プライベート7

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こんなにも幸せな日はないと思った。俺の隣で最高の笑顔を見せてくれるみぃちゃんに今死んでもいいやって本気で思えるほど最高の時間だった。

(あ、すみません、僕キンプリの平野紫耀なんですけどちょっとお願いしたいことがありまして、)

元々サプライズは好きだった。人に何か内緒ですることは楽しくてワクワクする。それでもこんなにも楽しいのは初めてだったかもしれない。これを思いついたのは12月に入ってからだった。そういえばまたMステで彼女に会えるなって思ってたけどみぃちゃんいわくその日はかなりバタバタしてるらしい。前みたいにゆっくり話せる時間はないと教えてもらいその日にプレゼントでも渡すのは無理だと諦めた。年々彼女に対しては貪欲になっていく俺は、最初はクリスマスに会えるのラッキーだなー、ぐらいで。それからクリスマスにメリークリスマス言えて良かったなー、になって。そしたらクリスマスにみぃちゃんにプレゼント渡したいって思って。渡せたら今度は、クリスマス当日に会いたい、直接顔見たいってとこまで言っちゃうんだもん。さりげなく彼女に欲しいもの聞いて、さりげなくその日のスケジュール把握して。あとはマネージャーさんにお願いして荷物だけ預かってもらってて。仕事終わってすぐに新幹線に乗り込んで彼女がいる元へと急いで向かった。

(紫耀、くん、なんで、)

みぃちゃんっていつも俺より一つも二つも上をいってるからこんなに、俺でアタフタとしてるのは初めてで。それが面白くて嬉しくて仕方なかった。あー、このクリスマスでみぃちゃんが今この瞬間、俺で頭いっぱいになってるんだって事実に心が弾んで、それだけで俺ここ来てよかったーって思ったのに。聞こえてくる鼻を啜る音と、心からの言葉の数々にすぐにまた貪欲になる。あー、会いてぇー。やっぱり顔見てぇー。直接その顔見て涙拭って抱きしめたい。きっと自分ならそう思うだろうと思ってここまで来てた過去の俺を褒めてやりたい。そこからはまるで爆弾のように身体をかけめぐる熱い気持ちを抑えることに必死だった。

(っ、紫耀、くんっ、)

ライブ終わりだからきっとシャワー浴びたあとなんだろうなって感じて一瞬で目が合った瞬間、ドキドキが止まらなかった。初めて見たから。彼女のお風呂上がり。髪の毛めちゃくちゃサラサラで。化粧もしてないのか少しだけいつもより幼くて。けど肌とかめちゃくちゃ綺麗で、え、化粧しなくてこれってなに?って聞きたくなるぐらい。近づいて来たみぃちゃんから、俺の胸の中に頭を預けたみぃちゃんから、シャンプーのいい匂いがして一気に顔が熱くなった。それなのに本人はどうやら自分がお風呂上がりなのを気にしていて少し困った顔を見せるから。本当に愛おしい、ってこんなに胸がぎゅーっとおさえられる気持ちになるんだなって知る。

「わ、みぃちゃんここイルミネーション綺麗じゃない?」

「、本当だっ、すごー、、」

本当は外に出て一緒に歩きたいけどそれが出来ないのはお互い名前も顔も知れてるからで。俺らの職業上仕方ないことだと思う。後でみぃちゃんに迷惑かけるのも嫌だし、車の中で我慢だけど隣でキラキラと目を輝かせ嬉しそうに電球の数々に目を奪われる彼女を独り占めできるのはなかなか良いものだった。すげぇ嬉しそう。やばい、これは、かなり嬉しい。前のキラキラしたものみるより隣のこの人の顔見る方が輝いてて飽きないわ、そう思ってずっと見ていれば俺の視線に気づいたのかバッチリとみぃちゃんと目が合って。

「ふふ、綺麗だねっ、」

「・・うん、超綺麗」

みぃちゃんが、ね。あー、やばい。ドキドキ止まらないっていうかこの音隣のみぃちゃんにまで聞こえてないから心配になる。死ぬ死ぬ。幸せすぎて。そんなこと思いながらあちらこちらに歩いてる幸せそうなカップルに俺もなかなか負けてないぞ、と調子に乗ってみぃちゃんの方に手を伸ばしてその手の上に自分の手を重ねてみた。

