プライベート7
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今度会おうと言ってた日に仕事が入ってしまったから、とりあえず電話しようと思ってメールじゃなくて電話した自分を今褒めてやりたい。みぃちゃんに電話かけても出なくて、1回、2回、3回とかけて出ないから、あれ、寝てるのかなと思って切ろうと思ったその時だった。
「・・もしもぉし」
「あ、もしもし?ごめん、寝てた?」
「・・んー、すこーしねてたかなぁ」
「・・みぃちゃん酔ってる?」
聞こえた声はなんだか甘くてフワフワしてて。呂律があまり回っていない話し方は明らかいつもと違う様子だった。俺の問いかけに少ししてから小さな笑い声が聞こえてきて。
「よってないよーだっ」
なにそれ可愛い。てか絶対酔ってんじゃん。完全にそれは酔ってんじゃん。その俺の心の中のツッコミは彼女に届くことはなくて、みぃちゃんは自分の言い方に自分でツボったのかケタケタ楽しそうに笑ってた。
「あのね酔っ払いはみんな言うの!酔ってないって」
「えー、だってほんとだもん」
「どこで飲んでんの?外?」
「ふふ、なーいしょ♡」
「いやなんでよ、教えてよ」
外で飲んでるのかな、と思ったから耳を澄ましてみたけど、彼女の声以外あまり何も聞こえない。周りもガヤガヤしてないからお店ではないとは思うけど。けれどもなんとなく1人ではない感じもする。そうなると誰といるのかも気になってくるわけで。
「ねぇ、みぃちゃん?今どこで、誰といるの?」
「だーかーらー、なーいしょ♡」
「その、なーいしょ、は可愛いけどさ、ほらこんな時間まで飲んでると心配になるから教えて?」
「しんぱい?」
「うん、みぃちゃん女の子だもん。危ないよ」
「・・・わたし、もうおんなのこじゃないよ」
「え?」
「そんな、しんぱいされるような年でもないもーん」
なんでなんだろう。どうして彼女はたまーにこうして年齢のことを話すんだろう。俺は自分がみぃちゃんの隣に並ぶのはまだまだガキすぎて恥ずかしくなることが多いけど。彼女もまた歳が気になるのかこんなことをポツリと言うことがたまーにある。それもちょっぴり寂しそうな顔や声色で言うから気になって仕方ない。そしてその度に不思議な気持ちになるんだよ。なんでみぃちゃんがそんな気持ちになるのか。そしてどうしたらその大きな勘違いを壊すことができるのか、知ってる人がいるなら誰でもいいから誰か教えてほしい。
「もう、みぃちゃんどこ?俺迎えに行くよ」
「・・おむかえ?」
「うん、お迎え。車出すから教えてよ。家まで送る」
「・・ふふ、しょーくんに、あえる?」
「っ、」
「それはうれしいなぁ」
小さな声でつぶやかれた声は電話だからかはっきりと俺の耳に届いて一瞬で身体全体が熱くなったのがわかった。あー、やばい。これはやばい。一瞬衝撃で止まった身体をまたすぐ動かして外に出る準備を軽くする。軽くするけどしっかり鏡の前に立ってチェックするのは大好きな彼女の前ではいつでもかっこいい自分で少しでもいたいから。
「ねぇ、住所送れる?今送って」
「・・・しょーくんっておうじさまみたいだよね」
「みたいじゃなくてみぃちゃんの王子なんだけど俺」
「・・・」
「で、みぃちゃんが姫ね。ちょ、早くして!もう準備できるから」
「んー、ふふ、でもだいじょうぶ、ひめは、ひとりでたたかえる、つよいひめだからねぇー」
「あ、ちょ!寝たらダメだよ!?」
「・・んー」
「みぃちゃん!!マジそこどこか知らんけど寝るのは危ないから!やめて!起きて???」
やべぇ!みぃちゃん寝ちゃう!と思って焦って声かけるのに(名古屋弁でたわ焦りすぎて)聞こえるのは小さなスースーとした音。これはやばい!マジこの人どこで寝てんだ!と思っていたら「あ、すみません、変わりました」といきなり落ち着いた声が電話から聞こえてきた。
「え?」
「ごめんなさい、戸田と申します。みぃ今私の家で飲んでて、寝ちゃってるみたいで」
「、あ、すみません、」
戸田、で繋がったのは彼女からよく聞く仲良しな女優さんの名前。それでみぃちゃんが外じゃなくて家にいることがわかってホッとした。女友達の家にいるなら尚更でガールズトークにでも花を咲かせたのか、楽しそうでそれは何よりですと思って、じゃあこれは大丈夫なやつかなと思っていたらケタケタ笑う声が聞こえてきた。
「どうしますか?迎え、来られます?」
「え」
「はは、聞きます?」
ちょっと待ってくださいねと言う声の後にガサガサと音が聞こえて。そこから微かに聞こえたのは「・・しょおくうん」と俺を呼ぶ小さな小さな甘い声だった。あー、それはアウトじゃない??
