プライベート7

□酔っ払いお姫さま
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「みぃさ、なんか好きな人でもできた?」

「っ、」

それは突然の質問だった。久しぶりに2人のオフが重なって。ご飯でも食べようよと恵梨香の家に呼ばれて一緒にご飯を食べていた時。お互い何品か作りあってお酒を飲みながらその美味しい料理達に舌鼓を打って。あの作品はこうだとか。あの芝居はこうだったね、とか。ちょっと熱く仕事の話したかと思ったら今度はバカみたいな話したり。かと思えば出会ったばかりの昔の話したりとそんな色々脈絡もない色々なお花をあちらこちらに咲かせていた時だった。それもまた何の話のつながりもなくいきなりズバッと切り出してきたのは目の前でかなりニヤニヤしている昔からの親友で。思ってもなかった質問にびっくりしたから飲んでたものを吹き出しそうになったぐらい。

「あ、当たったんや」

「なにいきなり」

「いや親友の目はごまかされないもんよ?」

そう言って恵梨香はさっき私が作ったサラダを口に入れて。それから「これドレッシング美味しい!何で作ったの?」なんて言うけどその顔はまだニヤニヤが隠せてないから(隠す気もないと思うけど)軽く睨めば、さらに声に出して笑われてしまう。

「なんで怒るの?悪いことじゃないじゃん」

「・・・悪いこと、なんだよ」

「え?なんで?」

「・・・なんでって、んー、」

「・・・へぇ、いや、ま、別に聞いといて答えてほしい訳ではないからええねんけど。あ、みぃそれより美味しい桃のお酒買ったから飲む?」

「え!飲む!」

「お、じゃあ取ってくるわ」

そう言って立ち上がった恵梨香に、それよりって話題なら聞かないでよとつっこみながらも私もえりかの作った料理を口に運ぶ。いつも彼女のご飯は美味しい。これは桃李くんも幸せだなぁなんて思っていたら本当に美味しそうなお酒を持ってきてくれて。炭酸で割りながら頂けば上品な桃の香りが鼻に広がって、これは美味しいねと2人で飲み合った。どうやら監督さんに貰ったらしくてこのお酒ネットで買えるかな、なんて調べたり。そういえばこないだ行ったお店のお酒も美味しかったとか。今度ここに行きたいとか。またいろいろな話をしているうちに、どんどんペースは進んで。気がつけば2人で開けたお酒はほとんどからになっていた。自分の顔が熱くて。なんとなーくぼーんやりと視界がしてきて。頭の中も思考回路がうまく働かない。そんな私に同じく頬をピンク色に染めたえりかがフラフラと隣に近づいてきて隣に腰掛けた。

「ちょーっと寝る?」

「・・んー、どーしようかな、」

「って言ってる間に、寝ちゃいそうだね」

「ふふ、えりかもね」

「うん、多分私も寝ちゃうからすぐ忘れると思う」

「んー?」

「みぃもその感じもう寝る5秒前やから忘れると思うで」

「たしかに。ねむぅい」

「みーんな忘れてまうんやからさ、今、その気持ちここに捨てていったら?」

「、・・」

「大丈夫、ここに置いていったらいいから」

えりかがそう言って私の頭をそっと撫でるから。そんなつもりもなかったのに。なんでか分からないけど視界が歪んで。うまく働かない頭でもその言葉に浮かぶのは最近私の頭の中を支配している彼の顔で。あー、どうしよう、どうしたらいいんだろ、そう思ったけど隣を見れば恵梨香が本当に優しい目で待ってくれているから、気がついた時には口が開いてた。

「・・わたし、こわいの、かな、」

「こわい?」

「・・こわいの、こんな、気持ち、もうならないって、おもってたから」

「・・・」

「どきどき、わくわく、こんな気持ち、もう誰かにするなんて、おもってなかった」

「・・・うん」

「あえばあうほど、知りたくなって、あー、すてきだなぁ、この人ほんとうに良い人だなー、いっしょにもっといたいなー、そういうとこ、すきだなーって」

「ふふ、たのしい気持ちだね」

「・・うん、だからこそ、この人にはしあわせになってほしいなぁーって、この人には誰よりもしあわせでいてほしいの」

「・・みぃがしてあげたらいいじゃん」

「・・・それは、わたしじゃないと思うんだよね」

「・・なんで?」

「彼にはまだまだこのさき、たくさんの出会いがあって、たくさんのひととのご縁もあるし」

「・・うん」

「・・・わたし、じゃない、とおもうんだよね」

「・・・そっか、」

「なのに、にんげんってこわいよね。どんどん欲が出てくるの」

「・・・」

「もっとちかづきたいって、思っちゃうの」

「・・ねぇ、みぃ、」

「ちゅうとはんぱなことしたら、あの子をきずつけることなんて、わかってるのに」

「・・・」

「、なのに、はなれられないっ、」

涙が溢れて言葉にならなかった。そんな私に恵梨香はそっと肩を抱いてくれて、彼女にもたれかかるようにして、恵梨香の胸に顔を預けた。もう止めれないのもなんとなく分かってた。気づかないようにしてるだけでいかに自分の中で彼の割合が大きくなってきているのかも感じてた。感じてたけどそれに気がつかないふりをしていたのも、薄々分かっていたけど。

「・・・確かに、私もいろんな経験してきたから、永遠がないことはわかってるよ」

「っ、」

「けど、それを恐れて新しい出会いを消しちゃうのはまた違うと思う」

「、っ、」

「傷つくことは大事なことだから。それを恐れたらダメ」

「、・・」

「ねぇ、みぃ。私ね、みぃには世界で1番幸せになってほしい」

「っ、」

「みぃには、好きな人と、手を取り合って笑っててほしい」

「、」

「いいんよ、好きだなって思う人と一緒になって」

「、」

「後悔しない道を選んでほしい」

「っ、」

「世間とか、立場とか、そんなのいらないよ。そんなのいらないから、ここのみぃの気持ちだけで動いたらいいじゃん」

「っ、えりか、」

「っ、ん?」

「ここ、いたいね、苦しいっ、」

「・・うん、それはね、もうみぃ、恋してるんだよ」

涙が止まらなかった。なんの涙か何に泣いてるのかもわからなかった。ただえりかの言葉に涙は次から次へと溢れてきて。そして彼の顔が頭から離れなかった。いろんな人と出会ってきて色んな人とお別れしたけど。大好きな人と別れるあの痛さや辛さは本当にしんどかった。悲しかった。もうしたくないと思ったし。今の彼との関係が心地よいからもし違う形になってうまくならないことを考えると怖くて仕方ない。後真っ直ぐすぎる気持ちを受け止めていいものか、あの気持ちに答えていいものか。それはそれで違うって彼はならないんだろうか。色んなこと考えると胸が苦しくなるんだよ。

「・・そんなに涙出るぐらい好きなんやね」

「っ、・・寝て忘れちゃえたらいいんだけどね、」

そういえば昔さ、とそこからまた2人の思い出話が始まったから。えりかと肩を寄せ合って話しながらどんどん瞼は重くなっていって。彼女の肩に寄りかかりながら夢の世界へと飛び立っていった。だから知らなかったの。そのあと恵梨香がずっと泣いていたことも。そして私の幸せをただただ願っていてくれたことも。そして何度もかかる着信に出てくれて彼と話したことだって。夢の中の私だけ何も知らないままだった。


酔っ払いお姫様


(・・可愛い寝顔、なんであんたはいつもそう、難しく考えるかな)

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