忍若
□認めたくないですが
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日曜のデパートは人集りがすごい
「プレゼント何にしますか」
若は侑士のほうをみないで陳列品を眺めた
帽子やストール、手袋、レギンスなど女性が群がる中にも滝に似合いそうな物はたくさんある
元々中性的な滝だからこそプレゼントに最適なものが多すぎて決められない
「香水とかは、」
若はじっとりと横目でにらんだ
「さすが女性慣れしたひとの答えですね」
浮気の上手なひとは自分と同じ香水を皆にプレゼントするらしいですよ、と侑士のネクタイを引っ張った
「嫌やったらこんな俺止めといたらえぇねん」
若は俺はまだもらってないですから、と意味深に笑ってみせた
「日吉には香水似合わんよ、それに日吉の匂いってあるんよ、」
俺はそれがすき、と平然と答える侑士の言葉に若は真っ赤になった
熱が耳まで伝ってふいと横を向いた
「今ちょっとどきっとした、」
と侑士がきくと若は侑士の顔面をおもいきり平手で潰した
「認めたくないですが、俺はこれでもアンタがすきなんですよ」
若はセックスがあまりすきではない
正気を失って喘ぐだけになっている時間はなるべく少なくしてほしいと伝えてあったし、侑士も負担をかけるとわかっている分、それを承知していた
むしろ、ままばたきほどの僅かな時間だからこそ、ひとつになれることが気持ちよいのではないかと感じていた
だからすぐそばで呼吸するごとに香る若の匂いがすきなのだ
「…滝さんに香水プレゼントするなら俺にも同じ物をプレゼントしてくださいよ」
若が本当にフレグランスコーナーに行こうとするのを侑士が抱きすくめて止めた
「何やってんですか」
「自分狡猾すぎるわ、滝には地下でクッキーの詰め合わせでも買おう」
ヘアケアにもうるさそうやしふれんほうがええやろ、と後ろから若の両肩を掴んでエスカレーターまで方向転換した
「何言ってるんですか、無難にすまそうとしたの丸分かりですよ、お菓子なんて」
「もとから滝の誕生日プレゼント選びなんか無難に済ます気やったし」
日吉と一緒におれたら理由はなんでもええねん、と笑う侑士の満面の笑みをみた若は長いため息をついた
「プレゼントは紅茶にしましょう、ブレンドしてくれるみたいですし」
若は店員を呼び寄せるとひなたの陽だまりをイメージさせるような香りにブレンドできますか、と店内へ逃げ込んで行った
侑士はそんなんあるか、それ日吉の匂いやし、と口元を緩めた