「あ、聞こえました?」
「はいw」
「どうします?住所送りましょうか?」
「えっと、可能ならお願いします」
「大丈夫ですよ、すぐ送りますね」
「もうすぐ出れるんですぐむかいます」
「おー、さすがですね、了解です」
それからすぐに家から出て車に向かい、送ってくれた住所を入れ込んで足を運んで連絡を取れば駐車場に案内された。戸田さんは俺をみるとニヤニヤと笑って。それから「わざわざご苦労様です」と頭を下げた。
「あ、いや、すみません、住所俺なんかが知って」
「全然です、早かったですね〜」
「あ、電話してた時には準備してたんで」
「・・さすがです」
少し話をしながら彼女について行ってたどり着いた部屋。失礼します、と挨拶をしながらも彼女の後について部屋に上がらせてもらえれば見えたのはソファーの前で床に座って机に倒れるみぃちゃんの姿だった。うわ、すご。みぃちゃん酔ってこんなふうに寝るタイプなんだ。
「みぃって平野さんの前で酔ったことあります?」
「あ、いや、ぼくがあんまお酒飲まないんで」
「・・おー、じゃあ心強く持っとかないとやられますよ」
「え?」
「酔ってるみぃ凶器ですから。あ、ちょっと電話かけてきます。起こしといてください」
そう言ってニヤリと笑って電話片手に部屋から出て行ってしまった戸田さんにポカーンと固まってしまって。そのままゆっくりみぃちゃんに近づいて隣にしゃがむ。スヤスヤ気持ちよさそうに頬を少し赤らめて眠る彼女の寝顔があまりにも愛おしくて可愛くて。手を伸ばしてその白い透明な頬にそっと触れた。柔らかいマシュマロみたいな肌にぐっと熱くなる気持ちを抑えることで精一杯だった。
「・・、みぃちゃん」
「・・・」
「、みぃちゃーーん」
そのまま頬をツンツンしても彼女が起きることはなくて。「おーい」と口をツンツンとしても「んっ、」と息を吐くだけで。あ、ちょっと眉間に皺が入った。なかなか起きない彼女の身体を軽くゆする。
「みぃちゃーん、お迎えですよ〜」
「・・・」
「みぃちゃーん、紫耀くんきたよ〜」
「・・・しょーくん?」
ゆっくり開いた大きな瞳。トロンとした目で俺を捉えて数秒。それからみぃちゃんの瞳が半月型になって、そしてふにゃりと笑顔になった。
「ふふ、あれ、しょーくんだ」
「っ、」
「えー?なんでぇー?」
「わ、」
ニコニコ笑ったみぃちゃんはそのまま起き上がると倒れ込むように俺の方へと抱きついてきて。首に手を回されぎゅーっと抱きつく彼女を受け止めるけど突然のことに尻餅をついてしまった。
「ちょ、待って待って」
「すごーい!しょーくん会いたかったんだよ〜!」
「え、ちょ、」
「しょーくーーーん」
「うん、紫耀くんなんだけど、ちょっと一回離れて?」
「やだやだ」
「いや紫耀くんにも色々事情があるからさ」
「・・ぎゅー嫌?」
「・・・いや、大好きです」
「じゃあいいじゃん、ほら、ぎゅーは?」
「・・・・なにこれなんのご褒美?」
ぎゅーっとぎゅーっと抱きしめられて。みぃちゃんの柔らかい体が俺の体とくっついて。いやいや待て待て待て。マジでこれなに?俺何したかな。なんのご褒美なんこれ。
「あ、起きました?」
「いや、起きたの?これ、」
「あはは、やばいですよね、酔うとくっつき魔なるんですよねこの子」
「・・・なんだその凶器」
「みぃー、またお兄さん方に怒られるよ〜」
「ええ?」
「ほんとごめんなさい、みぃお迎え来たから荷物まとめるからね」
「んーーー?」
「みぃちゃん立つよ?帰ろ?」
「えー、帰んないよ?えりかのとこ泊まるもん」
「泊まりません、せっかくお迎えきたでしょ?」
「えー、やだよぉ、えりか私のこときらいなのぉ?」
「大好き。だから今日は帰ったほうがいいの」
「んーん、かえらない!」
そう言って駄々こねるみぃちゃんにため息をつく戸田さんにはマジで悪いけど、無理だ。駄々こねてるみぃちゃんめちゃくちゃ可愛いじゃん。無理。多分俺ずっとにやけてると思う。なにこのレアみぃちゃん。酔ったみぃちゃんこんなにふにゃふにゃになるなんて知らなかったし。可愛いすぎる。危ないこれは。
「・・って言ってますけど、どうします?」
「・・・みぃちゃん」
ゆっくりおれの首に抱きついてるみぃちゃんを離して目を合わせればその潤んだ大きな瞳とぶつかって。あー、この潤んだ瞳を一体今までどれぐらいの男が見てきて、どれぐらいの男が恋に落ちたんだろうと思うと胸が少し切なくなった。
「俺と帰ろ?」
「・・・」
「みぃちゃんの家まで俺に送らせてよ」
「・・・」
「だめ?」
「・・・・、なんで、むかえにきてくれたの?」
「え?」
「いったじゃん、わたしは、ひとりの、つよい子だから、だいじょうぶって」
「・・・」
「あまやかさないで、ほっといて。どうせ、みんなわたしから、いなくなるくせにっ、」
そう言った彼女の瞳からは大きな雫がぽとりと落ちて。そんなみぃちゃんにぎゅっと胸が切なくなって。苦しくなって。彼女の涙を指で拭っても拭ってもその涙は止まることなくて。みぃちゃんが俺から離れようとしたけど彼女の腕を掴んでそれを止める。
「好きだからだよ」
「、っ、」
「好きだから迎えに来たの」
「、やだっ、」
「俺のこと信じてよ、みぃちゃん」
そう言うと彼女は顔をぐにゃりと歪めて顔を隠してしまった。そんな彼女を包み込むように抱きしめてそーっと頭を撫でる。何がそんな不安なのみぃちゃん。何がそんなに涙を流させてるの。俺みぃちゃんを笑顔にするためならなんでもするのに。どうしたら笑ってくれる?
