蓮仁蓮
□マリッジ
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「おまえ…」
「心配せんでもサイズはばっちりじゃ」
「違う」
「金はあとでバッチリ請求するからの」
蓮二はあきれた顔をして、雅治の瞳を見下ろした。
「そんなんじゃない」
静けさを取り戻して行く教会に、魔法は今にも解けてしまいそうだ。
「本気なのか」
「神さんの前でこんな大層なおふざけしたらバチが当たるぜよ」
蓮二にはにやにやと笑う雅治の口許が、いつもの彼がみせる悪戯めいたものにしかみえず、手の平に輝く、およそマリッジリングとは言い難い、パキッシュな紋様の施されたシルバーのリングを見た。
「参謀、手出しんしゃい」
雅治はサラリと蓮二の左手を掬い上げ、薬指にきれいにリングをおさめてしまう。
ほら、と差し出された雅治の左手を、蓮二はぼんやり見ていただけだったが、やがてその白い手をとり、蓮二も雅治の骨張った指にリングをはめた。
「誓いのキスを」
蓮二は眉をひそめたが、雅治はきっとこの式をきっちり終わらせる気だ。
こういうときの雅治はたいてい頑固で、多少むりやりにでも我を通そうとする。
しかたがないので、雅治の前髪をさっとなであげ、額にキスをした。
雅治は不満そうな顔をして、蓮二の襟元をひっ掴み、唇をよせてきたが、蓮二はそれを許さなかった。
唇をかすめ頬にとどまったキス。
なんで、とつぶやくように囁く雅治の声が耳元でくすぐったい。
「勘弁してくれ」
蓮二は耳まで真っ赤になっていた。
「シアワセにしてくれる?」
おどけてみせる雅治の言葉が蓮二の頭の中でこだまする。
まるでふたりが決して離れられない運命なのだと定められてしまう呪文のように。
蓮二は雅治の髪をなでた。
「帰ろう」
早くかえらなければ行けない理由があるんだ、という蓮二に雅治はぴたりと言い当てた。
「バカタレ、お前さん冷蔵庫に入れてこんかったんか」
蓮二は一発弾けて帰ろうおもとったのに、と口を尖らせる雅治の尻を叩くと、雅治の肩を抱き、もう一度、帰るぞ、と促した。
ガラステーブルには雅治の誕生日を祝うはずだったホールケーキが、今宵の魔法のせいで、ウエディングケーキになって待っている。