蓮仁蓮
□マリッジ
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雅治と蓮二とはタイプこそ正反対だが、中学時代からなにかと細やかなことで興味感心が重なることが多く、今ではお互い気を許しあった仲といえるほど親しいわけでもないのに、大学を出てから引っ越した蓮二の一人住いに、雅治は週三回ほど押しかけてくるようになっている。
だいだいそういった折には、蓮二が追い出せないような手土産をきっちり用意してくるのだから、蓮二も今では雅治が来ることを拒んでいない。
雅治が蓮二の部屋を自由に行き来するようになって何度目かの冬、蓮二はいつものように仕事にでかけ、雅治はいつものようにベッドでぐずぐずしていた。
「出かけるならいつもの場所に鍵を」
「うん、ちっくとでかける」
低血圧でおそらく頭痛を起こしているのだろう雅治を気遣って、蓮二は殊更ゆっくりとドアをしめた。
蓮二が仕事を定時に終え、いつもの時間、ぴたりと違わず帰宅すると、部屋は真っ暗だった。
でかけるといっていた通り、部屋に雅治の姿はどこにもない。
きちんと定時に帰宅したのには、理由があったのに。
蓮二は部屋の明かりを点し、ソファの傍のガラステーブルに荷物を置いた。
テーブルには雅治が残したらしいメモがあった。
見知らぬ教会の名前が書いてある。
目につくよう置いて行ったところからして、迎えにこいと言うことなのだろう。
蓮二はコートを脱ぐこともできず、車のキーを握った。
目的地はどのくらいの人が訪れるのか疑問に思うほどに古い教会で、蓮二は遠慮がちにドアをノックした。
返事はない。
しかたがないので、そっと開けて中を覗いた。
教会内は思いの外ひろく、高い天井にはりめぐらされたステンドグラスは年代物のように感じられた。
雅治は何列にもならぶ参拝者用の座席列の最前列中央にひとりすわっており、こちらを振り向いた。
「こんなところで何をしている」
「結婚式」
蓮二は意味が解らないという表情で首をふりながら、雅治のもとへと進んだ。
雅治はゆっくり立ち上がると、目の前にある張り付けにされたキリスト像の前に立った。
「汝、このものを妻として娶り…」
「妻!?」
「こまかいことは気にしなさんな」
雅治は勝手に続けた。
「病めるときも健やかなるときもこの者を生涯慈しみ、守りぬくことを誓いますか、イエス」
蓮二はア然としたまま仁王の横顔を見ていた。
「さあ参謀の番じゃ」
雅治の瞳はそれまで蓮二が見てきたどの彼のものとも違う、優しさ、温もりがあって、まるで蓮二に魔法にかけようとしているような力を感じた。
これは雅治が無理をいったりして蓮二に甘え、何かお願い事をするときの感じに少し似ていたが、でもなんだか違う。
蓮二はそれがなんだか知りたくて、雅治の仕掛けたこのままごとに乗った。
「汝…、この者を妻とし…」
「妻がふたりじゃおかしいじゃろ」
蓮二は笑った
「こまかいことは気にするな」
「まぁえぇ、続けんしゃい」
「病めるときも健やかなるときも、この者を大切に慈しみ、生涯守りぬくことを誓いますか」
蓮二がそこで考え込むように口をつぐむので、雅治は肩肘で蓮二の肘を小突いた。
「ノー」
「なんでじゃ阿呆!」
夫婦とは互いを信頼しあい、助け合える1番の存在同士でなければ、と笑いながら話す蓮二に、雅治はほい、と何かをなげてよこした。
キラリと光り、蓮二の手の平におさまったそれは、誓いの証だった。