蓮仁蓮

□人格障害
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 おとなしめの性格と、秀才ならではの口ぶり、特異な容姿に加え、何かに興味を持った時の執着心、解析までの集中力。
 それら全ての他人とは異質な蓮二の存在は、誰からも到底理解されることはなく、蓮二はいつも一人だった。
 俺はというと、太い黒縁の四角い眼鏡をからかわれることはあれど、それなりに決まった連中とふざけて遊んだりする、要するにごくごく普通の子供だった。
 蓮二と親しくなるきっかけになったのはテニスだった。
 俺達は同じテニススクールに通っていて、蓮二はずば抜けた才能を備わる事なくラケットをただ握っただけの俺とダブルスを組むことになった。
 余り者同士がくっつけられた、そういう組み合わせだった。

「何の取り柄もないんだけど、よろしく」

 俺の差し出した手を蓮二は黙って見ていた。

「悔しくないのか」
「え?」
「乾貞治といったな、俺達のような何の取り柄もない人間でも、天才に勝れる可能性があるものがひとつだけある」

 蓮二はそういうと、俺が差し出した手をしっかりと握って、俺達は俺達のテニスをすればいい、そういって微笑んだ。
 俺は蓮二が女の子みたいな顔つきをしているくせに、俺よりずっと気が強くて、男らしい性格をしているのを知って、もっと蓮二の事を知りたくなった。

 それからの俺達はいつも一緒だった。
 俺は蓮二の考え出したデータテニスを会得する為に、スパルタ式とも言える特訓と、解析法を、何度叱られ、詰られようともひたすら蓮二を信じ、受け続けた。

「いけるぞ、貞治、俺達は誰にも負けない、絶対に、」

 蓮二がそういうと、不思議に本当にそう思えた。
 そして、余り者同士のダブルスはジュニア大会最強のダブルスになっていた。



「すみません、乾貞治君ですね、」

 蓮二は夏が終わるのと同時に神奈川へと引っ越して行った。
 突然の別れに俺は戸惑いながらも、なんとか青春学園中等部テニス部に所属していた。
 テニスを続けてさえいれば、またきっと蓮二とは出会える。
 例えその時は敵同士だったとしても。
 そう信じて俺は蓮二に教わった通り、俺のテニスを続け、そして更に、蓮二を越える力をつける為に知恵を絞っていた。

「立海大附属中の柳生…?」

 俺はよもやこんな形で蓮二と再び会う事になるなんて、思いもしなかった。
 
「柳蓮二君の事で少し、貴方の力をお借りしたいのです。」

 そう言って、はるばる神奈川から東京の青春学園の正門までやってきて俺を待ちかまえていた柳生は、ここで立ち話するような用件でもありませんので、と黒のいかにも高級そうな車のドアを引いた。

 自宅まで送られるまでの車内で聞いた話を、俺にはとても信じられなかった。

「私の話が嘘かどうか、ご自身の眼で確かめるのが1番でしょう、」

 そういうと、俺を車から降ろした。

「貴方にだから頼むのです、」

 それでは失礼、とウインドウを閉め、頭を下げる柳生につられ、かるく会釈したものの、長く連絡をとっていない蓮二に会いに行くのはそれなりに勇気がいった。
 なんといっても、俺は何も教えられずに置いてきぼりをくらった身だったから。

(蓮二、君の身に一体今、何が起こっているんだい、)
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