忍若

□すれ違いラブ
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侑士の中学最後の夏休み、8月31日、侑士と若は遊園地にいた

「なんで遊園地…」

若がぼやくのは人混みが嫌いだからだ

「たまにはええかな、思って、」

侑士は窓口でもらったチケットを若に手渡した
侑士と若はいつもならこんな男2人だけでいくようなところになんていかない
映画やボーリング、アウトレットでウィンドウショッピングなんかがお決まりだったのに、今日は何故か侑士が遊園地に行こうといい出した
誰に見られているわけでもないのになぜだかきばずかしさを覚え、少しはなれて歩いた
夏休み最終日ともなって家族連れやグループ交際のカップルが目立つ
何乗る、と侑士がきけば、なんでもいいですよ、と返事が帰ってくるのはわかっているので、とりあえずアレいこか、と侑士は好きな映画のアトラクションを指差した
掲示板には80分待ちのランプが点灯している
この80分をどう乗り切るつもりなのかと思っていると、侑士はデジタルオーディオをとりだしてイヤホンの片方を差し出した

「冗談でしょう、」

若は目をパチクリさせてそれを拒んだ

「だって長いで、音楽聞いといたらまだマシやとおもうけど、嫌、」

若はあきれた
どこにイヤホンはんぶんこして聴きながら並んでる男2人組がいるのか、とつっこみたかったが、音楽の趣味が違ったら意味ないですよ、と断ることにした
若なりの気遣いである
ほな日吉にはDSでももってきとくんやったなあ、とわらう侑士を見て、それも小学生みたいでどうかと思った
結局2人で侑士たち3年の引退後の部活の話をしながら進むうちに順番が回ってきた
アトラクションは10分足らずで終わった
楽しいときは早く過ぎるもので並んでいた時間に比べて短すぎるくらいだった
だからといって待ち時間の間もそれほど長く感じなかったのは侑士が聞き上手だったからだろう

「なんか飲み物買ってきます、ここにいてください」

待ち時間に喋りすぎたと思った若はばつがわるい気持ちがして売店に向かった
侑士はその背中を見送ってそのまままわりを見渡した

すると一人女の子がないているのを見つけてしまった
侑士は声をかけるか迷ってしばらく様子を伺っていたが、他に声をかけてあげる人が出て来ない
しかたない、と日吉はまだ戻ってきそうにないので、女の子の元に向かった

「どなしたん、」

女の子は侑士をみあげると涙をポロポロ零しながら上を指差した
木の枝に風船がひっかかっている
侑士は風船が割れないようそっと糸を引いた

「はい、お母さんはどこかわかる、」

女の子は涙を拭いながら首を振った
侑士はさあ困った、ともう一度売店のほうを振り返ったが若の姿はまだみえない

侑士は一緒に探したるな、と女の子の手を取ってインフォメーションまで連れて行くことにした
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