忍若
□死神の蝋燭
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「いったいいつまで嘘をつき続けるつもりだ」
ソファで偉そうにふんぞり返っている死神が言う。
侑士はわざと無視した。
侑士は若を治せる手段がまだ残されているように思えた。
その根拠は侑士が死神から預かる生き残る患者に稀に処方する白い粉だ。
これを何とか必要な量集めることができれば。
その粉末は僅かずつしか手に入れることができない。適量を飲ませることで回復を早めることができると説明されていたため、死神からはいつもその適量にあたる分しか受け取れなかったからだ。
時間がかかりすぎるかもしれないとも思えたが、わずかな可能性にかけたかった。
「毎日来てくださらなくてもけっこうですよ」
若が庭に目を向けながら侑士に言う。
「日吉君の病気は一日一日で重くなったりする。だから毎日進行具合を診ておきたいねん。ごめんやけど…」
そこまで言ったとたん、若は言った。
「助からないんですよね。自分でわかってます。」
侑士は黙りこくった。
振り返った若は何も絶望している様子もなくきれいなすまし顔で笑みすらうかべていた。
「死ぬのなんて怖くない。今までやりのこしたようなものもないし、これからの生き方に夢いっぱい胸にふくらませて生きてきたわけでもないから」
淡々と語る若のほうをぴしゃりとはたいた。
若はただただ驚いていた。だが侑士はきつい目つきであほなこというたあかん、と怒鳴った。
「死ぬのがこわないやて?俺はこわいわ。自分の大事な患者がなすすべもなく死んでいくんをただみとくしかできひんなんか」
そこまで言って侑士は口に手を当てた
「やっぱり」
若は顔を歪めて笑った
「すいませんが今日は、もうおひきとりください」
侑士はやけど、と食い下がった
「絶対治したるから」
絶対に。
死を怖がらないといっていた若の貌がいつまでも心に焼き付いていた。
やがて庭の桜がつぼみをつけるころになっていた。
この時期は世の中がはるうららと華やかになるが、体の調子を崩す人間が急増する季節でもある。
相変わらず死神の言うとおり患者を診続けていた侑士だったが、今日は自分でもゾクゾクするほどにことが思うように運んだ。
奇跡的な気さえしていた。跡部のくれる不思議な白い粉をついに若の分までためることができたのだ。
これであの子の治療ができる、そう思うと慌ててそれをポケットに突っ込んだ。