蓮仁蓮
□不幸福
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たまたま居着いていた街で、偶然にも俺は忘れようにも忘れようのなかった男、柳蓮二の姿をみつけた。
最初は自分の目を疑ったが、上背の高さ、黒い髪に栄える白い肌。
どう疑ってかかって見ても、柳以外の何者でもなかった。
多少、酒の入ってたこともあるが、もう会うことは叶わないだろうと思っていた男を目の前にして、俺のテンションは、最高潮だった。
だから柳がどんな悲壮感溢れる顔つきをして突っ立ってようが、そんなことはお構い無しに声をかけた。
適当に選んで入ったパブで、柳は酒を浴びるように流し込みながら、苦しい今の状況をこぼし始めた。
弱音を吐くなんて、俺の知っている柳じゃ、考えられないことだったが、柳は苦悩を飲み込むように酒を口に運び、呼吸と共に吐き出すように語り続けた。
そして一旦、喋りだしたらとことんじゃべり尽くしてしまうのが柳でもある。
その辺はあんまり変わってないらしい。
俺はその間、うんうんと相槌だけうって聞いていたが、柳の零す話をにわかには信じられない気持ちで、聞いていた。
すっかり自信を喪失し、うなだれる柳を見ていると、人生なんてそんなもんじゃろ、なんて軽口は叩けなかった。
「もう妻との復縁は難しいだろうな…」
かすれるような声でつぶやく、憂いを帯びた横顔を見ていると、なんとか手を貸してやりたい、立ち直らせてやりたい、そんな良心的な気持ちと、忘れようと押し込んできた自分の気持ちが織り交ざり、俺は今日の再会が運命的だったのだということにして、柳を部屋に連れ込むことにした。
安物の酒に悪酔いしたのか、柳は部屋に着くなり、気分が悪いとソファにぐったり倒れこんだ。
俺がキッチンから水をくんで、柳の元までもってくるあいだに、柳はネクタイを引き、シャツのボタンをふたつ三つ外してうなだれていた。
あいもかわらぬ白い首筋とあらわになった鎖骨を目にした途端、理性はぶっ飛んだ。
「柳、酒のせいにして、今日あったことは全部なかったことにしたらええ」
俺は柳のために汲んできた水を自分の口に含み、息苦しさから半開きのままになっている柳の唇を覆った。
行為を持ちかけられていると柳はまだ気づいていないのか、何の抵抗もなく、コクリと鳴る喉の音を聴いた。
メンタル的に落ち込んでいるせいか、舌を捩込んでも、性的な意味合いと捉えられないようだった。
「大丈夫だ、自分で飲める、」
柳は俺の髪をわしづかみにして頭を離すと、端からこぼれ、伝い落ちた雫を拭った。
相手がその気にならないからといって、こちらの熱が冷めてくれるわけじゃない。
俺は柳のベルトを手荒く引っ張り抜いた。
スラックスの前を開きだしたころになって、漸く柳は俺のしようとしていることに気づいたらしく、よせ、と両手で俺の手首をきつく掴んで止めた。
「どういうつもりか知らないが、俺の事はもう放っておいてくれないか、…機能していない、もうずっと、」
手首を掴んでいた柳の両手からは一気に力が抜け、なげすてるように俺の手を離した。
「相手が悪かったちゅうこともあるなり」
「そんなはずがあるか」
「そりゃ、やってみりゃわかるぜよ」
柳は盛大にため息をついて、俺は何故お前に話してしまったんだろうな、と眉をしかめた。
そして、諦めたようにもう好きにしてくれ、と長い指で顔を覆った。