忍若
□すれ違いラブ
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若がインフォメーションセンターについて呼び出しを頼んだ時、受付嬢のひとりがさっきの方じゃない、と侑士がここへ子供を連れてきたことを教えてくれた
ああなるほど、と理解し、待ち合わせ場所をまた最初の場所に指定しインフォメーションから去った
園内に侑士の名前が響き渡る
しかしまだ観覧車から若をみつけらず焦っている侑士の耳には放送など届かなかった
しかたなく観覧車の出口で若を待った
観覧車、とだけ指示してしまった以上そこを離れるわけにはいかない
改めて携帯の偉大さに気付いても時すでに遅し、だ
そうしてそのまま30分がたった
2人とも苛立ちはMAX状態である
若は何いいかっこつけて自分が迷子になってんだよ、と着信履歴のない携帯をのぞく
侑士は目の前で転んでアイスを落としてしまった少年が泣きながら年配の女性につれられていくのをみて、若もちっさい時、あれくらい可愛いかったんやろなあ、などと悠長に構えていた
根負けしたのはもちろん若の方だった
もうこれは放送をきいてなかったにちがいない、ともう一度観覧車に向かった
「あっ!」
2人同時に声を上げた
とたんに若の目付きがするどくなるのをみて、侑士は観覧車ってメールしたやんと逃げ腰で笑ってみせたが、若は園内放送までかけたんですよ、とにらんだ
「嘘やん、めっちゃ恥ずかしいやんか、」
誰か知り合い来とったらどないするん、と若のせっかちな性格を非難した
「もう3時半なんですけど、」
若の言うとおり、午後からのタイム割り引きで入場した客で5メートル先も見えない
「あと一個乗り物乗って帰る、」
若は侑士の問に首をふって、すっかり温くなったペットボトルを侑士に渡した
「こんなはずやなかったんやけどなあ、」
苦笑いして謝る侑士に若は携帯ちゃんと管理してくださいよ、と注意した
はいはい、と返事をしながらせっかく買ってきてくれたスポーツ飲料水を飲む
「ほなでよか」
若が頷くと侑士は若の手を取った
若は驚き手を引いた
「大丈夫、この人混みや、気づかれへん」
「そういう問題じゃないでしょう、」
「ほな、このままバス停までダッシュや、そしたら不自然やない」
おしたりさん、と叫んで手を振りほどこうとしても、侑士はしっかりつかんでいて離してもらえない
耳が熱くなっていく
心なしか愉しそうな侑士が憎たらしい
バス停に近づくと人気は一気に少なくなり、さすがに侑士も手を離した
握られていたぬくもりが残る手の平をながめ、ほっとしたような、そのくせ少し寂しいような気になる
「あと10分でくるわ」
時刻表から若のほうを振り返ると若は目を反らして口をとがらせていた
「なあ今日なんでここきたかわかる、」
侑士は若の顎を掴んで顔を正面に向けさせた
それは若がわからなかった問だ
知りませんよ、とあごにそえられたままになっていた手を払うと、侑士はため息をついて、ああ、ホンマにこんなはずやなかったのになぁ、と首を傾げた
「なあ、今日最後の休みやで」
「それが、」
「俺は受験、お前は部活、お互いゆっくり会える日なんかなくなる」
やから今日は楽しく過ごせるはずやったんやけど、と侑士はくせ毛の黒髪をくしゃくしゃにした
「ごめんな、俺のミスプランやった」
若は呆然とした
そんなこと考えもしなかったからだ
だったら楽しもうとしなかった自分の方が悪いのではないか
若は唇にぐっと力を入れて頭を下げた
「あんた、わかりにくいんですよ」
こんなときも素直になれない自分が嫌いだけれども、侑士にはどうしても甘えてしまう
「バスきたらまたゆっくりはなししよか」
侑士の穏やかなほほ笑みに若ははい、とたまにしかみせないはにかみ顔で応えた
「日が沈むまでにはまだまだ時間ありますしね」
若のその言葉に侑士はぐいと若の頭を胸に寄せた