忍若
□舞い、散る、命
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「忍足さん、何とか俺と跡部隊長を二人にできませんか」
「わかった。背中は全部俺にまかしとき。」
若は跡部の名を叫んだ。
背中からキンキンと刀の討ち合う音が聞こえる。
ゆっくりと跡部がこちらを振り返る。
まるでスローモーションのような瞬間にも跡部の碧眼の瞳はきらめいていた。
「どうした、びびってんのか、あん?」
悠然と体をひねり、向き合ったとたんに圧倒される。
「アンタの1番隊長の座、たった今から、奪わせてもらいますよ!」
跡部は高笑いした。
一秒でも目を離せばそこには死が待っている。
消して視界から離さぬように若しは努めた。
うまい具合に間合いをとれたところで跡部が壁にかかっていた刀を抜いた
若は上段の構えを取り思い切り振りおろした。
キン
刀と刀がぎりぎりとぎらめきながら力の差を教えてくる
「1番隊の座に何の価値がある」
跡部は口元をにやけさせると袈裟切りで若の刀をはじいた。
「わかってねぇな、てめぇは」
「何を」
「俺もお前も生まれてくる時代を間違えてきちまったってことだ」
若は二本目の刀をぬいた。
「若、剣が好きかよ、」
今更何を、と再び近づくも跡部は刀を畳に突き刺すと、もろ肌を脱いで両手を広げた。
「なぜ剣を!」
「テメェの目指すところはもうとうに時代遅れになってんだよ。刀の時代はもう終わった。こんなもんはもうお飾りの棒切れになっちまうってんだよ」
それは若もまた薄々気が付いていたことだった。
ただ自分の信念がそんなことを認めなかった。
「刀の時代とともに俺は消える、最高じゃねぇの」
若はこのまま跡部を斬るのが正しいのか分からなくなってしまった。
「日吉!なにしてるのさ!はやくやれ!」
滝の怒号に唇をかんだ。
強く噛みすぎてぷつりと血が流れた。
「ひよし、見ててやろうじゃねぇの、テメェのこれからを、」
変革の時代の中でどう成長していくのかを
若の目には涙がにじんだ。
それから後のことはすっぽり記憶からぬけきっていた。
気がつけばちまみれの羽織で跡部をくるみ、抱き込んでいた。
「日吉、大丈夫か?」
忍足が肩に手を当てると若は泣き崩れた。
「ようがんばったな、」
溢れるなみだを拭えば視界に入ってきたのは残酷すぎる世界だった
「弔いをさせて下さい」
「駄目だ、罪人を他の殉職者と並べることはできない」
「罪人にしたてあげたんだろ、あんたらが!あの人は一番隊の隊長だった!」
若の訴えは他の志士たちの心を動かした。
「俺からも頼むわ」
「俺も俺も」
「俺もだ」
滝はさらさらの髪をくしゃくしゃにまぜながらわかったよ、すきにしなよと喚いた。
「忍足さんありがとうございました」
「なんや今更気色悪いな」
「茶化さないでくださいよ、ほんとに感謝してます」
「ほうか、ほな貸しにしとくで」
忍足はくつくつ笑って、跡部の墓、ええとこあるでと歩いていった。
若はそのあとをあわててついていった。