プライベート7
□私だけのサンタさん
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「あ、もしもし!?」
「もしもーし。」
「紫耀くん!今私その、びっくりしてる、んだけど、」
「あはは、うん、落ち着いてよ」
「いや、だって、ホテル、帰ってきたらなんか、マネージャーに、渡されて、」
「よかった〜無事に届いて!マネージャーさんに盗まれたらどうしようかと思ったよ〜」
私の片手には携帯。私の目の前には箱と一通の手紙。名古屋のライブを終えればマネージャーさんからこっそりホテルに荷物届いてるんで部屋に着いたら教えてくださいと不思議なことを言われて。それに意味がわからず聞き返したのになぜかふんわりとしたことしか教えてくれなくて、とにかく早めに帰ったほうがいいかもですと言われてしまったので皆よりひと足先にホテルに帰ることにした。マネージャーに送ってもらって部屋に着けば、すぐにマネージャーに紙袋を渡されて。
(・・なにこれ、)
(僕も詳しくわからないです、すみません)
恐る恐るその紙袋を除けば中には箱と赤色の封筒が入ってて。それにびっくりして封筒を開ければその手紙には、想像もしてなかった名前と言葉が並んでるものだから驚いて。急いで紙袋の中の箱を開けるとそこには私の好きなブランドのコスメが入ってた。うそうそ、まってまって。え、嘘だよね。え、待って。あとあの人今ドラマ終わったばっかで、え、頭が追いつかない。震える指でとりあえず急いで携帯を開き彼の連絡先を押してみればすぐに出た声。そして話は今に至るわけだけど、なかなか追いつかない思考で言葉がうまく出てこなくて。そんなテンパっている私が凄く面白かったのか紫耀くんの高笑いが携帯から聞こえる。
「ちょっと!大丈夫?みぃちゃん思考停止してない?」
「う、ん、だいぶしてる」
「紫耀くんサンタさんからプレゼントだよ〜」
「っ、」
「みぃちゃんライブお疲れ様。メリークリスマス」
「、っ、ありがとうっ、本当に、」
ここ最近の彼の言葉と全てが一気に全部繋がった気がした。そういえば名古屋のホテルの泊まる場所の話もしたし、なんか名古屋のツアーの日程の様子も聞かれた気がする。打ち上げするの?とかメンバーとそのあと何かするの?とか。けれども別に紫耀くんは普段から色んなことを聞いてくれる人だから、別にそれに変に違和感もなくて。このために少し前から色々調べて動いてくれてたんだなって。すごくすごく忙しい中で彼が私のために動いてくれてたって、思うと、
「サプライズ成功?」
「うん、さすが、クロサギ、まだびっくりが止まらない、ドキドキしてるもん」
「へへっ、ごちそうさまでした♡」
先日までやってた彼のドラマのセリフまでばっちり言われてしまえばもう何も言えなくなってしまった。あー、これは完全に負けた。去年は私もMステの楽屋でプレゼント渡せたのに。今年のMステはライブ前日でそんな暇もなくギリギリに入って歌って、そのまま名古屋に向かっちゃったから。だから紫耀くんにも会わずで、プレゼントは買ってたんだけど渡す時間なんてないから後で渡そうなんて呑気に思ってた。これは綺麗にやられてしまった、一本とられた。そう思ってベットに腰掛けもう一度手紙を手に取り、彼の特徴のある字で書かれた文字をゆっくりとなぞった。
「ドラマクランクアップしたばかりなのに、ありがとう」
「うん、無事終わったよ〜」
「プレゼントも、凄く嬉しい」
「みぃちゃんそのブランドのそれほしいって言ってたもんね」
「、言ってたかな、覚えてない、やっ、」
「言ってたよー?俺ね、意外とこういうの出来ちゃういい男なんだよね〜」
「・・いい男すぎるよ、手紙も、嬉しいっ、」
じわじわと体全体に染み渡っていく彼の優しさ。私なんかのために時間と労力を使ってくれたと思うと胸が張り裂けそうな熱いものが溢れて止まらないの。今、そんなことしてる余裕なんて絶対ないのに。大変なのはあなたの方なのに。どうして私がこんなにもしてもらえるのか、本当に、私、どうしたら、この気持ちを返せるんだろう。そう思うと自然と涙が溢れて溢れて止まらなかなってしまって次の言葉が出てこなかった。
「・・だめだよ、みぃちゃん。俺がいないところで泣くのはだめ」
「っ、泣かせてるの、紫耀くんでしょ?」
「ははっ、そっか、確かに」
「こんなの、泣かないほうが無理だもん」
「だったらごめんね。俺もっと無理にさせちゃうかも」
「・・え?」
「みぃちゃん、ちょっとだけでいいから外出てきてって言ったら困る?」
「、待って、うそ、でしょ、」
「紫耀サンタとドライブでもしませんか?」
