒ってんだけど」

「、っ、」

頭に感じる彼の大きな手。サワサワと横に動かされて彼に目をやるけどなかなか視界が歪んでるから紫耀くんがどんな顔してるかわからない。けど声はさっきと違ってとても優しい声だった。

「・・嫌なの、俺が。こんなふうにみぃちゃんが無理して頑張って、1人で泣いてるとか絶対嫌なんだよ」

「っ、」

「俺、そんな頼りない?」

「っ、そんなことっ、コホコホっ、」

いきなり大きな声を出したからか咳が出て止まらなくなって。そんな私に紫耀くんは私を抱えて起こしてくれるとそのままぎゅっと抱きしめてくれて背中を優しく叩いてくれた。

「みぃちゃんが俺を思ってくれたのはちゃんとわかってる」

「・・・、」

「俺に風邪うつしたくない、とか。迷惑かけたくない、とか思ったんでしょ?」

「、しょ、くん、今大事な時期だから。迷惑、かけたくないの、」

「・・うん、その気持ちはすげぇ嬉しい。けどさ、迷惑ぐらい、かけてよ俺に」

「、」

「だって俺みぃちゃんの彼氏でしょ?」

「っ、」

ゆっくり体を離されて。それから親指で優しく涙を拭ってくれれば紫耀くんの優しい顔が見えて。それにまた涙が溢れてきて止まらなくなった。

「もう、涙止まんないじゃん」

「、しょーくん、足、本当はすごく痛いの」

「っ、うん」

「頭も、痛くて、割れそう、」

「、うん」

「本当は朝からしんどくて、でも、休めなくて、頑張ったの」

「・・うん、頑張ったね」

「そば、にいてくれる?」

「っ、当たり前じゃん」

ぎゅーっとぎゅーっと抱きしめられて。そこからよく頑張ったねって何度も褒めてくれた紫耀くんにいつの間にか彼の腕の中で眠ってしまった。次に気がついた時には紫耀くんの私を起こしてくれる声。

「みぃちゃーん、着いたよ」

「、んっ、ごめ、私寝てた、」

「うん、ちょっとごめんね」

ふわっと浮く感覚。それにびっくりして慌てて彼の首に手を回す。働かない頭の中で彼がマネージャーから荷物を預かってそのまま駐車場へ出たから、慌てて彼の腕を引いた。

「ん?」

「ま、て、っ、さとうくん!」

「え、あ、はい!」

「今日は、心配かけて、ごめんね」

「あ、いや、全然ですっ、大丈夫ですか?」

「うん、明日変わらず迎えにきてもらっていいかな?」

「、あ、わかりました」

「湿布と薬ありがとう、使わせてもらうね」

頭をペコペコ下げる彼になんとか挨拶をしながら紫耀くんに甘えてそのまま抱き上げて部屋まで連れて行ってもらうことにした。とりあえず明日もう一度かれにお礼を言おうと思っていたらふいにバチリと視線が合う。

「、ど、したの?」

「んー?いや、マジ俺の彼女いい女だなって思って」

「・・この状況の、どこが?」

「いいよ、みぃちゃんには分からなくて。俺だけが分かってたら」

ニコニコ笑う紫耀くんに訳がわからなくて。そのまま部屋まで連れて行った紫耀くんは私を優しくベットに降ろしてくれた。

「っ、ごめんね、ありがとう」

「ごめんねはいらない」

「、ありがとう、紫耀くん」

「うん、ほんとよく頑張ったね」

そのまま頭を優しく撫でられればスーッと瞼が落ちていく。あー、やばい。寝ちゃう。もっとちゃんと紫耀くんにお礼言いたいのに。

「寝ていいよ?」

「しょ、くん、」

「ん?」

「きて、くれて、ありがとう、本当は、会いたかったの」

「っ、」

「だいすきっ、」

最後は言葉になってたのかもわからない。なんとか発した音が彼に届いてたらいいのに。そんなこと思いながら夢の世界に入ったけど、見た夢はフワフワと優しい気持ちになる暖かい夢だった。


彼はスーパーヒーロー


(・・むりむりむりむり、可愛すぎだろ、何今の、え、なに。俺どうしたらいいわけ?)

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