「・・・、」
それから彼女は泣き疲れたのは俺の腕の中で眠ってて。どうしようかと上を見上げればなんとも言えない顔で笑う戸田さんがいた。
「つれて帰ってもらっていいですか?」
「あ、はい、荷物貰います」
「いや私持っていきますよ。みぃ頼みます」
「あ、すみません、じゃあ、、みぃちゃんちょっとごめんね」
彼女の膝に手を回し抱き上げる。なにこの軽さ。こんなに軽いの。ちゃんと食べてる?心配だわ普通に。そう思いながらみぃちゃんを抱き上げて俺の車へと向かう。そのまま戸田さんもついてきてくれたから車の助手席に彼女を座らせて戸田さんから荷物をもらおうと頭を下げた時だった。
「あの子のいうとおり、1人で今まで頑張ってきた子です」
「・・・」
「色んな嫉妬や醜い感情を全部ぶつけられてきて、悔しい悲しい辛い思い沢山してきてる子です」
「、っ、」
「自分のことは大切にしない、常に人のために動いちゃって自分の気持ちにはバカほど鈍感な子です」
「・・、」
「私はそんなみぃには世界一の幸せ者になってほしい」
「、」
「どうか彼女を傷つけないでください、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げられたので慌てて俺も急いで頭を下げる。そんな俺にケタケタ笑った戸田さんは「気をつけて帰ってくださいね」と言って帰って行った。戸田さんの言葉がまっすぐ俺の心に響く。うん、わかってる。ちゃんと理解してるつもり。彼女がいかに友達から大切に思われているかすごくわかってる。前までは思ってた。心から彼女みたいに。どうかみぃちゃんが世界で1番幸せになりますようにって。けど今は違う。
「・・俺がしたいんだよ、幸せに」
俺が彼女の隣で幸せにしたい。そう思うから、だから俺も半端な気持ちじゃないことだけは彼女にどうか伝わればいいと願う。
「みぃちゃん、家着いたからねぇー」
夢の世界に入ってしまった彼女の肩を揺らせばゆっくり開く瞳。ぼんやり俺を見る顔は多分まだ思考が働いていない。だから調子に乗って彼女の頬を優しく撫でればみぃちゃんは困ったように眉を下げた。
「部屋の前まで送るよ」
「・・ううん、だいじょーぶ」
「うそ、大丈夫じゃないよそれは」
「ううん、ほんとうに。たぶん、わたし、しょーくんとはなれたくなくなっちゃうから」
「え」
「ありがとう、また、ちゃんとおれいさせてね」
「、っ、ま、「おやすみ、しょーくん」」
そう言ってぎゅっと彼女に抱きつかれて。それからみぃちゃんはへにゃりと笑うと扉の向こうへといってしまった。固まるのは俺の方。一気に視界が歪む。なにそれなにあれ。本当にずるい。ちゃんと一線引くくせにああいうことは言ってくるんだもん。マジでずるい。
「・・・寝れねぇし」
ねぇみぃちゃん。何を怖がって何が不安なのか俺らには色んなものがついてるからわかるけど。けどいつか2人でただただ笑い合えたらいいな。ぎゅっといつかみぃちゃんをこの腕の中に入れれたら幸せなのに。そんなこと思いながら帰った帰り道。熱くなった顔はしばらく冷めないままだった。
どうか僕だけのお姫様になって、
(・・これはみぃから電話くるだろな)
(どした?なんかあった?)
(みぃに怒られるなーっていうおせっかいしたの)
(・・あの子にはそれぐらいがいいんじゃない?)
(、そうかな)