蓮仁蓮
□死神よ、こんにちは
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「誕生日パーティー?」
先だっての会食が不興に終わったことを気にしていた切原の声かけで、幸村の自宅ダイニングにはすでに切原とジャッカル、仁王、柳生が席についていた。
切原は一際明るい声を出して言う。
「最近、社長なんか疲れてるっぽいし、各界のスターなんかよんだりして、ぱぁっと派手に遊んでストレス発散したほうがいッスよ」
丸い瞳を爛々と輝かせ、幸村のイエスを待っている姿は、まるで幸村の飼い犬のようだ。
けれどもこの飼い犬は幸村だからこそ飼いならせているといっていいほど、獰猛な一面も持ち合わせている。
幸村はため息を漏らすように苦笑すると、祈るように手指を組んで、テーブルに肘をついた。
「疲れてる、か…、確かにそうだな。お前の好きなようにすればいいよ」
「お前のって、社長の誕生日じゃないっすか」
もっと喜んでくれると思ったのに、と口を尖らせむくれる切原には申し訳ないが、幸村にはパーティー当日までの自分の命が保障されていない。
それを思えば、どうしても上機嫌で乗り気にはなれなかった。
しょげ返る切原を気遣ったのはジャッカルだった。
俺も手伝うから、と声をかけたが、切原は気持ちの切替が早く、すぐに俯いていた顔をあげた。
「ま、いっスよ!俺に任せてください、すっげえ楽しいパーティーにしてみせますから」
自信たっぷりに言うと、ニカリと子供っぽく笑う。
ジャッカルは常日頃から切原のこういった失敗を怖れず、また、いつまでもくよくよとしない姿勢に勇気付けられてきた。
はめを外し過ぎたり、世話の焼ける所もあるけれど、いつだって手を貸してやりたいと思ってしまう。
まるで我が子を見守るように慈しんだ瞳で切原を見守るジャッカルに、幸村は苦労をしょい込み過ぎだ、と呆れ顔で言ったことがあった。
「楽しみだな」
「蓮二」
ダイニングに入って来た蓮二の姿を目に留めると、幸村はどこかほっとしたような面持ちで蓮二の名を呼んだ。
蓮二は呼ばれるままに幸村の側へと歩み寄り、こめかみにひとつキスを落とすとすぐ隣に着席した。
「今日は話して貰えるのか?」
一呼吸置き、蓮二がからかうように声をかけたのは、それまで退屈そうにスプーンをくるくると回して遊んでいた仁王へだった。
仁王は少しの照れを含んだような、それでいて悪戯を企む少年のような顔つきでニヤリと笑い、もちろん、と答えた。
蓮二がその答えに満足し、頬を緩ませ、はにかむように笑うので、幸村は咎めるように仁王を睨んだ。
しかし、そんな視線にもおかまいなしの仁王に対して苛立ったのは幸村だけではなかった。
蓮二と仁王の間に挟まれ、二人の間に漂う砕けた雰囲気を目の当たりにした柳生は眉をピクリとひと跳ねさせた。
中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、静かに仁王の方へと首を回した。
蓮二の知る限り、これは柳生の癖のひとつで、やや警戒心をもって、相手の素性を探ろうとしているときのものだ。
「社長とは一体どういったお知り合いなのですか?」
差し支え無ければ是非、と尋ねる柳生の質問は、テーブルを囲む幸村以外の全ての人物が気にかけていたことだった。
多くの視線を浴び、仁王は答える。
「契約してる」
「契約、」
柳生は幾分驚いた様子だったが、直ぐさま幸村の方を振り返ると、そういったことでしたら、と話しの矛先を幸村に向けた。
蓮二も仁王の思わぬ答えに手を止め、あいかわらず薄笑みを浮かべ続ける仁王を黙って見ていた。
「社長自らお相手せずとも、私がお話を致しますよ、跡部財閥との件で手詰まりだとお思いでしたか」
柳生の発言に反応したのは仁王だった。
「俺と幸村との契約じゃ」
「…一体どういう意味です?」
柳生は少し顎を引き、ちろりと眼鏡の上からのぞきみるように仁王をみた。
冷ややかな眼差しに、怯むことも無く、仁王はぼそぼそと空気が抜けていくように話す。
「お前さんには関係ないきに」
仁王の不敵な笑みは柳生の神経を逆撫でし、柳生はきゅっと口を結んだ。
「…失礼、このような席で仕事の話など、申し訳ありませんでした」