忍若

□夏
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暑い。

うなだれて横になるそばでこめかみに汗にぬれた髪をはりつけて眠り落ちる侑士がいる。
ベッドに備え付けられたデジタル時計を見れば、室内温度は33度を表示している。
試しに窓をあけてみても風は入ってこない。
エアコンをつけようか悩む。
侑士が風邪を引くかもしれない。
どうしたものか、途方に暮れていたが、ぐじゃぐじゃになっていたタオルケットを侑士に肩までかけて、とうとうエアコンをつけた。
そもそも寝苦しくないのかと濡れた黒髪を耳にかけてやる
眼鏡をつけてない眠り顔は整って美しい
若は同じようにタオルケットに潜り込んだ
エアコンの風が冷たくて心地よい

「うん…なんや…もう起きとったん、」

うわ、汗びっしょりや、とかけてやったタオルケットを日吉に譲り、ベッドから離れた

「日吉まだ休む、一緒にシャワー」
「浴びません」

日吉は枕を投げつけた
侑士はひょいと避けて気がむいたらおいで、と部屋を出て行った
独り占めしたタオルケットは侑士のにおいがする
目を閉じれば身体を合わせたときの侑士のかおが思い浮かぶ
日吉は飛び起きた
鎮まっていた熱がまた火照りを帯びてくる
足は自然とバスルームへと向かっていた

「きたきた」

来るとわかっていたとでもいうようににやにやされて肩を押した
侑士の腕が伸びて腰をだかれる
照れ臭くて額を首もとに押しつけた
頭からぬるめのお湯が降り注ぐ

「どなしたん、」
「なんでもないです、よ」
日吉が最後までいいおわるまでに腰を撫でていた侑士の手指が日吉のそれに触れたのだ

「まだたりんかったみたいやな、」

ごめん、と耳打ちされると一気に全身がかっと熱くなった

「触るな」

侑士の手を払いのけ、これでもかというほどぎゅっと抱きついた
キスがシャワーのように降り注ぐ
耳たぶをあまがみされると声が漏れそうになった
なんで好きになったのかわからない
どちらかといえば嫌いなタイプだったはずなのに

「おし、たりさん」

侑士はぬれた日吉の顔を拭うように撫でながらキスをぐっと深めた

「愛してるってこんな感じをいうんかな」
「そんなの知りませんよ」

侑士は可愛くない、と笑った
この笑った顔が大好きだなんて死んでも言ってやらない

どこか遠くで花火の音が聞こえる

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