「・・ん?」

優しく笑うみぃちゃんにたまらない気持ちになって、そのまま指を絡めてみぃちゃんの手を俺のほっぺたに持って来てぴたりとくっつける。

「・・俺さ、ずーっと憧れてて。いつもクリスマスってライブとか舞台があって、ゆっくり過ごさないからさ」

「・・・」

「まぁ今日も仕事がなかったわけじゃないんだけど、けど、こうしてイルミネーション見にいくとか憧れだったから、夢がちょっとでも叶って嬉しい」

「、・・」

「ありがとう、みぃちゃん。一緒にいてくれて」

この人がどんだけ人気なのかは理解してるつもりで。この人が一体今日いくつのメッセージとお誘いを貰っていたのかもなんとなく予想はできる。それでも俺とこうして一緒に過ごしてくれてるのに感謝しかないし、俺の言葉に目を潤ませて笑ってくれるこの空間は、きっと、サンタさんが俺にくれたプレゼントなんだと思った。

「私こそ、ありがとう」

「、」

「こんなにも、素敵なクリスマスを過ごせて、幸せすぎておかしくなりそう」

そう言って今度はみぃちゃんが悪戯っ子みたいな顔して俺の手を逆に引っ張って自分の頬にぴたりと当てるから。そんな彼女に出た言葉はいつも届けてしまう言葉だった。

「好き、すげぇ好き、」

「っ、」

「あー、このまま連れ去りたい」

いつもなら、私もだよ、なんて言って笑ってくれるのに今日のみぃちゃんは目を丸くして固まったまま動かない。それから少しして、みぃちゃんはゆっくり瞬きをして、そして「紫耀くんにならいいかもね」と笑った。

「ほんと?もうそれサンタじゃなくて誘拐じゃん」

「あはは、確かに」

「そんなことしたらマネージャーさんに二度と会わせて貰えない気がする」

「そうかな?私そんなガード固くないよ?」

「はぁ?めちゃくちゃ固いよ?周りも本人もね」

ほんと、早く俺のものになればいいのに。そんなこと思ったけど、けど、今はまだそれを言えないのはタイミングとか、なんか俺の本能的に今じゃないって言われてる気がしたから。けど人間ってマジで貪欲すぎてひくよね。どんどん欲張りになってくるからこの気持ちがいつ爆発するか今でもギリなのにこの先わかんないもん。

「うん、ちゃんと考えてるから、ちょっと待ってね」

「・・え?」

「ごめんね、歳を重ねると、臆病になっていっちゃうの」

「・・・、」

「大丈夫、ちゃんと考えるから」

えっと、それどういう意味。今までと少し違うみぃちゃんの言葉と雰囲気に固まったまま動かないでいると、彼女はふわりと笑って。それから俺の鼻をチョンと指でつついた。

「サンタさん固まらないでよ」

「・・いや、だって、」

「紫耀くん、本当にありがとう」

「、」

「今度は、私もプレゼント渡しに行かせてね。ちゃんとオシャレして会いにいくからね」

「・・、うんっ、」

「クロサギ終わったお疲れ会もしてないしね」

「・・マジだ。俺みぃちゃんに1日もらえるんだった」

「うん、また考えようね」

「初詣出も行こうね一緒に」

「あはは、約束どんどん増えてくね」

本当はみぃちゃん、俺少し不安だったんだ。クロサギで頭いっぱいいっぱいでひたすら目の前のことがむしゃらにやってたから、それが終わって大きな穴が空いたように思っちゃって。あー、今から俺は何をどこまで頑張れるのかな、なんて感じて。やることいっぱいあるけど何からしてどうしたらいいんだろうって。そんなふうに考えてたらたまらなくみぃちゃんに会いたくなって。ただ会うだけで俺はきっとまた歩き出せるって確信してたから。そしたらやっぱり今こうしてみぃちゃんと過ごすだけで自分が強くなれるのがわかったよ。

「みぃちゃん、これが俺からの最後のプレゼント」

「っ、」

「メリークリスマス、大好きだよみぃちゃん」

車の後ろに隠してた花束を取って最後に彼女に渡せばみぃちゃんはまた涙をポロポロと流して。それからお花に顔を埋めて、そして俺を見てそれはそれは可愛い笑顔を見せてくれるものだからこっちまで泣きそうになった。来年は、来年の今日は、あわよくば彼女と想いが重なってますように。彼女の隣に違う立場で立てていますように、そんな願いはワガママなのかな。彼女をまたホテルまで送ってから家まで帰ったけど、家に着いて鏡見てびっくりした。あまりにも俺の顔が赤く染まってて。うわ、よかった、暗くてってそう思うほど。携帯を開いてすぐ写真を開けば今日の彼女の写真や、新たな写真で溢れている。やばい、幸せすぎて泣ける。お姫様独占したんだけど。

「・・もう会いてぇ、、」

ああ、サンタさん。今年はなんて素敵なクリスマスだったんだろう。本当にありがとう。そんなこと思いながら彼女から届いたメッセージにさらに顔が緩んだのだった。


甘い甘いキャンディー、


(みぃちゃん、メリークリスマス。
紫耀サンタからのプレゼントだよ。
たくさんの愛を込めて…… 平野紫耀)

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