蓮仁蓮
□不幸福
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俺は立海大から特別待遇で海外の一流大学に編入した。
その後、大学を首席で卒業し、エリート商社マンなどと言われる程度の年収を稼げるようになった俺は、いい年頃になったころ、専務から紹介された一人娘のご令嬢を妻に、ともらった。
それは誰もが羨み、勝ち組人生を一直線に猛進していると妬みひがみも受けるような道のりだったが、常日頃から真面目にひたすら努力を惜しまなかったな俺からしてみれば、与えられて当然のポストだと思えた。
昼間は的確な指示を飛ばす司令塔として社を引っ張り、部下からの信頼も厚く、そつなく仕事をこなす優秀なビジネスマン。
休日には妻を労い、家事を手伝う良き夫としてあろうと努めてきた。
だが、ハロウィンのオレンジが賑やかな夜のショッピングロードに、俺は今、とてもそんな愉快な気分には浸れずに立ち尽くしている。
妻は俺が昔、理想の女性像は、と聞かれた時に答えたとおり、「計算高い女」だった。
俺は彼女と結婚すると決めた時点で、妻として愛しみ、生涯大切に養っていこうと思って娶った。
彼女ももちろん愛していてくれたはずだった。
しかし彼女は生まれ育ったその瞬間から大富豪の一人娘だったために、仕事中心で真面目すぎる俺を退屈な男で、つまらない男だと認識したらしい。
俺は妻のために自分なりに努力はしてきた。
しかし妻にはもっと他に、パーティー会場や貴金属の展示即売会など、誘惑に満ちた場所がたくさんあり、俺の出張中に出会った男と不倫関係をもち始めた。
最初はまさかと信じられない気持ちで注意深く様子を伺っていたが、紛れも無い事実だと知り、
やむなく妻と向き合った。
しかし妻は恋人を作ったことを認め、その上で離婚するつもりは無いと言って、高飛車な態度で俺を見下した。
どこからだ
一体どこから間違えたんだ。
妻に別れる気が無い以上、俺にはまだやり直しはきくんじゃないかと捻れたレールをもとに戻そうと考えてしまう。
しかし大抵の女は見切りをつけた男を再び愛することなど出来ないものだと聞く。
それから俺は妻との間に知らぬ間に出来ていた埋まらない溝を埋めようと努め、会社でも家庭でも気の休まることの無い毎日を送り続けた。
そして今日、この夜、遂に歩みは止まってしまった。
町は幸せそうな老若男女。
一人周りを見渡して、ついこの前まで羨望のまなざしをよせられていた自分がなぜ、とただただ立ち尽くす。
「お前さんなんか憑いとるね。」
罪作りな男じゃ、そういって突然声をかけてきたのは、懐かしい人物だった。
中学時代に出会って、共にテニスで汗を流したチームメートの仁王雅治だ。
懐かしさに思わず顔を綻ばせた俺達は呑みながら話そう、と連れ立った。
昔話に時を忘れ盛り上がっていると、仁王はふと尋ねてきた。
所帯持ちがこんな時間まで呑んどってええんか?と。
俺の表情が急に硬くなったことに気づいた仁王は、ウチで呑みなおそ、と腰を上げた。
「話し相手くらいなるぜよ」
俺は今まで一度足りとも帰宅が遅れたり、外泊することになりそうな時に、妻に連絡をいれておく事を怠ったことはなかった。
だが今日は携帯電話の電源を切り、仁王の後をついていった。
それでもまだ、少しの罪悪感を感じながら。