涙が止まらないまま、その言葉にとにかく服を軽く着替えて(部屋着で出るのは流石にやだもん)コートを羽織り、携帯の通話は切っちゃダメって言われたからそのまま繋げたままで外に飛び出た。待って待って。それはずるいよ紫耀くん。嘘だよね、ドッキリって言ってよ。そう思って乱れる髪も息も気にせずに言われた駐車場に降りれば、止まっている車の中の一台、黒い車の前に人影が見えて。小走りでそこに向かえば携帯を耳に当てた彼とバッチリ目が合って。
「っ、紫耀、くんっ、」
「・・めちゃくちゃ泣いてるじゃん、」
優しく微笑まれたから足を進めて彼の元へ向かう。紫耀くんも小走りで私に近づいてきてくれて、そのまま私の前にくると困ったように笑って。そして涙を親指で優しく拭ってくれた。そんな彼に視界が歪んでさらに涙が溢れて止まらない。
「止まらないじゃん、みぃちゃん泣き止んでよ」
「っ、ずるい、紫耀くんっ、」
「サプライズ2回目〜」
「、わざわざ、名古屋まで、来てくれたの?」
「俺だって実家だからね。新幹線でぴゅーって来て実家の車乗ってホテルまで」
「、忙しい時にっ、」
「えー、みぃちゃんの方が忙しいじゃん、ライブお疲れ様。ここ寒いよね。早く車乗「紫耀くんっ、」
早く車に向かおうとしてくれた紫耀くんの腕を引っ張ったのは無意識だった。びっくりしてる紫耀くんの胸にぎゅっと抱きついてしまったのも衝動的だった。
「、紫耀くんからのプレゼントも手紙も、本当に嬉しかった」
「っ、」
「電話しながら、無理だけど、会いたいなーって、そう、思っちゃってたから、だから、今、嬉しくてっ、」
「、」
「こうして、会えて、触れられて、本当に、嬉しいから、ありがとうっ、どうしよう、この気持ち今、どこまで伝わってるの?」
ちゃんとこの気持ちが伝わるのか、言葉ではもう伝えきれないぐらい嬉しいこの思いがあなたに全部伝わってほしいのに、うまく涙で話せないのが悔しい。泣いてる顔みられるの恥ずかしかったから顔を隠すように彼の胸に顔を埋めてしまったから。だからすぐ我に返って離れようとした時、ぐっと紫耀くんにそのまま引き寄せられてふわりと頭に手を添えられ優しく抱きしめられた。
「ありがとう。すげぇ伝わってるよ、大丈夫」
「ほ、んと?」
「うん、それに俺も会いたくて来ちゃったからね」
「っ、」
「みぃちゃんのその顔、見ないのなんて勿体ないし」
「、紫耀く、ん、」
「俺はサンタなんて無理だったね。プレゼント受け取った顔見ずに過ごすなんて絶対無理だったわ」
「、っ、」
「俺こそさ、みぃちゃんのクリスマスの貴重な時間くれてありがとう」
「・・っ、なに、それ、かっこよすぎる、」
「必死にかっこつけてるもんだって」
「、ずるいっ、私、こんな、オシャレもできてない格好なのに、紫耀くんだけ、かっこいいなんて、」
「えー、何それ。めちゃくちゃ可愛いのに」
本当にどこがかっこいいんだろう。オシャレもできてないライブ終わりのシャワーだけ浴びて髪だけ解かせたこのノーセットの髪の毛。ノーメイク。ライブの行き帰りだけって思ってたから気合いも入ってない私服。こんな姿なのに彼の目にはどう映ってるんだろうか。それともサンタさんがクリスマスに魔法をかけてくれているのだろうか。彼の目に少しでも私がキラキラと映ってくれているのならいいのに。
「いやマジでさ、俺出会ってから一回もみぃちゃんって可愛くないときとかないからね?ほら、体冷たくなってきてるから行こう」
それからはまるで自分がお姫様にでもなったのかと錯覚するような時間だった。車にエスコートして乗せてもらって。そして紫耀くんの運転で名古屋の夜の街をドライブしてもらって。彼が買ってくれてたあったかい紅茶を飲みながら、車の中から見るイルミネーションは本当に綺麗だった。けれどもそれ以上に私の隣で笑う彼の笑顔がキラキラと輝いていて。あー、きっと今私がこの世界で1番幸せだなって思えるぐらい。こんなもう心がドキドキと弾んで踊ることなんて私には一生ないだろうなってそう本気で思ってたから。だからことあるごとに感動して涙が溢れそうになる私に、紫耀くんは困ったように笑いながらも頬を優しく撫でてくれてた。
「みぃちゃん、俺世界で1番今幸せだと思う」
「ううん、それは違うよ紫耀くん」
「え?」
「私が世界で1番幸せだから」
今年のクリスマスはファンの人の声も3年以上ぶりに聞けて。メンバーとも幸せに無事に過ごせて。おまけにこんなに素敵な魔法までかけてもらって。今日この時間をこの日を私は一生おばあちゃんになっても忘れないだろうなって、そう思った。本物のサンタさんなんていらないよ。ただこうして私の隣で笑う彼が来年も隣にいますように、そう願うだけだから。
メリークリスマス、私だけのサンタさん
(紫耀くんずーっと私からの連絡待っててくれたの?)
(待ってたけど、大体終わる時間はマネージャーさんに教えてもらってたからね)
(クロサギすぎない?)
(あ、もう言わないから笑 何言わせようとしてんの)
(私あの言葉好きなんだもん、言ってよ〜)
(やだよ〜だ)