忍若
□舞い、散る、命
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「なんで日吉がここにおるんや」
月は完全に隠れ、夜の暗闇がさらに深くなった頃、ひそかに集まった志士の中に、本来ならいるべきではない人物が二人まざっていた。
「長太郎は俺が人払いに声をかけておいた」
宍戸の説明に滝は小さくため息をつくと、仕方ないね、と若の前に立った。
「俺たちがこれから何をしにいくのか解ったうえでここにいるんだろうね」
「わかってます。」
若は跡部さんには借りがあるんで、と滝を見下ろした。
「お前の個人的な事情なんてどうだったいいのさ。要はここにいるからには、当然、お前も一緒に墓に入るつもりでいるんだろうねって聞いてるんだよ」
そろった志士たちの間に湿った風が駆け抜けた。
「腕の一本くらいなら冥途の土産にくれてやってもいい気持ちでいます、何か問題がありますか」
ひとしきり悩んだ挙句、滝はわかった、と日吉を一緒に連れて行くと伝えた。
「反対はせぇへんけど、お前にやれるんか、相手は」「跡部さんだからこそいかせてほしいんです」
「さよか」
けどと忍足は続けた。
「少しでも変な動きとったら俺がお前を斬らなあかん。それだけはさせんといてや」
と若の肩を掴んだ。
「それが俺を呼ばなかった理由ですか」
黙り込んだ忍足の腕を払うと若は話し始めた。
「俺は確かにあの人の生きざまに憧れ、あの人の背中を追って生きてきました。命を救われた恩すらある。それでも戦場で血しぶきに紛れて尚、まるで楽しむように剣をふるう姿に恐怖すら感じたことだってあります」
それでも跡部さんを見続けてきた俺だからこそわかることもあるんです、と鞘を固く握った。
「あのひとはもう氷帝組の中だけで満足できるひとじゃなくなってる」
忍足は悔しそうに話す若の頭をくしゃりと書き撫でていくで、と足を速めた。
跡部の宿泊施設に到着したのは夜も更けきった午前三時だった。
「一気に討ち入る」
滝の号令で引き戸はけり破られ、静まり返っていた宿舎にあわただしさが一気に広がった
屏風を斜めに切り落とせば、その向こう側から上半身裸の跡部の姿が現れた。
「随分早い朝稽古じゃねえの、ああん、」
若は跡部の護衛役の志士たちが剣をとる間もなく斬られていくのをみていることしかできなかった。
先ほどまで目的一緒に剣をふるい、酒を酌み交わしたよく見知った仲間だ。
「日吉!」
忍足のこえに我に返り、刀を抜いた。
(俺があんたを自由にしてあげますよ)
若は奇声を上げた